老人ホームでの入居者同士の人間関係トラブルやイジメへの対応方法は?認知症との関係を現役ソーシャルワーカーが解説

老人ホームでの入居者同士の人間関係トラブルやイジメへの対応方法は?認知症との関係を現役ソーシャルワーカーが解説

私は医療ソーシャルワーカーとして4年間病院で勤務し、現在は地域福祉のソーシャルワーカーとして働いています。

相談業務の中で老人ホームに入所している利用者やそのご家族から今回の入所者トラブルのような相談を受けることがあります。

内容は小さなものから老人ホームを退所するような大きなトラブルまで幅広く、始めは小さなものでも積もり積もって大きくなっていくケースが多いです。

施設生活は集団生活となるので、合う人、合わない人はもちろんあり、今まで御本人が経験してきた価値観や人生感があります。

プライドとプライドのぶつかり合いが日々繰り返されていくのが老人ホームなのです。

女性入所者に多い?トラブルの背景とは

男性入所者同士のトラブルよりも、女性同士のトラブルの方が圧倒的に多く発生します。

群れをなさない男性の性質と、そもそも施設入居者の男女比の割合が女性の方が遥かに高いことが大きな要因でしょう。

比較して男性は短命、女性は長生きであることは老人ホームやデイサービスを見学すれば一目瞭然です。

認知症の進行と性格変化が引き起こす問題

健康寿命が延びれば体は健康でも認知症になる人も増えます。

認知症はとても厄介な病気で、自分自身が認知症でおかしくなっているとは思えず、悪気なく周囲を批判していきます。

「人間老いれば丸くなり、にこにこと穏やかに黙って人の話に耳を傾け、否定せずに頷くのみ。」そんな理想的な年の取り方は誰もが出来ません。

年を取るにつれて許容範囲が狭くなり、頑固になってしまうのが人間です。認知症になればなおさらです。

性格が変わる、被害妄想が強くなる、作り話、幻覚・幻聴等の様々な症状は、自分自身だけでなく周りを巻き込んで大きなトラブルにつながる危険性が高いです。

ケース①暗黙のマナーが招く物品トラブル「返すのが礼儀」が誤解を生む現場

もらったら返す、あげたら返してもらう、礼節を重んじる日本社会では暗黙のマナーが存在します。

老人ホームの入所者同士でも暗黙のマナーが激しく横行しています。

お菓子をもらったので、お返しで違うお菓子を返す。返すお菓子がなければ日用品で返す。

高価な代物を上納したり、果てはお金のやり取りが始まったりと収集が付かない事態になっていきます。

ご家族が気づくのが先か施設職員が気づくのが先か、どちらにしてもいずれは明るみになりますが、なるべくならば早期の時点で事態の把握をしておきたいケースです。

当該入所者としてはもらったら返すという当然の解決法を取ったのでしょうが、

認知機能も定かではない入所者同士の金銭や物品の授受は、どこの老人ホームでも禁止されています。

部屋を行き来し、職員にばれないようにこっそりとお菓子のやりとりを行った結果、お菓子を食べて喉につまり窒息して意識不明に―。

良かれと思って勝手に自分の薬をあげてしまい、薬を飲んだ方が副作用で入院―。

礼節や善意で、結果的に人を苦しめてしまったり傷つけたりしてしまっては身も蓋もありません。

おばあさん
おばあさん
Aさんに菓子をもらったから返すために菓子を買ってきてほしいわ

ご家族は入所者のご本人からお返し品を準備してもらう依頼や部屋にあったはずの物がなくなっていたり、財布に入っていたはずのお金がなくなっていたりすることで事態に気づきます。

対応策:施設に毅然と伝える

気づいたご家族はどうすればいいでしょうか?

職員さん
職員さん
必ず老人ホームの相談員や施設長に直接相談しましょう。

事態を把握した施設長は同じことが起こらないように全職員へ周知し、ルールの徹底が図られます。

ご家族が口うるさいくらいに依頼することで、老人ホーム側も真剣に動かざるを得ません。

スタッフの皆、この入所者とご家族にはこのようなトラブルが発生しています。気をつけて対応してください。

いつもは優しいご家族が毅然とした態度を見せることで緊張感を持たせて、”この家族と入所者は気を付けないといけない”と思わせたら、今後の施設生活は安泰です。

何事も引いてはいけない時があります。それが今、その時です。

ケース②食事の時間に生まれる覇権争い「食堂カースト」が引き起こすいじめ

最近の学校ドラマでよく”スクールカースト”という言葉が出てくることがありますが、聞いたことはありますか?

クラス内における生徒の序列や階層構造のことを言うようです。

私が学生時代の時はこの言葉はまだありませんでしたが、人気者のいるグループ、おとなしい学生が集まるグループ、一人でいる学生と、目には見えないけど確かにクラス内の位置づけがありました。男でも女でも、ボス気質の生徒がいたものです。

会社でも地域でも、そして老人ホームでも必ず同じようなヒエラルキーがあります。

老人ホームにおける小集団の最たる例は食事の時間。同じテーブルを囲んでの覇権争いです。

食事は気の合う人とゆっくりと楽しみながら食べたいもの。

新人が入ってきて狭くなったわ
おじいさん
おじいさん

しかし、親分風を吹かせてあれこれ説教する人や、新しく入ってきた入所者にだけわざと挨拶をしない一方で、同じテーブルの他の人にはにこやかに接する。そんな態度の差で圧をかけてくる人、嫌味なことを聞こえるように言う人など、食事の時間を苦痛にさせる入所者はどこにでもいるものなのです。

おばあさん
おばあさん
ご飯は自室でひとりで食べたいわ

嫌がらせを受けた入所者が「部屋にご飯を持って来てほしい」と希望して食堂に出なくなったり、面会に来たご家族に「実はこんなことがあって…」と伝えたりすることで、ようやく事態に気付きます。

対応策:早めの席替え交渉がカギ

解決策はなんでしょうか?それは先の暗黙のルールと同様、

職員さん
職員さん
必ず老人ホームの相談員や施設長に直接相談することです。

食事の時間が苦痛になることを我慢してはいけません。食事は体の資本。健康の源であり、生きる活力となるものです。早急に席替えを希望してください。

誰とでもトラブルを起こす厄介な入所者の席決めはとても難しいです。新規入所者が割の合わない席にさせられる例は少なくありません。

施設側も慎重に席を決めているとはいえ、結果的に“波風が立ちにくい家族”の入所者が犠牲になることもあります。

職員は状況を見ながら、これ以上トラブルが起きないように立ち回って対応していくことになるでしょう。

ケース③夜な夜な聞こえる謎の声の正体は?認知症の症状がトラブルを呼ぶ

認知症はアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の大きく3つに分類されます。

それぞれの認知症に共通するのは、認知機能が低下し、物忘れがひどくなり、ついには自分のことも、生きる術も忘れてしまうということ。

認知症の種類 主な症状の特徴
アルツハイマー型 物忘れ・見当識障害・失語・失認など
脳血管性認知症 感情の起伏が激しい・まだら認知症
レビー小体型認知症 幻視・パーキンソン症状・認知の変動が大きい

行きつく先は一緒でも、現れる症状にはそれぞれ特徴があります。被害妄想、幻視、幻聴、不眠、収集癖、徘徊、異常行動など、周辺症状が現れて入所者同士のトラブルが発生することはとても多いのです。

「声が聞こえる」訴えの真相とは

ある夜、入所者からこんな相談がありました。

おばあさん
おばあさん
隣の部屋から男の人の声が聞こえてくる。壁をどんどん叩く音もする。眠れないわ。

夜勤職員に確認しても、「心当たりがない」との回答。

心当たりはないわね

今まで年相応の認知機能を維持していた入所者の相談だったため、「少し様子を見ましょう」と対応中の職員に伝えました。

しかしその後、大きなトラブルが発生します。

眠れないほどの被害を受けたという入所者が、ついに隣室に怒鳴り込んでしまったのです。

職員が間に入り、双方から話を聞いたところ、なんと”いつも音を出している”とされた入所者が、実は逆に被害を受けていた―という驚きの事実が判明しました。

もともと“被害者”とされていた入所者は、「物がなくなった」と訴えており、隣室の入所者が盗んだと誤解していたのです。そして、食堂で「泥棒」「卑怯者」などの暴言を投げつけていたことが発覚。

その結果、精神的ストレスが積もり”相手の怒りが爆発した”という構図だったのです。

精神症状の評価と専門職の対応が必要

では、このようなケースはどう対処すればよいのでしょうか?もう分かりますね。

職員さん
職員さん
必ず老人ホームの相談員や施設長に直接相談しましょう。

この件では、最初に被害を訴えた入所者だけが相談し、加害者とされた入所者はトラブルが大きくなって初めて声をあげました。

老人ホーム側はどちらか一方の言い分だけで判断せず、公正中立に両者の話を聞き、生活状況を確認し、医師や看護師とも連携して事実確認を進めていきます。

結果として、”幻聴・被害妄想”が見られた入所者は、精密検査の末にアルツハイマー型認知症と診断されました。

一度発生した人間関係のトラブルや抱いた不信感はなかなか解消することは難しいことです。施設を変えるべきかどうかお悩みの方は次は失敗するリスクを下げるためにまずは施設探しのプロに相談しましょう。福祉・介護の国家資格取得者が全ての案件を監修している地域介護相談センター 近所のよしみまでまずは0120-110-512まで無料相談してみてください。

まとめ:トラブルは“公にする”ことが解決への一歩

老人ホームは集団生活になります。気の合う人もいれば、合わない人もいるのでトラブルは少なからず起こります。

認知機能が低下していくのが高齢者なので、すべてに正常な判断ができる人も多くありません。

認知症患者の割合も多く、自分では望まないトラブルを引き起こしてしまうのです。

老人ホームの入所者には、介護職員・看護師・ケアマネ・相談員・施設長・医師・リハビリスタッフなど、多職種の専門職が関わっています。

どの立場から見ても、その人にとって何が最善かを考え、ご家族を含めた話し合いの場を設けることが重要です。

そして何より大切なのは「トラブルを隠さず、公にすること」です。

トラブルは隠すのではなく、まずはご家族や関係者が声をあげることが何より大切です。

トラブルは直ちに公にして、老人ホームに責任を取ってもらいましょう。

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