


”食べる”ことは私たちが暮らしていくうえで一番大切な行為で幸せを感じるひと時です。
ふだんは何気なく”口から食べること” ”飲み物を飲むこと”をおこなっています。
しかし高齢になると、生理的変化で嚥下機能の低下が起きてきます。今まで食べていた物が食べれなくなったり、ムセやすくなったりします。
大切な家族にはいつまでも口から食べる幸せを感じてほしいですよね。ここでは加齢による嚥下機能低下のお話をさせていただきます。
摂食嚥下障害とは
食べることは、一連の動作からなります。
食べ物を「認識する」「口に入れる」「噛む」「飲み込む」「胃の中に送り込む」この一連の動作のどこかが、障害されることを摂食嚥下障害といいます。
摂食嚥下障害の原因は?
高齢者は生理的な変化により摂食嚥下機能が徐々に低下します。
- 舌や頬の協調性の低下:噛む際に食物をまとめづらくなる。喉への食物の送り込みや飲みこみのタイミングがあわなくなる。
- 病気や薬剤による唾液分泌の低下・体内の水分量の低下で唾液量が減少:唾液分泌量が減少すると、噛む際に食物がまとめづらく、口腔内の食物の移送が困難になる。
- 喉仏の位置が低下する:のどに食物残渣が残りムセやすくなる。
- 咳反射が起こりづらい:誤嚥してもムセが起こりづらくなる。
- 飲み込んだ後の呼吸が吸気から始める:通常は呼気から始まるが吸気で始まると気管に入りやすい。
摂食嚥下障害の初期症状は?
- 食事中や食事後にムセること増える
- 口の中に食事が残ることがある
- 水分でムセることが増える
- 声が変わる(痰が絡んでいる)
- 唾液が口の中に溜まっている

自己診断チェック
家庭で出来るチェック表
- ムセる
- 咳が出る(食事中、食後、夜間寝ているときなど)
- 痰が出る(食事をすると増える、食べかすが混ざっている)
- のどに違和感がある(食物が残っている感じがある)
- 飲み込みにくい(食物により違いがある)
- 声が変わる(食事をすると声が変わる、ガラガラ声やかすれ声になる)
- 食欲の低下がある
- 食事の好みが変わった(硬いものは食べなくなった。野菜を残すことが増えた)
- 食事の時間が長くなった(なかなか飲みこまない)
- 食べ方が変わってきた(上を向いて食べる、いつまでも噛んでいる、口からこぼれる)
- 食事中に疲れるようになってきた(食事の後半になると遅くなる)
- 口の中が汚れるようになってきた(食物が口の中に残っている、口臭が強くなってきた)

嚥下セルフチェック
パタカ検査
食べ物を送り込むのに必要な口の筋肉の動きを調べます。
- 方法:5秒間で「パタカ」をできるだけ早く繰り返し、その数をかぞえます
- 合格基準:7回以上
発声持続検査
呼吸機能を調べます。
- 方法:「あ~」と一息で声を出し続けられるか時間を計ります
- 合格基準:男性~15秒以上/女性~10秒以上
反復唾液飲み検査
飲み込みの起こりやすさを調べます。
- 方法:30秒間で唾を飲んだ数をかぞえます
- 合格基準:3回以上
食事で気をつけること
食事で最初にムセやすくなる物は、お茶やみそ汁の水分です。
水分はのどを通過するスピードが早いので、のどの筋肉が追いつかないためです。
水分でムセがみられる場合は、市販のトロミ剤を使用し、適度なトロミをつけると飲みやすくなります。
市販のトロミ剤は種類により使用量が異なります。使用量を守り、使用方法をしっかり確認して使用してください。

食べにくい食材の特徴
高齢者は嚥下機能の低下により、食べにくいものが増えてきます。
硬いもの、パサパサしたもの、繊維の強いもの、厚みのないものは噛みにくかったり飲み込みにくくなります。

- 加熱しても柔らかくなりにくいもの:かまぼこ・こんにゃく・貝類・ハム・きのこ類・長ネギ・油揚げ
- 硬いもの:ナッツ類・さくらえび・ゴマ・焼肉・生野菜
- 厚みのないもの:わかめ・レタス・胡瓜
- パサパサしたもの:パン・ふかし芋・ゆで卵・焼き魚・凍り豆腐
- 繊維の強いもの:青菜類・ごぼう・筍・レンコン・パイナップル
- バラバラとまとまりにくいもの:刻んだ食事・ふりかけ・佃煮・長ネギ
- 酸っぱいもの:酢の物
家で出来る調理の工夫
生で硬い食材は、繊維を絶つ切り方に工夫し、やわらかく加熱します。
パサパサする食材は油脂や水分を加え滑らかに仕上げましょう。芋類や卵をつなぎに加えると、まとまりやすく柔らかく仕上がります。
- 加熱してやわらくする:煮物・和え物
- とろみをつける:ポタージュ・カレー、シチュー・あんかけ料理
- つなぎをつける:肉団子、ハンバーグ
- 油脂を加える:ポテトサラダ・ネギトロ・スィートポテト
- 繊維を絶つ切り方を工夫する:蛇腹切り、隠し包丁
- 適度に水分を加える:オムレツ・フレンチトースト
食べやすい大きさは個々により様々ですが、細かく刻みすぎると咀嚼を引き出すことができません。
また、細かく刻みすぎると、口やのどに残りやすく誤嚥の危険につながります。
食事の姿勢に気を付ける
食事の環境は整ってますか?食事の姿勢が悪かったり、食事に集中できない環境は、誤嚥のリスクを引き上げます。
- テレビを見ながら食事をする
- かかとが床についてなくブラブラいている
- 椅子に浅座りしている
家でできる口腔体操
高齢になり心身の活力が低下した状態をフレイルといいます。
身体機能の低下より先に口腔機能がおとろえるといわれ、これを”オーラルフレイル”といいます。
噛んだり、飲み込んだり、話したりする口腔機能が衰えることを指します。
口の体操
口すぼめ体操
- 口をすぼめる。
- 「イ~」と横に開く。
頬の体操
- 頬を膨らませた後、すぼめるという動きを数回する。
パタカラ体操
- 「パ」…唇をはじくように
- 「タ」…舌先を上の前歯の裏につけるように
- 「カ」…舌の奥を上顎の奥につけるように
- 「ラ」…舌をまるめるように
各発音8回を2セット繰り返す
飲み込みのパワーをつける体操
ベロだしごっくん体操
- ベロを少し出したまま、口を閉じて唾を飲みこむ
おでこ体操
- 指先を上に向け、手のひらでおでこを押し合うようにする。
- おへそをのぞきこみながら、5つ数える。
首に痛みのあるかたや高血圧の方は避けましょう
噛むパワーをつける体操
ガムを噛む
- 1日2回(朝、夜)2分間はリズムを決めて、3分間は自由に合計5分間ガムを噛む
唇を閉じて、しっかりと噛む。ガムは1か所で噛まず、左右両側で均等に噛む。
舌のパワーをつける体操
舌トレーニング
- 舌で下顎の先を触るつもりで伸ばす
- 舌で鼻の頭を触るつもりで伸ばす
- 舌を左右に伸ばす
- 口の周りをぐるりと舌を動かす


まとめ
高齢になると身体状が低下し、食べにくいものが増えてきます。
食べることは栄養を摂り、空腹を満たしてくれるだけではなく人としての尊厳を支える大切な行為です。
私がこれまで関わってきた中には、誤嚥性肺炎をくり返し、絶食の指示が出てしまった方たちがたくさんいました。
食べたくても食べれないことで無力感や孤独感に苦しむ様子をみるたび、食事の大切さを痛感しました。
適度な運動、バランスのとれた食事、そして口腔ケア。
この3つをコツコツ積み重ねることで、健康寿命をのばすことができます。
高齢になると自分で気づけなかったり、上手に伝えれなかったりするため、家族や関わる方たちが変化に気づいてあげることも欠かせません。