年齢を重ねると口の中では、高齢者特有のトラブルが増えてきます。
「唾液の分泌量の減少」「歯茎のやせ」「あごや舌の運動機能の低下」など、高齢者の口の中や歯の状況によって、口腔機能の低下や虫歯や誤嚥性肺炎になることも。
また、コロナ禍によってマスクの着用が一般的になり、長い時間マスクをしていることで、口の中に細菌が増え、口臭がひどくなってしまう原因にもなります。
なぜ、高齢者の口腔ケアが必要なのか、目的や効果をはじめ、予防・対策を解説しますので、参考にしてみてください。
口腔ケアについて
高齢者の介護にとって、口腔ケアはどんな役割があるのか、歯磨きとの違いや種類について紹介します。
口腔ケアとは?
口腔ケアとは、口の中の状態を清潔に保つことで、歯周病や虫歯をはじめ、さまざまな口の中のトラブルを防ぎ、食べる・会話するという口腔機能の維持と回復に加え、QOL(生活の質)の向上を目的に行われるケアです。
口の中の唾液の分泌量が減ることで、細菌の量が増え、気管から肺に流れ込んで炎症を起こしてしまう「誤嚥性肺炎」や血管内に入り感染症を引き起こしてしまいます。
他にも、歯周病は、脳梗塞や動脈硬化、心筋梗塞などの病気のリスクや、歯を失ったことで咀嚼が難しくなることで、認知症の発症リスクが高まることも明らかになっています。
高齢者にとって、口の中を清潔にすることで、口の中だけでなく全身の健康にも良い影響にもつながります。
口腔ケアには2種類ある?
口腔ケアには、「口の中をキレイにするケア」と「口の機能を高めるケア」の2種類があります。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアとは、「うがいや歯磨き、義歯(入れ歯)や舌の清掃などにより、口腔内を清潔に保つ」ケアのことです。
口の中の食べかすなどの汚れは、歯茎や粘膜に付着していて、そこから多くの細菌が増殖しています。
器質的口腔ケアを日頃からしっかり行い、口の中を清潔に保つことで、口腔内トラブルや誤嚥性肺炎の原因となる細菌が増えないよう予防することができ、口臭の軽減や摂食機能の改善にもつながります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアとは「口周りのマッサージや嚥下機能を鍛えるリハビリにより、口腔機能の維持・回復を目指す」ケアのことです。
口腔機能の低下や障害による、飲み込む際のムセ込み防止や、食べる・会話するなどの口腔機能の維持・向上が期待でき、言語療法士や看護師など専門職によって行われるケアです。
口腔ケアの効果は?
口腔ケアを行うことで、高齢者にとっていろいろな効果があらわれます。
メリットだらけの口腔ケアの効果とは、具体的にどんなことかご紹介します。
唾液の分泌を促進
口は「体内が見える部位」と言われていて、外部から細菌が侵入しやすいため「自浄作用」のある唾液によって、歯の表面や舌、粘膜についた汚れや細菌を洗い流し、口腔内をキレイにしてくれます。
しかし、高齢になると身体機能が衰え、口腔内の唾液の分泌量が減ることで、自浄作用が弱まってしまい、細菌が増殖し食道や気管を通って、細菌が侵入してしまいます。
歯ブラシなどで「唾液腺」を刺激し、意図的に唾液の分泌量を増やすことで、口の中が清潔になり、唾液の分泌を促進される効果があるので、口腔ケアはとても大事です。
感染症や発熱を予防
口の中にいる細菌は、虫歯菌や歯周病菌だけではなく、「黄色ブドウ菌」や「肺炎桿菌」などの細菌も存在します。
「黄色ブドウ菌」は、表皮感染症や食中毒を引き起こし、「肺炎桿菌」は呼吸器感染を引き起こすなど、さまざまな細菌が口の中から侵入することで、全身疾患の原因になります。
口腔内が乾燥している状態が続くと細菌の温床となってしまい、感染症や肺炎にかかりやすくなり、悪化してしまうと重症化につながります。
口腔ケアはしっかり行うことで、感染症や発熱予防として効果的です。
誤嚥性肺炎を予防
高齢者に最も多い疾患である「誤嚥性肺炎」は、食べ物が誤って気管に入ってしまったり、寝ている間に唾液を誤嚥をしてしまうことです。
日頃から歯磨きやうがいをすることで、嚥下反応を促し誤嚥の予防につながります。
口臭を予防
ご自身では気づきにくい口臭の原因は、口の中の歯周病菌などの細菌が大量に発生し、糖を分解する時に匂いが発生したり、歯周病などの影響で出血や膿がある場合は、匂いが強くなってしまいます。
口腔ケアを行うことで、虫歯や歯周病、舌の汚れをキレイにし、唾液量の改善や歯の衛生環境の改善など口臭予防につながります。
栄養状態の改善
食事の際、口に入れた食べ物をしっかり咀嚼し嚥下することで、食べ物の消化・吸収機能が正常に働いています。
認知症の予防
口腔ケアによる効果として、高い効果が出ているのは、認知症の予防です。
口を開け閉めしたり食べ物を咀嚼するなどアゴを動かすことで、脳に酸素を送ったり刺激を与えたりするため、中枢神経が活性化され、脳の海馬という記憶細胞に刺激を与え、認知症の予防につながります。
味覚の改善
味覚は、唾液や水に溶けたもののみに反応するため、舌に汚れが付いた状態が続くと味を感じにくくなります。
口腔ケアを行うことで、舌の汚れを取り除くことで、唾液量の増加につながり、味覚の改善は、食欲不振の改善や低栄養状態、脱水症状の予防にもなります。
口腔ケアをする際のポイント
高齢者の口腔ケアを行うには、どのようなことに注意をすればいいのか、いくつかポイントを踏まえてご紹介します。
なるべく自力で行ってもらう
介護者は、つい手を出し手伝ってしまいますが、本人ができることはなるべく自力で行ってもらうようにしましょう。
ご自身でできることは行ってもらうことで、手のリハビリになり、自立支援を促しながら、磨き足りない部分や最終のチェックを介護者が行うなど、バランスよく対応し見守ることが大切です。
また、ご本人の身体状態に合わせた自助具などを必要に応じて使用することで、本人の残っている能力を活用することができ、リハビリやモチベーションの向上にもなります。
誤嚥しないよう安全な姿勢の確保
歯磨きやうがいをする時に誤嚥しないよう、安全な姿勢を確保した状態で口腔ケアを行いましょう。
例えば、うがいをする際アゴを上げたまま行うと、誤嚥してしまう可能性があり、とても危険です。
無理にうがいをせず、口の中だけをゆすいでもらうだけでも、口腔内を清潔にすることができます。
また、寝たきりの方などベッド上で行う時は、ベッドを30〜45度ほど傾けると安心です。
短時間で終わらせる
口の中を見られることに不快感を感じる人も多く、長時間のケアを行うと高齢者の口の中が乾燥しやすいので、不快に感じてしまいます。
できるだけ短時間で済ませるように、口の中を清潔にし、気持ちよく感じてもらえるようにしましょう。
口腔ケア用品に必要なもの
口腔ケアを行うケア用品は、歯ブラシや歯間ブラシの他にもたくさんの種類があります。
口の中のケアには何を使いどこに使うのか、適切に把握しておくことも重要ですので、ご紹介します。
歯ブラシ
歯ブラシにはブラシの硬さ、ネッドの大きさ、形などさまざま種類の歯ブラシがありますが、どれが自分に合っているのか分からないですよね。
高齢者におすすめの歯ブラシは、歯茎が弱いのでヘッドが小さく、柔らかい歯ブラシが口が開きにくい方でも磨きやすいです。
出来る限りご自身に行ってもらうために、握りやすい、使いやすさという点も歯ブラシを選ぶのがポイントです。
また、手首を細かく動かすことが困難な人には、電動歯ブラシを選び、唾液が大量に出てしまう方は、吸引器つきの歯ブラシを使いましょう。
交換時期の目安としては、毛先が広がってきたり、1ヶ月ごとに交換すると衛生的にも安心です。
歯間ブラシ
歯間ブラシの使い方は、歯ブラシでは届かない歯と歯の間にある汚れを取り除くブラシです。
歯間ブラシにも太さがあるので、歯と歯の隙間とサイズが合っていないと歯茎を傷つける恐れがありますので、隙間に合い使いやすく適切な大きさの歯間ブラシを使用しましょう。
どのサイズが合っているか分からない場合は、歯科に相談すると正しい使い方も教えてくれますよ。
スポンジブラシ
スポンジブラシは、自力で口を大きく開けることが困難な方に対してのケアを行う時に使います。
歯ブラシとは違い、基本的にスポンジブラシは使い捨てのため衛生的で、口の奥の届きにくい歯や歯茎の汚れも取り除きやすいです。
舌用ブラシ
舌用ブラシは、舌垢という舌が白くなっている舌苔を取り除くために使用します。
舌用ブラシの種類には、毛がついているタイプと付いていないタイプのものがありますので、ご自身に合った物を使いましょう。
気を付けることは、舌を強く擦ると傷つける恐れがありますので、優しくケアをする際は、奥から手前に掻き出すように磨くことがポイントです。
義歯用ブラシ
義歯用ブラシは、毛先が固く持ち手も掴みやすくなっています。
使い方は、義歯を外してから磨くことで、汚れている場所も分かりますので、清潔を保てます。
ガーグルベース
ガーグルベースはうがいは出来るが、洗面台まで行けないなど寝たきりの方などがうがいをする際の受け皿のような物です。
他にも、介護施設や病院などでは、痰や嘔吐物の受け皿としても使用します。
まとめ
口腔ケアは、歯や歯茎の虫歯や歯周病の予防だけでなく、舌や頬の内側、体全体の健康を維持するためにとても大切なことです。
自分では、しっかりキレイにケアをしていても、歯と歯の間や奥歯など歯ブラシでは磨きづらい場所から、細菌が増える可能性もあります。
また、定期的に歯科で口腔内のチェックを受けることで、正しい歯磨きの仕方や口腔ケアが受けられますので、おすすめです。
普段からしっかり口腔ケアを行い、健康的な体と歯を維持していきましょう。
口腔ケアの手順
高齢者への口腔ケアの手順をしっかり行うことで、安全にケアをすることができます。
では、口腔内をキレイにするために、安全に行えるよう、具体的な手順や気を付けるポイントなどを紹介します。
1.うがい
水を口に含み、左右の頬を膨らませ、しっかり動かしながらぶくぶくすることで、口の中の体操にもなります。
この時、左右交互にうがいすると奥歯の方まで、キレイにうがいができます。
2.歯の清掃
高齢者の方によっては、ご自身で磨ける方もいれば、介助が必要な方、寝たきりの方や重度の障害のある方でやり方が違いますので、それぞれ解説しますね。
・ご自身で歯磨き出来る方
ご自身で歯磨きが出来る方には、できる限り自力で行うよう促しましょう。
手首が上手く動かせない方や肘が挙げられないなど、できない動作を支援をしてあげると、QOLの質を下げずに維持することにつながります。
・介助が必要な方
介護者が歯磨きをする際、歯ブラシを持っている方と反対の手指で、唇や頬を広げ磨き残しがないよう、口腔内を一周して磨きます。