令和6年、元旦に起きた能登半島地震はみなさんの記憶に新しいと思いますが、東北大震災や熊本地震、西日本豪雨など近年は災害が他人ごとではなくなってきています。
大雨や台風は気象予報である程度の予測が可能ですが、地震や津波など基本的にいつ起きるか予測出来ないものが災害です。
災害に直面したとき、高齢者は防災弱者にあたり身の回りのことや命を守るための行動がひとりでは困難になります。
変わらない日常を取り戻すには、残念ながら時間がかかります。だからこそ、慣れない環境でも暮らせる準備がすぐにでも必要なのです。
筆者は作業療法士として勤務をしながら熊本地震をほぼ震源地で経験し、ライフラインが復旧するまで避難所での暮らしをしていました。
そのときの経験を交えながら解説していきます。
在宅介護の4つの防災ポイント
介護を必要とする高齢者と暮らしている方々は「介護が必要な人はどんな避難所に行ったらいいのだろう?」「高齢の両親がいるのに避難できる?」「何を準備しておくべき?」と考えることも多いでしょう。
ここでは介護を必要とする高齢者が災害避難する上で大切な点を4つ挙げています。
防災情報
ハザードマップ
同じ市町村であったとしても住んでいる場所によって起こり得る災害は違って来ます。
ハザードマップを確認しておきましょう。
洪水や土砂災害、地震・津波など災害の種類毎に情報が纏められています。
ハザードマップの配布方法は自治体によって違うので、事前に確認しておくことが重要です。
災害時にはアクセスが集中して閲覧できなくなる場合もあり、ダウンロードして印刷しておくとより安心でしょう。
避難経路
倒木、路面割れ、停電による信号機の消灯など、災害により絶たれてしまう可能性も考えていくつか選択肢を持っておきましょう。
迂回になったとしても安全に行動できる経路を選ぶようにしてください。
避難場所
避難場所として提示されることが多いのは公民館や小中学校などですが、バリアフリーや障がい者への対応が整っていないことも多く医療ケアが必要な方は福祉避難所を利用することをお勧めします。
福祉避難所とは、障がい者、高齢者、妊産婦、乳幼児、病弱者など通常の避難所生活が困難な災害時要支援者を対象とした避難所です。
まだまだ普及されていない地域も多いので、お住まいの地域についてはどうなのか調べておきましょう。
自力で避難することが難しく支援を必要とする方々の場合は、予め市の「避難行動登録支援者名簿」へ登録しておくこともお勧めいたします。
登録された情報は地域の民生委員児童委員、自主防災組織、消防、警察といった支援関係者へ提供されます。
物資の準備
高齢者に必要な物資
飲食物や生活用水など、一般的に災害避難で必要と言われている物資と大きく変わりはありませんが、高齢者の場合はさらに追加で準備するものが必要です。
たとえば以下のようなものが挙げられるでしょう。
- あたためなくても食べられるレトルトのお粥や水分
- 水分や食べ物へ付加するためのとろみ
- オムツ、使い捨てトイレ袋、歯ブラシや口腔ケアシートなどの衛生用品
- 保険証やマイナンバーカード
- 常用薬やお薬手帳
- 杖や車椅子などの移動補助具
- 補聴器
避難生活を開始して、物資が安定して供給されるようになるまでは数日かかります。
筆者が避難所へ避難し、最初の食事が提供されたのは震災からおよそ12時間後でした。
避難者の数に対して食事の量が足りず、提供は高齢者、妊産婦、女性や子どもから優先しておこなわれました。
最初の食事は、ビニール袋に包まれたお皿に載ったしゃもじ一掬いの卵とじご飯だったことを記憶しています。
その後、コンビニエンスストアや近隣のパン屋からの寄付品になりましたがメニューを選択することは出来ませんでした。
飲み込みが難しい方が、水分もなく支給品のあんぱんやかつ丼を食べるとどうなるでしょうか。
安定して物資が供給されるようになるまでは自宅の備蓄品を充実させておくことが重要です。
医療ケアに必要な物資
症状が重度である場合は、もう少し踏み込んで考える必要があります。
人工呼吸器や在宅酸素療法をされている方であれば代替電源や外部バッテリー、酸素ボンベ、喀痰吸引が必要な方であれば電気不要吸引機が挙げられるでしょう。
ストーマを造設されている方でしたらストーマ装具やストーマ用品、ゴミ袋なども必要です。
気管切開、経管栄養、中心静脈栄養なども例外でなく、準備が不足すると命の危険につながってしまいます。
いずれにせよ電気や水が使えない状況になることが殆どです。
いくら考えても心配が残ると言う方は、病院スタッフやケアマネージャー、地域包括支援センターなどの専門の窓口へ相談することをお勧めいたします。
相談先の確保
地域の人とのつながり
在宅介護は孤立しやすいものです。有事の際、遠くの親戚より近くの他人と言った言葉があります。
災害時は親戚を頼ろうとしても遠方であればすぐにその場所まで移動ができず、倒木や路面割れなどで道路が封鎖されていれば近くへの移動もままならない場合があります。
筆者の体験談として、震災直後に避難する際は近隣の方々と声をかけあって、「何処に」「誰が」避難するという情報が交わされていました。
また避難所での物資提供における情報も最初は人づてでした。
被災地ではない場所から支援に行きたいと知人から連絡がありましたが、現地は混乱しており余震も続いていたため、さらなる事故のリスクになることを懸念してお断りしたことも記憶に残っています。
頼れる人や場所を見つけておくと災害準備にもなります。
相談できる公的機関
もし近隣に住宅がない、誰も頼れそうな人がいないと言う場合はお住まいの地域の地域包括支援センターや担当のケアマネージャー、居宅介護支援事業所などに相談しておくといいでしょう。
日頃からひとりで抱え込まないよう意識しておくと孤立も予防できます。
健康への対策
感染症
災害が起きた後、自宅でない場所での避難生活が長引くことで健康への影響が懸念されます。
自由に水が使えず、手洗いや排泄の後も清潔が保てない。
そんな不衛生な状況ではインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などの呼吸器感染症やノロウイルス、胃腸炎などの消化器感染症が起こりやすくなります。
一定時間ごとの換気やアルコール消毒、マスク使用や咳エチケットが有効とされていますが、もし症状を感じたら避難所の管理者に報告するなどして流行を防ぎましょう。
機能の低下
食事や水分が不足した状態で血行不良となり、その血栓が脳や肺に詰まってしまうエコノミー症候群、動かない状態が続くことにより心身の機能が低下して動けなくなってしまう生活不活発病も災害下で起こるものです。
数十分に一度立って体操する、気分転換に散歩する、意識的に水分を摂取するなどで予防しましょう。
高齢者の疾患はさまざまな要因が絡み合って発症し、治療してもすぐに元の状態へ回復しにくいと言った特徴があります。
災害後、筆者の体験談として、「危険だから避難所から出たくない」「トイレと布団だけしか移動していないしやることがないのでずっと寝ていた」との声が多く聞き取れました。
避難所を訪問して健康体操や口腔ケア体操を実施しましたが、活動性が下がっている状況であったため非常に有効だと感じました。
災害医療において「防げる死亡」を増やすことも重要ですが、「防げる機能低下」を増やすことも十分に高齢者の未来を明るくするものになります。
まとめ
災害はいつ起こるか分からないから恐ろしいもので、近年は数も増え、もはや他人ごとではなくなってきています。
災害時の避難、必要な物資、地域との繋がり、災害後に起こりやすい体調不良など、できるところを備え、知っておくことで不安材料を減らすことが可能です。
災害が発生したときの対策については、自分の身は自分で守る「自助」が一番重要で、つぎに住んでいる地域や人を自分たちで守る「共助」、そして市町村や消防、自衛隊などがおこなう「公助」があります。
何もかも自分たちでしてしまおうと抱え込む必要はありません。
筆者は震災の被災者となったときに地域の方々との繋がりに助けられ、今となってはそれが大きな経験になりました。
もちろん災害に合わないことが一番ですが、将来の安心を作るために今できることをひとつでもいいので取り組んでみましょう。