私が勤務していた交番から近いスーパーでの出来事です。
取り調べを受けていた高齢者は70代後半、万引きしたのは菓子パン1個のみ。
刑事課の人間が高圧的に取り調べをし、高齢者は逆上。取り調べが前に進まなくなっていました。
万引きした高齢者は同じ話、違う話を繰り返し、見るからに認知症だったと言えます。
近年ではこのような事案が多発し、社会問題になっています。ではなぜ高齢者の万引きが相次いで問題になっているのか?
この記事を読んでいる方の中にはこのような疑問をお持ちではありませんか?
- 高齢者の万引きが、最近増えてきているのはなぜ?
- 高齢者の万引きの原因、対策、治療はある?
- 万引きする高齢者の家族はどのように向き合っているの?
元警察官の私も意見も踏まえ、解説していきます。
なぜ高齢者が万引きするの?万引きする原因は?
認知症
万引きする原因の一つに認知症があります。
中でもピック病(前頭葉側頭型認知症)は人格の変化、暴言や暴力などの反社会的な行動をするようになり、万引きを繰り返すこともあります。
私が最初に述べた「あるスーパーでの出来事」はもしかすると認知症だったのかもしれません。
もし仮にピック病であったとするならば、責任能力がない、限定責任であると判断される可能性が高いため、情状を考慮した判決になる可能性があります。
しかしそれは逮捕後の話であって、警察官の立場からすると認知症だろうが関係なく逮捕します。
なぜならば、警察官の仕事は「万引きした事実」を立証することが仕事だからです。
万引きした以上、認知症だろうと「万引きした事実」から逃れることは不可能でしょう。
よって、認知症だろうと他の理由があろうと犯罪者になります。
貧困
高齢者の貧困も社会問題になっていることは聞いたことがあるかと思います。
年金のシステムは崩壊しつつあり、これからもっともらえる年金は減ってくるでしょう。現に、年金のもらえる歳はどんどんと引き上げられています。
高齢者の数は圧倒的に増える一方、少子化により社会保険によって、若い世帯からお金を吸い上げなければならないこのシステムにも限度があります。
これからも高齢者に行き届くお金は減少し、高齢者の貧困は加速していくことでしょう。
高齢者の貧困の加速により、万引きも多発するのです。
孤立
貧困と切っても切れない問題が孤立です。
一見、貧困と孤立は関係なさそうに思えますよね?ところが、高齢者が孤立することも、万引きと大きな関係があります。
家族や友人にも相手にされず、孤独を感じた高齢者は、人の注意を引こうとして万引きをしてしまう恐れがあります。
また、私が見てきた高齢者で万引きする人の中には、高級なブランド物で身を包み、万引きする人がいました。
この方は、現役時代は社会的地位の高い職業に就き、常に自分の周りには人がいたと言います。
しかし、引退してからは自分の周りからは人が離れていき、家族は近くにはおらず、注目してほしくて万引きしたと言っていました。
所持品検査をすると、高級なバックを持っている割には、財布の中にお札はなく、小銭のみでした。
このことから「孤立」は万引きをする動機になると断言できます。
クレプトマニア
クレプトマニアとは、万引きをやめたい気持ちはあっても、やめることができない精神疾患です。
クレプトマニアの特徴としては、自分にとって必要であるもの、ほしいと思うものを万引きします。
しかし、1個で良いものを数個取ってしまったり、必要以上に万引きし、取ったものには興味を示さず、家に置きっぱなしにしたり捨てたりする傾向があるようです。
このクレプトマニアも同様、万引きした事実がある限り、窃盗罪に抵触し、罪に問われることになります。
高齢者の万引き対策2選を紹介
はたして、高齢者の万引きの対策はあるのでしょうか?
悲しいことに、高齢者の万引きは1度で終わることは確率的に低い水準にあり、繰り返すことが多いです。
警察庁のサイトの「高齢者犯罪の実態」ではおおよそ高齢者の6割が2年以内に再犯するとのデータがあります(参考:情勢説明①「高齢者犯罪の実態」|警視庁)。
1度してしまった万引きを、もう1度繰り返すような事があっては身内は大変です。
そうならないためにも、十分に目を光らせておく必要がありそうです。
ではどのような対策があるのでしょうか?
孤独を感じさせない、孤立させない
一番大切なことと言っても良いかもしれません。
孤独を感じさせないことが、何よりも重要な事です。
小まめに連絡を取る、コミュニティーを複数持つ、空いた時間に直接会って話しをする、様々なアプローチ方法があります。
一昔前は大家族、村や町内会などのコミュニティーがありましたが、今ではコミュニティーが崩壊していると言っても良いかもしれません。
何をせずとも住んでいる地域にいるだけで、何かしらのコミュニティーに所属していたのが、今や意識しないとコミュニティーという集団に所属できなくなったのです。
積極的で活発な高齢者なら良いですが、性格的に消極的で内気な人なら、簡単にはじかれる世の中になってしまいました。
まさに、消極で内気な人は、人との会話が少ないため、頭が活性化せず、認知症が一気に進み、さらに孤立する…
なんて悪循環になりかねません。
そうならないためにも、近くの人間が、当事者のそばで寄り添う必要があります。
買い物は一人でさせない
そもそも買い物を1人でさせないことが万引きの予防につながります。
常に人の目を光らせながらだと、万引きしようだなんて思いにくいです。万引きしようものなら、全力で制止するのみですから。
また、一緒に買い物することがハードルが高いと感じるなら、買った後にレシートを見せてもらうというのも有効な手段です。
高齢者の万引きの治療はある?
高齢者の万引きは治療はあるのか?
結論を先に言いますが、万引きが無くなる直接的な治療法はありません。
ただ薬物により症状を抑える薬なら存在します。
メマリー
反社会的な行動をする、暴力的などといった興奮状態の症状を和らげるメマリーというお薬です。
介護の現場でもこの薬はよく使われます。認知症の方に投薬していることがほとんどですね。
これを飲んでる方は施設でも暴れる可能性があったり、介護拒否が強く一人での介助が難しい方が多い印象です。
高齢者の万引き!家族との向き合い方は!?
万引きを繰り返してしまう高齢者の家族は、どのように本人と向き合えばよいのでしょうか?
上記でも述べた通り、孤立や貧困が原因の場合においては、家族や友人、近しい人の協力で多少改善することもあります。
しかし、認知症やクレプトマニアの場合は精神疾患、いわゆる「病気」です。
よって、家族などの近しい人の力だけでは解決しない問題もあります。
専門家に相談
改善の方向性が見えない、または家族が心身ともに疲弊しているような場合は第三者に頼ることを強く勧めます。
当事者であっても、その家族であっても、命だけは決して失ってはなりません。
辛ければ、話だけでも聞いてもらい、専門家に相談しましょう。
「いのちSOS」は24時間、WEBでも電話でも相談を受け付けています。電話番号は0120-061-331です。「おもいささえる」で覚えてください。
また、必要に応じて、心療内科の受診、受診に伴う付き添い、カウンセリング等を検討します。
クレプトマニアなら自助グループがあるので1度参加してみても良いかもしれません。
KA(クレプトマニアクス・アノニマス)やルームK(依存症オンラインルーム)は特に有名な自助グループになります。
また下記はオンラインによる自助グループです。
オンラインのメリットは移動時間がないことです。数少ない自助グループです。
自助グループが開催している場所が遠ければ、経済的にも精神的にも負担は大きいです。オンラインならその分の移動時間も減らすことができるメリットがあります。
万引きによって、逮捕されてしまった後なら、詳しい弁護士に相談するのも良いでしょう。下記の記事を参考にしてみてください。
この時の家族の対応で大切なことは決して高圧的にはならず、本人に寄り添う形が重要になってきます。
例えば、万引きをした事実があるのに認めようとしない場合、「なぜ噓をつくの?」「これで何回目?」と言ってしまいがちです。
気持ちは非常にわかりますが、このような言葉は本人を余計に苦しめ、精神的に不安定にさせ、また万引きを繰り返してしまう要因にもなります。
万引きの再犯率が高いとなれば、家族も必死になるのは当然の事でしょう。
しかし、この悪い循環から脱却するためには、本人の意思も尊重し、なるべく話を聞いてあげることが、一番の近道と言えそうです。
まとめ
いかがだったでしょうか?高齢者の万引きは本人もつらいですが、家族も同様につらいものです。
簡単に孤立しないよう”寄り添う”と言っても簡単なものではありません。
私が警察官だった時、万引きをした高齢者の娘は、しきりに迷惑をかけた店舗や関係者に対し、泣きながら頭を下げていました。
これからも高齢者が増えていくのに対し、高齢者の万引きも増えていくのは確実でしょう。
しかし、このような実態を知っておき、普段のコミュニケーションを多めに取り、異変を早く感じることができたならば、早期に手を打つこともできるのです。
早期に発見できることによって、事前に万引きをしないですむ環境を、作り出せる可能性も十分にあります。
少しでも問題が改善し、良い方向に進むことを願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。