アイドルグループや、特定の人物など、自分のイチオシを熱心に応援する。
写真や、名前が入っているうちわを振って声援を送る。
昔から、若者たちの間で流行っていた「推し活」とは、こんなイメージが強いのではないでしょうか。
今や、「推し活」は、若者だけでなくシニアの間でも人気を博しています。
シニア世代にとっての「推し活」は、若者たちのそれとは、目的も効果も異なっているようです。
この記事では、ケアマネージャー歴11年として高齢者の方と多く接している私が感じる、シニア世代が「推し活」を行うことで得られる効果をお伝えしたいと思います。
シニアに推し活が必要か
結論!シニアに「推し活」、必要です!!
シニア、特に認知症高齢者にとって、刺激は一番必要なものと言っても過言ではありません。
年齢とともに、体力も活動量も低下してきて認知症を発症してしまう高齢者があとを絶ちません。
それは、刺激がなくなっているからなのです。
刺激をどんどん与えていくと、脳も活性化し、体力も活動量も増えていく。
結果、認知症の改善や進行を遅らせることができるというわけです。
刺激ってどうやって与えていけばよいか?
それには、そう「推し活」がおすすめなのです。
シニアたちの推し活の実態
そもそも「推し活」とは、好きな人物やキャラクターなど、自分のイチオシを応援することを言いますね。
若者たちが「推し活」をする理由としては、
- 元気をもらいたい、癒されたい
- 仕事、勉強のモチベーションアップ
- 恋愛のようなときめきを味わいたい
こういったところでしょうか。
一方で、シニア世代の「推し活」の目的は、次のように考えます。
- QOL(生活の質)の向上
- 生きがいと社会参加
- 居場所作りと貢献感
では、シニア世代の「推し活」には、どんなものがあるのでしょうか。
言葉でのコミュニケーションが取れないからこそ大切に接するペット
アニコム損害保険によると、自分よりもペットに費用をかけている項目として、美容院と医療費が上位を占めていました。
- 自分は2~3か月に一度の美容院だが、愛犬のトリミングは月1
- 人と違い訴えることができないペットは、少しの異常でも治療を受けるようにしている
- できることはしてあげたい
- ペットと長く一緒に過ごしたい
引用:ニュースリリース:毎年恒例! ペットにかける年間支出調査(2018年) | ニュースリリース | ペット保険の加入は「アニコム損害保険株式会社」
子どもたちの手が離れたシニア世代は、ペットを子どものように溺愛している姿を見かけます。
また、少し話はそれますが、認知症のケアの一つとして、アニマルセラピーがあります。
アニマルセラピーを受けることで、精神的に穏やかになったり、認知症が改善するという効果も見られています。ペットの癒し効果は、科学的にも証明されているのです。
推したいだけ推していい!育てるという責任がない孫
自分の子どもはもちろんかわいいし、大切な存在です。しかし、同時に育てていくという責任もありますね。
そう考えると、子どもの子ども、孫はただただかわいいだけ。
育てる責任があるのは、親の役割。
また、最近は、孫と一緒に「推し活」を楽しむシニア達もいるんだとか。
孫が好きなアーティストを、一緒に応援するそうですよ♪
シニア世代にも芸能人やスポーツ選手は人気
演歌歌手
熱狂的なファンが、全国ツアーどこにでもついて行っていた、氷川きよし。
私が担当しているある90代の女性は、自宅で家族と生活していますが、自室のベッド上で過ごす時間がほとんどです。
彼女は、若い頃から氷川きよしの大ファンだったようです。
ベッドの上の手の届くところに曲を掛けるためのラジカセ、タンスにはポスター、うちわなどのグッズ、テレビでは、コンサートのDVDが流れています。
今は、家族の介助がないと一人では生活できませんが、氷川きよしの音楽を聴くと、なんとも良い表情をされるのです。
韓流スター
思えば、韓流スターの火付け役、「冬ソナ」のヨン様は、シニアたちの間で大ブームを巻き起こしました。
今では、若者たちの間でも、韓流アイドルは人気ですね。
シニアたちは、若者たちよりも経済的に余裕があることが多いので、本場韓国まで応援に行くこともできます。
シニア世代女性が「推し活」に使う金額の平均は、年間約10万円との調査結果もあるようです(引用:「推し」がいるシニア女性は昨年から約13%増加し47.9%。推しにお金を使っている人は7割強で、一人当たり年間平均使用額は約10万円。 | 株式会社ハルメクホールディングス)。
外国人サッカー選手
兵庫県のある認知症高齢者の生活している複合福祉施設では、レクリエーションの時間に地元のサッカーチームの応援をしています。
おそろいのユニフォームをまとい、映像を見ながらメガホンで声援を送ります。
なかでも外国人選手のことが好きすぎて、87歳からスペイン語を勉強し、その「推し」の選手にメッセージを送る女性まで。
推し活の効果
すでに、「推し活」の効果は感じられていることでしょうが、あらためて一緒に考えていきましょう。
シニア世代に限らず、良い効果をもたらしてくれそうです。
若返りや活力が向上し精神も安定
「推し」を応援することが刺激になり、高齢になるにつれて失われてきた美意識や、意欲が取り戻されることがあげられます。
お化粧をしたり、身だしなみを気にすることは、シニアたちの日常生活を豊かにしてくれるのではないでしょうか。
介護サービスを受けることになった認知症90代の女性の例
長年、大きく農業をされていて、足腰は丈夫です。加齢とともに、自宅へ引きこもるようになり活動性が低下してきました。
さらなる認知症状の進行を懸念しての、デイサービス通所となったのです。
始めてのところへ出掛けていくことに、多少の抵抗や拒否はあったものの、無事行くことができました。
残念ながら、行ってきたことはすぐに記憶からなくなってしまうのですが、楽しかったという感情だけは残っていたようです。
回数重ねるごとに、だんだんデイサービスへ行くということが理解できるようになり、格好を気にしたり、お化粧をするようになりました。
自分よりも一回りも二回りも若い男性職員は、孫のようにかわいくて応援したくなるのでしょう。
そして、自分もよく見られたい、という女心も思い出されたのではないでしょうか。
認知症高齢者には、とにかく刺激を入れてあげることで、脳を活性化し、進行をゆるやかにする効果があると、私は信じています。
また、「推し活」として、地元サッカーチームを応援しているというある認知症高齢者施設で見られている、驚くべき「推し活」の効果がありました。
試合観戦の翌日や翌々日には、
- 血圧が安定した
- 精神状態が安定し夜眠れるようになった
- 帰宅願望がなくなった
- 要介護度が軽くなった
など、体調が落ち着いたり認知症の症状が改善したというのです。
社会参加し生きがいや貢献感が得られる
近年は、シニア世代がバイタリティに溢れていると感じます。
シニアから元気をもらったり、時代を引っ張っていってくれているとさえ感じるのは、私だけでしょうか。
「推し活」は、推してもらっている相手も、もちろん元気をもらい、推している自分も元気をもらうのです。
相手が喜んでくれた、相手の役に立てた、と思うと嬉しいですよね。この貢献感こそ、人生の幸福度につながると思っています。
- 「推し活」は、絶好の社会参加の手段。
- 「推し活」を通じて、同じ趣味を持つ仲間ができ、自分の世界も広がっていく。
出典:シニアの推し活事情とは?実態調査をもとに推し活市場の変化をどう活かす? – シニアマーケティングラボ|株式会社ハルメク・エイジマーケティング
上記のグラフから読み取れることとして、「推し活」の良い点は、当然ですがポジティブな意見が多いです。
ポジティブな感情は、幸福感が高まるだけでなく心身の健康にも良い影響を与えてくれそうですね。
「推し」がいることと、幸福感を感じているかの割合は、8割を超えています。
まとめ
- 今や若者だけでなくシニア世代にも「推し活」ブームが来ている
- 「推し活」することで、世界が広がり、人生が豊かになる
- 普段は助けてもらう立場の高齢者が元気に「推し活」をしていることが、逆に推し本人達に元気を与えている
- 「推し活」を楽しんだあとは、健康状態や認知症状が落ち着いたり、要介護度が下がるという回復も見られている
- 誰かの役に立っているという貢献感こそ、いくつになっても味わいたいもの
人生100年時代が到来。
人の手を借りないと生活できなくなってしまった…と感傷にひたっている時間はもったいないのです。
シニアたちの「推し活」が、相手にとってどれだけの元気と勇気を与えているか。
お互いにとってWinWinで、それで社会も活性化するのであれば、この上なく日本は明るいですね。