昨今の高齢者の健康ブームでジム通いの方が増えています。筋トレや運動することによって転倒を予防することが可能です。そのうえ、筋トレなどの運動することで、認知症にも効果があると知られてきました。
加齢に伴い筋力低下を自覚するかもしれませんが、あきらめるのはまだ早いです。
筋トレは、シニア世代から始めても筋肉量が増加し、筋力が向上することが研究結果があります。
私は介護施設で作業療法士として勤務しており、日々リハビリに従事していますが、80歳を越えても積極的に筋トレをされています。中には、今まで運動せずに疲れやすい方が、筋トレを始めたことにより、歩行スピードが速くなったり、杖をついて歩いていた方でも、杖なしで歩けるようなった方もいらっしゃいまいた。
今回は、痛みや持病がある方でも、いつまでもやりたいことを続けられるように自宅出来る簡単筋トレメニューをご紹介します。
筋トレをする前に自分の体の様子を知ろう
いきなり筋トレをすることは、けがのもとです。まずは自分の体に耳を傾けましょう。もし、持病や痛みがある方は、事前にかかりつけ医の先生に、どれぐらい運動をしていいのか確認をしましょう。
特に持病や痛みがない方でも、自分がどれぐらい体を動かせるかどうかも注意が必要です。年齢を重ねると、筋力低下をするばかりでなく、関節の柔軟性が低下します。筋トレをいきなり始めて、膝や腰、肩が痛くなり、運動が続けられなくなったというのもめずらしくありません。
どこをチェックすればいいのか、チェックポイントを説明します。筋トレや運動を行うことでも非常に重要ですが、勢いよく動かさず、ゆっくり動かすことが大事です。関節が動く範囲と痛み、違和感をチェックします。
自分の体のチェックをしながら、同時にストレッチにもなるので、ぜひやってみてください。
上半身編
- 首の動きをチェック:上下左右動かします。そして首を左右1回ずつ回します。
- 肩の動きをチェック:両腕をまっすぐゆっくりあげます。そして両腕をゆっくり回します。
- 体幹(背中・腰)をチェック:両手を腰にあて、体をそらしたり、前に倒したりします。そのまま、体を横に倒したり、ねじったりします。
腰・背中は痛みが出やすいところであり、違和感も感じやすいところです。特に注意深く観察してみましょう。
下半身編
- 股関節をチェック:片方ずつ膝を曲げ、両手で膝を抱えます。イメージとしては、膝を胸につけるイメージです。
- 膝関節をチェック:膝を伸ばしたり曲げたりします。
膝の痛みが多い方は非常に多いところです。もし痛みがある時は、どういうときに膝の痛みが出やすいか観察しておくことも大事です。
- 足首や足指をチェック:椅子に座り、足首をもってグルグルと内側、外側を回してみましょう。足の指でグーパーをして、足の指が開いたり閉じたりできるかどうかもチェックします。
筋トレを始めましょう
筋トレを始める前にこんな疑問がわくのではないでしょうか。
私もよくデイケアに通われている方、地域の地元住民の方からこの質問を受けることは多いです。私はいつもこのように答えています。
理由は、下半身には全身の筋肉の70%をしめており、歩くには必須の筋肉です。どんな筋トレであれ、運動量がものをいいます。
極端な話、散歩などのウォーキング、ラジオ体操、家事を頑張るなど、一見、筋トレではないかもしれませんが、座りっぱなし、寝っぱなしにならないことが非常に重要です。1回につき、20~30分動かすだけで十分な運動になります。
これだけはやってほしい筋トレメニュー5選
腰や膝の痛みを予防し、いつまでも元気で歩けるようなメニュー、これをやっておけば、筋力を維持できるだろうという最低限のメニューをご紹介します。
身の回りのものでできるので、いつでもどこでも簡単にできる内容です。そして週2~3回行うだけで十分な効果が得られます。
お尻上げ
お尻の筋肉は立ったり、座ったりするときに必要な筋肉です。
基本姿勢
ベッドで仰向けになります。両ひざを90度ぐらい(目安)に曲げ、両膝の間は手のこぶし1個分あけます。
トレーニング内容
- ゆっくりお尻を上げます。
- ゆっくりお尻をおろします。
- 基本姿勢 → ① → ②を10回繰り返し、1分ほど小休憩を取って3~5セット行う
お尻をあげたときに、膝・お尻・背すじ・肩が一直線になるように上げます。余裕のある人は、上げたときに5秒その態勢をキープします。
もも上げ(足踏み)
股関節の根元の筋肉を鍛えます。歩くときに足が前に出やすくなる筋肉です。
基本姿勢
背すじをまっすぐに椅子に腰掛けます。背もたれにはもたれかからず、お腹と背中がくっつくようにお腹に力を入れます。
トレーニング内容
- 片足のももをゆっくり上げて下ろします。
- 反対側のももをゆっくり上げて下ろします。
- 基本姿勢 → ① → ②を左右10回繰り返し、1分ほど小休憩を取って3~5セット行う
片足を上げたときに背すじはそのままにします。前に倒れたり、後ろにそらしたりしてはいけません。
膝のばし
太ももの筋肉を鍛えます。太ももは大きい筋肉で、膝周りの筋肉を鍛えます。膝痛予防に効果的です。
基本姿勢
背すじをまっすぐに椅子に腰掛けます。背もたれにはもたれかからず、お腹と背中がくっつくようにお腹に力を入れます。
トレーニング内容
- 片方の膝をのばして下ろします。
- 反対側の膝をのばして下ろします。
- 基本姿勢 → ① → ②を左右10回繰り返し、1分ほど小休憩を取って3~5セット行う
膝をのばしたときに、太ももが椅子から浮かないようにしましょう。膝だけをのばすイメージです。
つま先上げ
歩くときに、つま先が上がらないとつまづく原因になります。つまづかないようにしっかり運動しましょう。この運動は、下半身の血液循環が良くなり、むくみ予防にもなります。
基本姿勢
背すじをまっすぐに椅子に腰掛けます。背もたれにはもたれかからず、お腹と背中がくっつくようにお腹に力を入れます。
トレーニング内容
- 両足を半歩前に出します。
- かかとをつけたまま、両足同時につま先を上げて下ろします。
- 基本姿勢 → ① → ②を20回繰り返し、1分ほど小休憩を取って3~5セット行う
内ももはさみ
内ももを鍛えることにより、加齢に伴い、開いてしまう骨盤を整える働きがあります。O脚の人や膝が痛い方に効果的です。
基本姿勢
背すじをまっすぐに椅子に腰掛けます。背もたれにはもたれかからず、お腹と背中がくっつくようにお腹に力を入れます。
トレーニング内容
- 膝と膝の間に枕やバスタオル、ボールなどをはさみます。
- さんだものをギュッと押しつぶすように、膝に力を入れます。
- 基本姿勢 → ① → ②を20回繰り返し、1分ほど小休憩を取って1~2セット行う
筋トレを行う上での注意
筋トレを始めると、どうしても結果を求めたくなります。しかし、筋トレの効果が出始めるのは、数週間~数ヶ月と時間がかかるものです。
気がつけば「歩くのが早くなった」「動きやすくなった」「痛みが軽減してきたような気がする」など、なんとなく体の調子が良くなってきたり、他の人から「姿勢が良くなったね」「最近、元気になってきたんじゃない?」と教えてくれることで、筋トレの効果を実感できます。
回数を多くすることよりもゆっくり行う
まずは自分の今の体力を把握するが大事です。まずは1セットずつ①~④を行い、足りなければ、また①~④を繰り返していくと、自分ができる回数や筋トレに要する時間がわかります。
なるべく回数を多く行うと効果的であるのは間違いないのですが、回数を多く行うことにこだわることで、動作が雑になり、関節を傷める方も少なくなりません。
痛みがあるとき、つらいときは休む
筋トレをしていて、痛みが出てくる場合があるかもしれません。または前日の長時間の外出や生活環境の変化で、痛みが出てくる場合も考えられます。
筋トレを継続するコツ
筋トレはその日だけ頑張っても効果はありません。継続することで筋トレの効果が得られます。継続するコツを紹介します。
誰かと一緒に。
一人ではなかなか筋トレを継続することは難しいことです。誰かと一緒に筋トレすることで継続することができます。
パートナー・家族、友人をまず誘ってみましょう。他にも筋トレを継続するのに、教室やフィットネスジムに通うのは、とても効果的です。わざわざ教室やフィットネスに行かなくとも、町内会や公民館などの公共の場でも体操教室や体操グループの募集が多くあるので、のぞいてみてはいかがでしょうか。
もし介護認定がついている方は、リハビリ特化型の通所系サービス(デイケア、デイサービスなど)をケアマネージャーに相談してみましょう。専門職が体の様子を見て教えてくれるので安心です。
私の施設のご利用者様でも、個別リハビリを拒否する方でも、集団体操を楽しそうに参加されている方は多いです。
筋トレを行うときは時間で決めるのではなく、行動とセットで。
「10時になったら筋トレをしよう」と決意したと仮定しましょう。しかし、急な予定が入ったりすることでできなくなったり、時間来るのを待っていたら忘れてしまったということは多いではないでしょうか。
筋トレを習慣化するには、行動を起こしたときに筋トレをセットで行うと効果的です。
例えば、朝起きたら起き上がる前に「お尻上げ」の運動をしよう、テレビコマーシャルを見ている間に「つま先上げ」の運動をしようなど、いつもの習慣にしている行動と筋トレをセットにすると継続しやすくなります。
筋トレと共に大事にしてほしいこと
筋力を上げるために、筋トレが重要であると今まで説明してきましたが、もう一つ大事なことがあります。
タンパク質と水分を十分に摂ってほしい
筋肉の主成分は、タンパク質と水分からできています。つまり、筋トレを頑張って行ったとしても、タンパク質や水分が足りないと、筋肉量が増えないばかりか、筋肉が分解されてしまい筋力が低下することがあります。
今の現代では、飽食の時代と言われていますが、実のところ「新型栄養失調」が問題となっています。
新型栄養失調とは、十分なカロリーは摂取できているものの、体に必要な成分が不足している状態です。
タンパク質の摂取量の目安は、「体重(kg)×1.2=必要なタンパク質の量(g)」です。例えば、体重50kgの人であれば、50(kg)×1.2=60gの量が必要です。
いつもの食事がどんぶりや麺類が中心の人は要注意です。炭水化物が多くなることで、タンパク質が不足する可能性があります。
タンパク質を簡単に補充する方法として、卵、納豆、豆腐、ツナやサバなどの缶詰、チーズなどあります。
納豆に卵を足してみる、サラダに粉チーズをかけてみるなど、いつものメニューに、タンパク質が豊富なものを一品足すするだけで十分に効果が得られます。
ただし、加工食品は塩分が高いものが多いので注意が必要です。
水分は一日に1.5~2リットル の摂取を心がけましょう。水分は筋肉に栄養分を届ける役割と老廃物を体外に排出する役割があります。
お食事ごとに200mlを1杯ずつ、その他にも起床時、10時と3時のティータイム、入浴前後、就寝後などこまめに飲むようにすると、1.5リットルを飲むことは難しくありません。
いつから筋トレを始めても効果はある!
筋トレはいつから始めても遅いということはありません。しっかり栄養をとって、継続的に運動することにより、筋力量が増え、筋力向上が見込めます。
自分の体と相談しながら、継続的に運動を続けることが非常に重要です。体を動かしているなら、どんな運動でも構いません。何をしたらいいか迷ったり、ちょっとしたすきま時間に、今回ご紹介した筋トレを試してみてください。
筋トレを続けて、いつまでもやりたいことができる体作りをしていきましょう!