
老人ホームに入居している家族がいる方にとって、金銭や貴重品の盗難はとても大きな不安要素です。
特に認知症の方が多く暮らす施設では、このような盗難トラブルは複雑になりがちです。そのうえ、実際には盗難ではなく「物盗られ妄想」であるケースも多くあります。
今回は、精神科看護師として多くの認知症患者に関わってきた筆者が、よくある盗難トラブルの例と、その対策方法についてわかりやすく解説します。
老人ホームにおける貴重品管理の基本
老人ホームでは「自分のものは自分で管理する」が基本です。
貴重品や金銭であっても同様で、買い物など個人の自由に任されます。もし万一通帳やお金などを預かる場合は、老人ホーム側と契約を結んだ上で預かることとなります。
しかし実際には、自力での生活や自己管理が難しい人も多いのが実情です。
そのため事前の予防策が非常に重要となります。
よくある盗難・紛失の3つパターン
施設における盗難トラブルは、認知症の方が関与するケースが非常に多いですが、一概に認知症と言ってもその状況は様々です。
パターンに分けてその問題と、その場での解決方法をご紹介します。
自分のものだと思い他人のものを取ってしまう

認知力の低下によって自分のものか他人のものか違いが分からなくなり、結果として盗んでしまうというケースがあります。
この場合は、盗んだという自覚がないことも少なくありません。「これは違いますよ、◯◯さんのですよ」と優しく説明すれば返してくれるパターンが多い印象です。中には自分のものときっぱり思い込んでしまい、なかなか返してくれないこともあります。

衝動的にものを盗んでしまう

認知力が低下すると、人によっては社会的な認知力が衰え「常識的にやってはいけないこと」が分からない状態になってしまいます。
それに加えて衝動性が高まるため、欲しい物を見かけるとつい盗んでしまうのです。

このような場合、主には投薬での治療になりますが、まずは目立つ場所に物を置かないのが大切です。
他人のものを持っていた場合は、決して荒立てずに「これ見せて?」などと柔らかい物腰で尋ねましょう。
本当は盗まれていないのに「盗まれた」と思い込んでいる

認知症患者の中でも多いのが「物盗られ妄想」です。
物盗られ妄想とは、大切なものを隠したことを忘れてしまい、身近な人が盗んだと思い込んでしまう症状です。

不安だから大切なものを隠す、隠したら場所を忘れてしまう…すると「盗まれた!」と勘違いし、身近な人が盗んだと思ってしまうのです。
このとき大切なのが、なぜ身近な人に当たるのか?です。
それは認知症の方にとって、頼れる人だからではないでしょうか。
ですので、否定せず話を聞いてあげることが重要です。
「違う」と否定せずに、まずは盗んだと決めつけられた人に確認してみることで、本人に安心感を与えることができます。
相手が盗んでいないことが確認できた場合は、「もしかしたら部屋にあるかもしれないから、一緒に探してみましょうか」と一緒に探してあげましょう。

職員による盗難もゼロではない
稀に、職員が入居者のものを盗んでいたケースも残念ながら発生しています。
あってはならないことですが、そのようなことも有り得るというのを念頭に置いておきましょう。
一度発生した人間関係のトラブルや抱いた不信感はなかなか解消することは難しいことです。施設を変えるべきかどうかお悩みの方は次は失敗するリスクを下げるためにまずは施設探しのプロに相談しましょう。福祉・介護の国家資格取得者が全ての案件を監修している地域介護相談センター 近所のよしみまでまずは0120-110-512まで無料相談してみてください。
家族ができる!盗難予防5つの対策
必要なもの以外を持ち込まない
老人ホーム入居において、もっとも大切なことと言えるのではないでしょうか。
施設では、適切に管理していたのにも関わらず紛失してしまうことも少なくありません。
そのため、持ち込むものは必要最低限にしそもそも盗難されないようにしておきましょう。
持ち込んだものはしっかりと記録に残しておく
入居時に持ち物リストを作っておくと、もし万一紛失した場合でも持ち込んだという証拠になる場合があります。
また、お金の場合いくら持ち込んだのかも残しておきましょう。持ち込んだ物品を写真で残しておくのも良いかもしれません。

記名することも忘れずに!
しっかりと記名しておくことで、紛失したものが戻ってくる可能性も高まります。
くっきりと名前が書けるよう、持ち込むものは黒以外を選ぶと良いでしょう。
筆者の経験上、特に紛失しやすいのは入れ歯と靴下です。
入れ歯は、日中にご本人が外してしまって所在が分からなくなったり、施設で預かっている間に他の方の入れ歯と混ざってしまったりと、様々なトラブルが起こりやすいものです。
歯科医院によっては入れ歯に名前を記入できることもあるため、医療従事者としては、ぜひ記名をお願いしたいと感じています。
また靴下も紛失しやすいもののひとつです。
洋服に比べ黒を持ち込む人が多く記名がしづらい上に、サイズが小さく紛失しやすいため、特に注意が必要です。
持ち物は定期的に家族が確認する
老人ホームに任せっきりではなく定期的に家族が介入し、無くしているものはないか、しっかりと金銭管理できているのか確認しましょう。
施設によっては、通帳や印鑑などを預かるところもあります。その場合は、出金が正しく行われているかどうかも確認が必要です。

専門家相談する
少し億劫かもしれませんが、弁護士や司法書士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
弁護士に相談する
弁護士は、成年後見人として身の回りの様々な管理や、福祉サービスと家族の橋渡しなども行います。法律の専門家なので、万一なにかトラブルが起きた場合でも迅速に対応してくれる安心感があります。
司法書士に相談する
司法書士は財産管理のプロフェッショナルで、成年後見制度の他、相続や遺言など将来のことを手厚くサポートしてくれます。
成年後見制度を活用して、さらに安心を
成年後見制度とは
認知力の低下、精神障害などで十分に判断できなくなった方の代わりに、成年後見人が財産や身の回りの管理を行なってくれる制度です。
成年後見人は、身内のほか、弁護士や司法書士など血縁でない人でも選定できます。
本人に代わって適切な管理を行なってくれるため、不当な出費や契約から本人を守ることができるのです。
成年後見制度には、判断能力が不十分である人に成年後見人を付ける「法定後見制度」と、判断能力が低下する前に本人が契約を結ぶ「任意後見制度」があります。将来起こりうる認知症に備えて、後見人を付けておくのも良いかもしれません。

まとめ
老人ホームでの金銭・貴重品管理は自己管理が基本です。
しかし、認知力が低下した入居者にとっては自己管理が難しい場合があり、場合によっては窃盗や盗難トラブルに発展するケースも起きています。
認知症状によって盗難トラブルは様々ですが、共通しているのは「大切なものが無くて困った」と不安に思っていることです。
まずは不安に寄り添って、どういうことが起きているのかを紐解いていきましょう。
そして実際にトラブルに巻き込まれないように、入居する前から対策を取っておくことが必要です。
施設に持ち込むものは最低限にしておく、持ち込むものはしっかりと記名し、記録しておくことを忘れないようにしましょう。
定期的に面会へ行き、しっかりと自己管理できているのか、普段どのような生活を送っているのか家族が把握しておくのも大事です。
場合によっては、弁護士や司法書士などと連携を取り合うことも考えてみると良いでしょう。