

高齢の方のお宅に伺うと、ゴミを溜め込んでいる、もったいないとほとんど捨てない、食事をあまり摂っていない…などのケースが時折みられます。
なぜ執着してしまうのか、実は複雑な心理的・身体的状況が絡み合っているのです。
そのようなときどう向き合えば良いのか、精神科病棟で6年間勤めておりました看護師の知見から解説いたします。
正体のひとつは、うつ病だった?
異常な節約をしてしまうことや、もったいなくてゴミですら捨てれないという症状は「貧困妄想」と呼ばれています。これは「うつ病」における三大微小妄想のひとつです。

うつ病などの気分障害は高齢者では女性に発症することが多く、また高齢者は「貧困妄想」や「心気妄想」に発展することが多いとの研究報告がなされています。
高齢者のうつ病の症状には、
- 身体合併症を発症しやすい
- 環境や心因からの影響が多い
- 病像が非定形(人によって様々な症状が現れる)
- 薬剤の副作用が出やすくなる
という特徴があります。


と思う方もいるかもしれません。しかし「貧困妄想」が強くなってしまうと、家族にも倹約を強いたり身体が低栄養状態になってしまうなど、身体的にも社会的にも問題が生じます。
貧困妄想とは
「貧困妄想」とは実際には経済的な心配はないのにも関わらず、お金が無いと心配になってしまうことを言います。
お金を使ってしまったら、将来の貯金が無くなってしまうかも…という不安に駆られてしまうのです。
そのためお金を使うことに極端に不安感や恐怖心を抱いてしまいます。
不安が引き金であるため、「貧困妄想」はどんなにお金を持っていても起こり得ることなのです。
ではそのような妄想症状が出る前に、高齢者のうつ病を見抜く方法はあるのでしょうか。
「老年期うつ病」の特徴とは
高齢者のうつ病は、人によって症状が異なり鑑別が難しいとされています。
また高齢者の場合うつ病と認知症が合併したり、うつ病で認知症状がでたりする場合もあります。
しかし、成人のうつ病と異なる特徴もあります。
- 身体的な症状が出現しやすい(嘔気、食欲不振、肩こり、耳鳴りなど)
- 焦燥感や不安感が強い
- 妄想が出やすい(前述)
- 不眠になりやすい
- 認知機能障害が現れる可能性がある
などです。特に身体的不調が全面に出やすいのが特徴で、病院に行っても異常がないとのことであれば精神的な不調も考えられます。

なぜ「老年期うつ病」を発症してしまうのか
老年期に起こる様々な喪失がうつの引き金を起こします。
- 親しい人との死別
- ライフイベントの変化(退職、子どもの結婚など)
- 身体的不調(体力の衰え、疾患など)
- 経済的な喪失(退職後の収入など)
そうした様々な経験から、うつを発症しやすくなってしまうのです。
ではうつ病について、どのような治療方法があるのでしょうか。
治療方法
しっかりと服薬する
前述の通り、高齢者のうつ病では薬剤の副作用が出やすい傾向があります。
しかし近年ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などが開発されました。
副作用が従来のものより少ないため、高齢者でも比較的安全に抗うつ薬を内服できるようになりました。

最も大事なのは、それらの処方薬を指示通りしっかりと服用することです。
飲み忘れが続くと、うつ病が悪化する可能性も出てきます。
おくすりカレンダーを用意したり、薬が多い場合は一包化してもらったりもできるので状態に応じて検討しましょう。
十分な休息を取る
不安であると、焦燥感からどうしても落ち着かないという方が多く見受けられます。
まずはしっかりと休息できる空間を整えて、気持ちを落ち着けましょう。

できることから少しずつやる
自分が「なにもできない」と思うほど自分が惨めに感じ、病態を悪化させてしまう原因となってしまいます。
少し症状が落ち着いたら、まずは自分のできる範囲からできることをやってみましょう。
100%完璧を目指すのではなく、50~80%ぐらいの範囲を目指すイメージでやると気持ちが楽になります。

周囲の支えを借りる
今まで自分の力で生きてきた高齢者にとって、人の助けを借りるのは億劫かもしれません。

そして何かおかしいと思えば「あなたはうつ病だから病院に行こう」と決めつけるのではなく、まずは気持ちを汲んだ上で病院に相談してみることを勧めましょう。

もうひとつの原因「認知症」
「認知症」による記憶低下や、見当識障害も原因のひとつです。
記憶力の低下によって、以前もらってきたことを忘れてしまって溜め込んでしまう、収集することによって不安を解消している…人にとって理由は様々です。
そもそも「ゴミ漁り」を行う高齢者にとって、それは本当にゴミなのでしょうか?
本人にとっては宝の山だから、必要だから集めているのではないでしょうか。
現在ご高齢の方々は、物がない時代に様々な苦労されてきた方たちです。使い古したものでも有効活用しようと思う気持ちが強く現れ、それが収集癖へと発展する例も多く見受けられます。

「ゴミ漁り」「物を溜め込んでいる」場合の声掛けはどうすればいいの?
先程も話した通り、本人にとっては「ゴミ」ではなく「必要だから集めている」物品です。
「こんなにゴミを集めて!」など怒ってしまうと、逆上し処分に応じてくれなくなることもあります。
収集しているものを否定しないことが大事です。
否定しない上で、集めている理由などを探ってみましょう。そうすることで、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
実際の対応方法
筆者が以前勤めていた病院で、認知症で収集癖がある方がいらっしゃいました。
常にティッシュを綺麗に折りたたんで上着パンパンに入れており、処分するとまた備品のティッシュを大量に取っていくので悩んでいました。
そこで対応としてティッシュが綺麗であればそのまま入れておき、汚れていれば本人に伝えた上で整理することで収集がかなり落ち着きました。
そこで感じたのが、
- 無理に処分しないこと
- 汚れていると本人も分かれば応じてくれる場合もあること
- 物が十分あると分かれば落ち着く可能性があること
ということです。無理に勝手に処分するのではなく、収集を否定しない上で整理することが大事なのです。
治療方法
認知症薬と、症状に応じて抗うつ薬も併用される場合があります。

まとめ
ゴミ漁りや物を溜め込んでしまうことは、老年期うつ病や認知症など様々な病態が絡み合って引き起こされる症状です。
「もったいない」という価値観が強い高齢者の物を捨てられない・拾ってくる行動には、単なる性格だけでなく、認知機能の低下や心理的要因が複雑に絡み合っています。
対応の基本は、本人の気持ちを尊重しながらも、健康や安全を守るバランスを見つけること。
一方的な片付けや叱責は逆効果であり、少しずつの整理や代替行動の提案が効果的です。

介護サービスや家族会などのサポートを利用しながら、長期的な視点で向き合うことが大切です。
本人の生きてきた歴史と価値観を理解することが、最も重要な第一歩となります。