高齢者の敗血症とは?初期症状や自宅で簡単にできるチェック方法をベテラン看護師が解説

高齢者の敗血症とは?初期症状や自宅で簡単にできるチェック方法をベテラン看護師が解説
おばあさん
おばあさん
ただの風邪だと思ったのになかなか治らないわ
症状がどんどん悪くなっている気がするわ

もしかしたらそれは敗血症のサインかもしれません。

高齢者は加齢により免疫力が低下しています。高齢者が敗血症を起こすと命に関わることが多く、とても危険です。日本では年間で推定10万人が敗血症で命を落としているともいわれます。

敗血症が手遅れにならないためには、早期発見と治療が重要です。

この記事では敗血症の症状や予防について、介護施設で働く看護師が経験をもとにして解説します。

敗血症とは

敗血症はどんな病気?

敗血症は感染症が原因で起こる、いつでも誰でもかかる可能性がある病気です。

感染症は、体の中に入った病原体(細菌やウイルス)が増えて、熱や咳などの症状が出る病気の総称です。

人は病原体に感染すると体を守るために免疫機能が働き、病原体と戦います。初めは肺や腎臓など一部で起こっていた感染が全身に広がると、免疫機能が過剰に反応します。

その結果、病原体だけではなく自分の組織や臓器にもダメージを与えてしまう状態が敗血症です。

敗血症になりやすい人

  • 65歳以上の高齢者
  • 慢性的な病気(糖尿病や心疾患)を持っている人
  • がんや悪性腫瘍で抗がん剤治療を受けている人
  • 1歳未満の新生児・乳児

敗血症はなぜ危険なの?

敗血症は早めに治療を行えば回復が期待できます。しかし、治療が遅れると命を落とす危険がある病気です。

敗血症が進行すると危険な値まで血圧が下がり、肺・腎臓・脳などの重要な臓器に血液を十分に送れなくなります。この状態を敗血症性ショックと言います。

血液が足りず、複数の臓器が働かなくなってしまうのが多臓器不全です。多臓器不全は命に関わるとても危険な状態です。

敗血症は多臓器不全にならないように、早めに治療をしなければいけません。

治療開始が遅れると、数時間から数日で亡くなるケースもあります。敗血症の治療は時間との勝負です。症状の変化に注意して、重症化のサインを見逃さないことが大切です。

敗血症の治療

  1. 原因となっている細菌やウイルスに対して、抗生物質や抗菌薬を投与する
  2. 大量の点滴を行って血圧の低下と臓器の障害を予防する

敗血症性ショックや多臓器不全になっている場合は集中治療室での治療が必要です。

下がってしまった血圧を上げるための薬を使うときもあります。人工呼吸器や血液透析など、障害を受けた臓器の代わりとなる治療が必要な場合もあります。

数日前から発熱と腰の痛みがあり、救急車で運ばれてきた80代の女性の事例です。検査の結果は、尿路感染症からの腎盂腎炎。すぐに集中治療室で人工呼吸器と血液透析が開始されました。しかし、多臓器不全が深刻で治療の効果が出ず、翌日にお亡くなりになりました。

敗血症の症状

・悪寒と体のふるえ
・発熱または低体温(36℃以下)
・手足が冷たい
・手足の皮膚の色がまだらになる
・呼吸の回数が多い
・脈が速い
・なんだかぼんやりしている

敗血症は感染症がきっかけで起こるため、初めは風邪の症状と区別がつきません。

何か1つの症状があるわけではなく、肺炎であれば咳や熱、胃腸炎であれば嘔吐や下痢などさまざまな症状が見られます。

初期の症状として多いのは、発熱、悪寒、体のふるえです。

高齢者は免疫力の低下で熱が上がらない場合があるので注意が必要です。そのため、気がつかないうちに症状が進行している場合があります。

職員さん
職員さん
介護施設での事例です。朝、Aさんがなかなか起きてこないと言われ、居室へ様子を見に行きました。Aさんに声をかけると返事はするものの、目を閉じたまま。熱もなく、血圧や脈に異常はありません。でも、手が冷たくていつもより反応が悪いと感じました。すぐにご家族と病院を受診していただいたところ、誤嚥性肺炎から敗血症を起こしていて入院になりました。治療が早く行われたため、1週間ほどで元気に退院してきました。

敗血症かもと思ったらどうする?

感染症や敗血症を疑う症状がみられたら、医療機関を受診しましょう。

「いつから」「どのような症状が」「どのように変化したか」をメモしておくと受診のときに役立ちます。

次のような症状のがあった場合、迷わず救急車を呼んでください!
「意識がなくなる、反応がない」「ぐったりして動けない」「呼吸が苦しくてゼーゼーしている」「顔や手足の色が青紫色」

救急車を呼ぶか判断が付かず迷っている場合

ご自身で判断がつかない場合は、ためらわずに救急安心センター事業、♯7119 に電話して相談してみることをお勧めします。

♯7119 では、看護師や医師、相談員が症状を聞き取り、適切なアドバイスをしてくれます。緊急性があるかどうかについても判断してもらえるので、迷っている場合は、まず電話で相談してみるのが安心です。

重症化のサインを見逃さない!自宅でできるチェック方法

「意識」「呼吸」「血圧」の3つをとくに注意して観察しましょう。

家族の「いつもと違う」「なにかおかしい」という感覚が大切です。

意識

  • いつもよりボーっとしている
  • 話がかみあわない・混乱している、落ち着きがない

呼吸

  • 1分間の呼吸回数が22回以上
  • 息切れをしている
  • 浅く速い呼吸

血圧

  • 収縮期血圧(上の血圧)が100mmHg以下
  • 普段から血圧が低い人は、いつもの血圧より低くなっていないか

敗血症がの初めは「手足が温かくて血圧が低い」状態ですが、進行すると「手足が冷たくて血圧が低い」状態になります

医療機関を受診して自宅で療養している場合でも、「症状がなかなか良くならない」「どんどん悪くなっている」といった場合は、もう一度受診しましょう。

高齢者がかかりやすい感染症

高齢者がかかりやすく、敗血症につながる危険が高い感染症について説明します。

肺炎

インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスなどが原因で起こります。高齢者に多い誤嚥性肺炎が原因となる場合もあるため、季節を問わず注意が必要です。

肺炎を起こす病原体が全身に広がると敗血症につながります。

尿路感染症

尿道口から膀胱までの距離が短い女性に多くみられます。オムツや尿取りパッドを使用していて、陰部が不潔になりやすい人は注意が必要です。

脱水による尿量減少、前立腺肥大による排尿困難などは膀胱炎の原因になります。排尿回数や尿の色やにおいを注意して観察しましょう。

感染性胃腸炎

ノロウイルスやロタウイルスなどが原因で起こります。食中毒が流行りやすい夏や冬には注意が必要です。

高齢者が感染性胃腸炎になると、脱水により重症化しやすい傾向があります。胃や腸に入った病原体が血液に侵入すると敗血症につながります。

褥瘡や皮膚の傷

感染を起こした褥瘡や皮膚の傷が原因で敗血症になる場合も。

高齢者は皮膚のバリア機能が低下しているため、傷口から病原体が入りやすい状態です。わずかな傷口から感染を起こす危険があるため、皮膚の観察をしましょう。

敗血症を予防するには?

原因となる感染症にかからないことが一番の予防です。感染症にかからないために、感染対策をしっかり行いましょう。

また、高齢者は認知症の影響で症状の訴えが少ない場合があります。普段の様子を観察して、家族が変化に気付けるようにしましょう。

病原体を体に入れない

  • 手洗い・うがいをする
  • 下着や服は汚れたら交換する
  • お風呂やシャワーで皮膚の清潔を保つ
  • 外出時はマスクをする
  • 感染症が流行っているときは人混みに近づかない

免疫力を高める

  • バランスの取れた食事をとる
  • 睡眠を十分にとる
  • 散歩など適度な運動をする
  • ワクチンを接種する

日頃の様子を観察する

  • 顔色や表情
  • 普段の血圧
  • 食べる量やスピード
  • トイレの回数、尿の色やにおい
糖尿病や心疾患などの持病がある人は、敗血症を起こしやすい傾向があります。敗血症のリスクを少しでも下げるためには、持病の治療をしっかり行いましょう。

まとめ

敗血症は誰もがかかる可能性がある病気です。進行するとさまざまな臓器に障害を起こすため、早期発見・治療が重要です。

とくに免疫力が低下した高齢者は敗血症を起こしやすく、重症化すると命に関わります。敗血症を起こさないためには感染対策が一番です。

「なにかおかしい」「いつもと違う」と感じたら迷わず医療機関を受診しましょう。

あなたの気づきが大切な家族の命を救います。

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