年齢を重ねると、免疫力の衰えや体力が低下し、感染症にかかりやすくなってしまい、重症化となると、肺炎や敗血症を合併し、命の危険にもなります。
感染症から身を守るためには、普段からしっかりと予防対策を行うことが大切です。
ここでは、高齢者になるとかかりやすい感染症の特徴や、普段の生活で感染症の予防法があるのかについて、ご紹介します。
なぜ、高齢者は感染症にかかりやすいの?
高齢者が感染症にかかりやすい原因は、免疫力と体力の低下の他にも、高齢者介護施設による集団感染といった、環境の影響によっても感染症を引き起こす原因になります。
免疫機能とは、感染症の原因となる細菌・ウイルス・カビ等から、私たちの体を守る仕組みであり、免疫機能が低下すると感染症などにかかりやすくなるだけでなく、悪化しやすくもなります。
免疫機能が低下するのは、加齢により免疫細胞を供給する臓器(胸腺・骨髄等)が衰え、免疫細胞の供給量が減少することが関係していると考えられています。
また、加齢に伴い免疫細胞自体の機能が低下することも原因のひとつです。
免疫低下となるもう一つの原因は、疲労・ストレス・睡眠不足・栄養不足・体調不良等にもよります。
高齢者がかかりやすい感染症について
「感染症にかかりやすいなら、外に出なければいいのでは」と思われている方は、多くいらっしゃるでしょう。
確かに、外に出なければ、病原体をもらってくることはありません。
しかし、同居している家族が感染症にかかると、同じ家の中にいる高齢者の感染リスクが高まってしまったり、高齢者介護施設を利用している方は、施設内で感染症にかかることも。
では、具体的に高齢者は、どんな感染症にかかりやすいのかをあげていきます。
新型コロナウイルス感染症
コロナウイルス感染経路は、「飛沫感染」や「接触感染」、「空気感染」と言われています。
感染すると発熱や呼吸器症状、頭痛、全身倦怠感、味覚障害、嗅覚障害などがみられ、高齢者は重症化リスクが高いです。
秋ごろになると、インフルエンザと同時に肺炎などの合併症も発症しやすいため、気を付けなければなりません。
インフルエンザ
毎年秋の終わり頃から春の初めにかけて、インフルエンザウイルスが全国的に流行し、感染することにより発症します。
感染経路は「接触感染」と「飛沫感染」により感染します。
発症すると、38℃以上の高熱や頭痛、喉の痛み、関節痛や筋肉痛などの症状が突然現れるのが特徴です。
健康な方なら、4〜5日で自然に回復することがほとんどですが、高齢者は気管支炎や肺炎などの合併症を生じやすく、重篤な状態になることも少なくありません。
また、免疫力の低い高齢者がかかると、肺炎や脳炎など重症化しやすく危険です。
肺炎
肺炎とは、肺に炎症がおきている状態のことです。
一般的には外部から病原体(肺炎球菌・インフルエンザウイルス・黄色ブドウ球菌など)が入ることで感染が起こります。
高齢者の多くは、加齢によって飲み込む力が低下することで、自身の口腔内にある細菌が誤嚥によって、肺に入り起こってしまう誤嚥性肺炎です。
また、風邪が悪化して肺炎に進行してしまうことも少なくありません。
主な症状は、咳や痰、悪寒、発熱、呼吸困難、胸痛などですが、高齢者はこのような症状が出ないこともあり、発見が遅れ、重症化と自力で呼吸が困難となり、全身の酸素が不足し、重篤な状態に陥ります。
結核
結核菌による慢性感染症で、「空気感染」により結核菌が体内に入ることで発症します。
多くの方は感染しても発症しませんが、高齢者は発症しやすいと言われています。
結核の症状は、咳と痰(血痰や喀血することも)、発熱、寝汗、倦怠感、体重減少などがあらわれます。
主な病巣は肺ですが、免疫力が低い高齢者は全身感染症となる場合もあります。
高齢者の場合、主に全身の衰弱や食欲不振などの症状と呼吸器症状や発熱などを伴わなうこともあります。
特に、過去に感染した方は、免疫力の低下などによって再発することもあります。
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は、細菌やウイルスなどの病原体による胃腸炎で、患者の約半分はノロウイルスが原因だと言われています。
ノロウイルスは、主に牡蠣などの二枚貝に含まれ、加熱が不十分だったり、手や食器に付着したウイルスが口に入ったりすることで感染します。
主な症状は、激しい嘔吐と下痢の他に、感染者の便や嘔吐物から空気中に飛び散ったウイルスを吸い込むことで感染するほど、とても感染力が強いです。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症)
院内感染が問題となっていて、黄色ブドウ球菌は私たちの鼻や喉の中、皮膚などにも住んでいる菌です。
それが多くの抗生物質に対して、耐性を持ち影響を及ぼし、病原菌となったものを薬剤耐性菌と呼びます。
治療法として、バンコマイシンなどの抗菌薬が治療薬として用いていますが、皮膚の感染症の一つである蜂窩織炎や腹膜炎、髄膜炎など、様々な部位に感染を起こし、他の菌の感染症よりも治療が難しくなってしまいます。
高齢者は免疫力の低下によって、黄色ブドウ球菌に感染すると治療が難しく、重症化することもあります。
尿路感染症
通常、尿の通り道は無菌状態ですが、加齢と共に膀胱や尿道の働きは低下するため、
尿道口から膀胱や尿管、腎盂など尿の通り道に細菌が侵入することで発症します。
主な症状は、残尿感や排尿痛、下腹部の違和感などがあります。
また、炎症が腎臓内にまで波及してしまうと、腎盂腎炎を発症し、背中に強い痛みや高熱が生じ、重症化すると敗血症に至ってしまいます。
寝たきりの方は、オムツを着用しているうえ膀胱内に尿が溜まりやすいので、陰部が不衛生になりやすいため、こまめなオムツ交換が大切です。
疥癬(かいせん)
疥癬はダニの一種であるヒセンダニが、皮膚の角質層に寄生して起こる皮膚病で、介護施設や病院等の集団発生が問題になっています。
通常の疥癬の症状は、手首や手のひら、指の間、おなか、太ももの内側などに出る赤いブツブツのことです。
激しいかゆみを伴いますが、高齢者はかゆみの訴えが少ない場合もあります。
重症型の角化型疥癬の場合は、手足、おしり、ひじ、ひざなどに角質の増殖がみられます。
感染経路に沿った予防法は?
主な感染経路は、以下の3つがあります。
- 咳やくしゃみなどによる「飛沫感染」
- 患部や汚物を触ったことを通して感染する「接触感染」
- 同じ空間にいることで感染する「空気感染」
接触感染以外では、目に見えないものなので、いつどこで感染したか分からないため、日ごろから、予防対策を心がけることが大切です。
では、予防対策にはどんなことが必要なのか、調べました。
こまめに手洗いとうがいをする
帰宅時はもちろん、食事の前などにも手洗いとうがいを徹底しましょう。
うがいは、喉の奥だけでなく、口の中もしっかりゆすぎ、手洗いは、指や爪の間から手首までしっかり洗うことで、外の菌を持ち込まないようにしましょう。
体を清潔に保つ
身体はもちろん、汚れがたまりやすい口の中や陰部の清潔も保つよう心がけましょう。
高齢になると、特に冬場は寒くて毎日の入浴が大変になりますが、出来るだけ体を清潔に保つことが大切です。
特に、陰部は汚れがたまりやすいので、尿路感染症や皮膚感染症の予防のため、寝たきりの場合でも清潔な水とタオルで体を拭くようにしましょう。
予防接種を受ける
冬に流行る感染症であるインフルエンザには、予防接種が効果的です。
医師と相談のうえ、流行前の10〜11月頃に接種しておくようにしましょう。
効果は接種後1〜2週間ほどかかるので、流行前に接種時期を確認し、自分だけでなく、家族や介護者も接種するようにしておくと、感染拡大を防ぐことができます。
生活習慣を整える
免疫力の低下は加齢のみではなく、睡眠不足や栄養不良、ストレスなども原因になります。
バランスの取れた食事や十分な睡眠を心がけましょう。
日頃から出来る予防について
高齢者は、免疫力が低いことによって、感染症にかかりやすく、重症化しやすいため、本人や家族が日ごろから、感染症に対する予防対策を徹底することがとても大切です。
では、感染症に対する予防法についてご紹介します。
手袋やエプロンの使用
介護する際に、血液や体液に触れる可能性がある場合は、手袋やエプロンを使用しましょう。
高齢者にひどい咳や痰の症状がある時などはマスクをつけましょう。
手洗いやうがい
あらゆる感染症予防の基本は、手洗いとうがいを徹底することです。
調理や食事介助をするときなど、手袋をつけてのケアをした場合、手袋を外した後は必ず手洗いをし、アルコール消毒をしましょう。
アルコール消毒は、新型コロナウイルスが拡大した影響から、効果的ということが分かります。
高齢者が咳している場合は、飛沫感染をする可能性がありますので、介護者も念入りにうがいをしましょう。
また、咳エチケットと言って、咳によって引き起こす飛沫感染を散らばせないように、
マスクやハンカチで口を覆って、飛沫をなるべく広げないようにすることも予防対策で、マナーとしても取り上げられています。
高齢者の感染症を予防・早期発見するためには、日頃から健康状態を観察し、小さな変化も見逃さないことが大切です。
「いつもより寝ている時間が長い」「食欲がない」「声に元気がない」など、普段と様子が違うと気付いたら、早めの受診を心がけましょう。
免疫力を高めるために必要なことは?
いろんな感染症がありますが、一番の予防法は「免疫力を一定水準に維持すること」が大切です。
日ごろから免疫力をあげることを、習慣として身につけるようにしましょう。
- 規則正しい食生活
- 十分な休養と睡眠
- ストレス解消
- ワクチン接種
- 室内環境の整備
特に、食生活が乱れると免疫力の低下につながると言われています。
免疫の働きに必要な「lgA」と呼ばれる抗体があり、それが腸内で産生されています。
しかし、食生活の乱れによって、腸内環境が悪化し「lgA」の産生量にも影響を与え、免疫力が低下する可能性があります。
最近では、腸内環境を整えてくれる善玉菌を増やす乳製品やサプリメントなど、手軽に買える食材も増えてきていますので、持病を抱えている方は、かかりつけ医に相談してみましょう。
まとめ
これから寒くなってくる時期、空気も乾燥し、寒さで体力の消耗が激しくなり、体調を崩しやすくなります。
若い方でも、体調不良となりますので、特に高齢者の方は、気を付けなければなりません。
まずは、すぐにできる予防対策から始め、常に感染症にかかりにくい体つくりを目指しましょう。