令和6年6月に、民間サービスである家族代行サービスの事業者へ向けて、高齢者等終身サポートに関するガイドラインが公表されました。
これまで国による明確なルールがなく、事業所と利用者との間でトラブルが後を絶ちませんでした。
今回は、高齢者の身元保障などを請け負ってくれる家族代行サービスについて詳しく解説します。
家族に代わって高齢者をサポートする家族代行サービス
家族代行サービスの需要が高まった背景には、65歳以上の高齢者が1人で暮らしている割合が年々増加しているという世帯構造の変化が関係しています。
65歳以上の1人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあり、昭和55年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、令和2年には男性15.0%、女性22.1%となっている。出典:(内閣府ホームページ 第1章 高齢化の状況)
高齢になると、医療機関や介護施設を利用する機会が増えてきます。1人暮らしの高齢者が増加している昨今、家族が身元保証人となり手続きを行える状況は、もはや当たり前ではなくなりつつあります。
公的サービスにできること
家族代行サービスに似ている公的サービスとして、介護保険制度や成年後見制度があります。では、なぜ高額な民間サービスの需要が高まっているのでしょうか。
これらの制度には、やれることに限りがあるからです。
介護保険制度と成年後見制度の特徴
どちらの公的サービスにも共通するのは、利用する条件が必要であるということです。成年後見制度では、本人の代わりに契約などは出来ますが、買い物代行などの事実行為は含まれません。
介護保険制度 | 成年後見制度 | |
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利用対象者 |
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サービス内容 |
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元気なうちに終活したい人にとっては、公的サービスを利用することができないのです。
公的サービスの対象でない人や、もっと細やかな部分をサポートして欲しい場合は、民間の家族代行サービスに頼るしかないのが現状です。
家族の代わりに行う3つのサービス
家族代行サービスは、主に3つのサービスに分けられます。
- 身元保証
- 日常の生活支援
- 死後の業務
具体的なサービス内容は以下のとおりです。但し、事業所によってサービス内容の詳細は異なりますので代表的なものを紹介します。
身元保証
医療機関への入院や介護施設入所に必要な身元保証人となり、緊急時の連絡にも家族のように対応してくれます。
日常の生活支援
病院への付き添いや日々の買い物など、1人暮らし高齢者が日常生活で困る事について支援します。
死後の業務
葬儀や納骨に関する業務から遺品整理まで、家族の代わりとなって執り行います。
家族代行サービスのメリットとデメリット
身寄りのない1人暮らしの高齢者にとって、家族代行サービスは大変心強いものですが、反面デメリットも存在しています。
メリット | デメリット |
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監督する省庁がなく、契約後のトラブルが多発しています。
実際の契約トラブル
では実際どのようなトラブルが発生しているのでしょうか。国民生活センターへ寄せられる相談には以下のようなものがあります。
実例1:契約内容の詳しい説明もなく急かされるまま契約。高額なので解約したい。
頼れる親族がいない中、知人から紹介されて、身元保証サービスや亡くなった後の事務手続等を代行する事業者とサポート契約をした。
費用を支払った記憶があるが、その他に預託金として 100万円を支払うように求められた。契約内容など、その詳細について理解できていなかったこともあり、更なる高額な預託金の支払いを躊躇していたところ、担当者から「明日どうなるか分からない。一刻も早く預託金を支払うように」と急がされた。詳細な説明もない中で、このような事業者の対応に困惑しているがどうしたらよいか。(60歳代 女性)出典:(国民生活センター ”身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意”)
実例2:手続き終了後にオプションサービスを勧められたり費用総額の説明があった。負担が大きく解約したい。
他県で介護施設に入所している義母の担当ケアマネジャーから「役所などでの手続きの付添いサポートが1時間3,000円で受けられる」という話を聞いた。義母のところへすぐに行くことが難しく、サポート事業者に問い合わせたところ「サービスを受ける本人が契約を行い、家族が立ち会う必要がある。難しければ司法書士に立ち合ってもらうことも依頼できる。入会金が10万円、司法書士への依頼料が25,000円かかる」と説明された。後日事業者から「手続きが済んだ」と連絡があった際に「月額1万円で身元保 証サービスを付けないと24時間サポートはできない。みんな付けている」と言われたので、身元保証の契約も追加した。その後契約書類等が届き、入会金や諸費用で総額約30万円かかると記載があった。毎月1万円を長期的に支払っていくことを考えると、費用の負担が大きいように思った。解約したい。(80歳代 女性 ※相談者:50歳代 女性)出典:(国民生活センター ”身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意”)
政府の取り組み
こういった事態を受け、令和5年8月7日に「高齢者が安心してサービスを利用できる仕組みづくりなどに取り組む」と岸田総理が表明し、令和6年6月に高齢者等終身サポート事業者ガイドラインが公表されました。
高齢者等終身サポート事業者ガイドラインとは
- 民法や消費者契約法に従いつつ、契約書や重要事項説明書を交付した適正な説明のもと契約を行うことが望ましい
- 契約に基づいた適正な事務履行を行い、サービス提供に関する記録を作成、保存、利用者への報告が重要
- 安心して利用できる体制作りに取り組む(ホームページによる情報開示・事業継続のための対策・相談窓口)等
従来のルールがなかった状態からすると安心ですが、罰則などはなく事業者の努力義務とした文言でまとめられています。あくまでガイドラインであることを理解し、利用者自身がしっかりサービス内容を見極めた上で契約しなければなりません。
利用する上での注意点
どのような点に注意してサービスを利用すると良いかについて、国民生活センターなどが呼びかけている注意点は以下のとおりです。
- 長期利用を想定し、支払いができるのかよく検討する
- 自分がしてほしい事を明確にし、余計なサービスに入らないようにする
- 預託金などの用途や解約時の返金など、契約前に確認する
まとめ
今回は、家族代行サービスの課題点やメリット、デメリットについて解説しました。
世帯構造の変化により、高齢者サポート事業の必要性は高まります。令和6年6月にガイドラインが設けられ、国が定めるルールのもと安心して利用できるよう整備され始めました。
しかし、ガイドラインには法的な罰則等がないため、高齢者サポート事業を利用する際には十分に契約内容を検討し、自分の身を守る必要があります。
トラブルなく心穏やかに最期の時を迎えることができるよう、高齢者をサポートする仕組みのアップデートがこれからも期待されます。