日本で「HIV」という言葉が広まったのは1980年代にさかのぼります。疾患は1982年にアメリカで発見されていましたが、日本で初のHIV陽性者が確認されるといわゆる「エイズショック」が日本を席巻しました。
2023年の厚生労働省の報告において、日本でのHIV感染者は24,532件、AIDS患者数は10,849件となっています。65歳以上の新規感染報告者数も報告されています。
今回は
- HIV・AIDSってなに?違いはあるの?
- HIVに感染していると施設入所はできない?
- HIVに感染していると、どんな介護サービスが利用できるの?
このような疑問にお答えしていきます。
HIV・AIDSってなに?
HIVとは
HIVとは、ヒト免疫不全ウイルス(通称:エイズウイルス)に感染した状態のことを指します。
自覚症状がないため、早期治療が行われることも少なく、免疫低下によりAIDSが発症することによって発覚することも少なくありません。
進行が進むと、体内にある白血球の機能が破壊され、外部からの細菌・ウイルスへの抵抗力が弱まります。
症状としては
- 寝汗や発熱が続く
- 首の回り、わきの下、股の付け根などのリンパ節の腫れ
- 疲れやすくなる
- 下痢が続き、食欲が湧かない
といったことが現れます。
AIDS(エイズ)とは
AIDSは免疫低下の症状が進行し、合併症が現れた状態です。
免疫低下による症状はさまざまなものがありますが、厚生労働省では明確な診断基準として23の疾患・症状を示しています。
- カンジダ症
- クリプトコッカス症
- コクシジオイデス症
- ヒストプラズマ症
- ニューモシスティス肺炎
- トキソプラズマ脳症
- クリプトスポリジウム症
- イソスポラ症
- 化膿性細菌感染症
- サルモネラ菌血症
- 活動性結核
- 非結核性抗酸菌症
- サイトメガロウイルス感染症
- 単純ヘルペスウイルス感染症
- 進行性多巣性白質脳症
- カポジ肉腫
- 原発性脳リンパ腫
- 非ホジキンリンパ腫
- 浸潤性子宮頚癌
- 反復性肺炎
- リンパ性間質性肺炎
- HIV脳症
- HIV消耗性症候群
上記疾患の症状以外にも、脳神経系の症状により意欲の低下・記憶力の低下などがあらわれることがあります。
HIVとAIDSの違いとは
HIVはヒト免疫不全ウイルスのことを指し、AIDSは免疫力が低下した状態のことを指します。
HIVに感染していると老人ホームに入居できない?
入居施設を検討する際、まず気になることが「入居条件をクリアしているかどうか」ということでしょう。
施設種別によって入居条件はさまざまですが、その中に疾患や感染症の有無を条件として挙げている施設も少なくありません。
HIVに感染している場合の施設探しについて解説します。
HIV感染者受け入れの実際
施設検索サイトなどをみると、入居条件に「HIV感染かどうか」を示すアイコンが見受けられます。
実際に掲載数を比較してみました。
| 施設総数 | HIV受入可 | パーセント | |
|---|---|---|---|
| A社 | 53,487 | 2,072 | 3.87% |
| B社 | 57,000 | 2,918 | 5.12% |
| C社 | 58,452 | 3,360 | 5.75% |
※検索条件は全国の「特別養護老人ホーム」「養護老人ホーム」「有料老人ホーム」「グループホーム」「高齢者向け住宅」「ケアハウス」を選択
実際の検索結果だけをみると、受け入れに非常に消極的であることが分かります。
ではなぜ受け入れができないのか、理由を解説します。
受け入れできない理由
施設側の知識不足
まずひとつ目に挙げられることは、HIVに対する施設側の知識不足です。
現在では免疫力低下の進行を遅らせる薬もでき、感染についても一般的な介助で起こることはほぼありません。
しかしながら未だに「飛沫でうつる病気」「排泄物を介して感染する」といった誤った認識がはびこっているのです。
誤った認識は介護職だけでなく、専門知識を持った看護師でもあり得ます。
特別養護老人ホームでも、入居を検討している方の中にHIV感染者がいた際、看護師のひと声によって入居保留となる案件も実際にありました。
そのような誤った認識から「うちの施設では対応できない」とルールを作ってしまうため、申込時点で受け入れを拒否されることも起きているのです。
協力医療機関の専門外
もしもの時に医療連携が取れるよう、特別養護老人ホームや有料老人ホームでは協力医療機関を定めることとなっています。
協力医療機関は入院設備を整えた病院が望ましいですが、病院と連携の取れる訪問診療クリニックが初期対応を担ったり、複数の協力医療機関が定められている施設もあります。
入居の決定を行うのは施設ですが、医療的な処置や感染症について協力医療機関の医師に意見を求める施設もあります。
HIVの理解は介護業界より医療業界のほうが進んでいるものの、HIVの対応例がない医師や医療機関だと難色を示す場合があります。
入居決定の判断を行うのは施設ですが、医師も今後の治療を担う立場となれば慎重にならざるを得ません。
「施設で対応できるのであれば受け入れ可」と、医師は施設側に判断を委ねる発言を行いますが、任された施設はたまったものではありません。
施設側は万が一の際に医師が対応してくれなければご入居者が危険にさらされるため、結果的に医師や医療機関の判断で受け入れを拒否することがあるのです。
受け入れ不可と明言している施設も
施設によっては、あらかじめ受け入れ可能・不可能な医療処置や感染症を取り決めているところも少なくありません。
これは「どんな感染症でも受け入れる」と謳った場合、なにか問題が起きたときに施設側に責任を問われる可能性があるため、少しでもリスクがある要素を避けることが目的です。
事前に受け入れルールを設けておくことで、入居を見合わせる明確な基準となりますし、スタッフとしても「自分だけの判断ではないから」とストレスを軽減できるという背景もあります。
HIV感染者でも利用できる介護サービス
不安に感じられる方も多いことでしょう。しかしながら、すべてのサービスが使えないことはありません。
感染症があっても利用できるサービスと、利用の流れについて解説します。
居宅サービス
居宅サービスとは「自宅での生活を継続するために必要な支援」を提供するサービスです。
大きく分けると
- 訪問サービス(ホームヘルパー、訪問看護など)
- 通所サービス(デイサービスなど)
- 短期入所サービス(ショートステイなど)
- その他のサービス(福祉用具など)
があります。
サービス利用については担当のケアマネジャーが各事業所と情報共有を行いながら、サービス提供の計画を立てます。
施設サービス
施設サービスとは「自宅での生活が困難となった場合に、支援を受けながら共同生活を送る」場所になります。
- 特別養護老人ホーム
- 養護老人ホーム
- 有料老人ホーム
- 高齢者向け住宅
- ケアハウス
- 老人保健施設
- 介護医療院
入居条件は施設ごとに異なり、申込から事前面談等を経て入居となるケースが多いものの、申込者が多い施設だと待期期間も長期となることも多いサービスになります。
また、24時間365日の支援の中で健康管理を行うため、居宅サービスよりも感染症へのハードルが高い傾向にあります。
HIV感染は障害者手帳発行の対象
HIVに感染したことが判明した場合、身体障害者手帳発行の対象となります。
等級を決めるには一定の基準がありますが、身体障害者手帳を発行することで医療費の助成や各種手当の給付、税金などの軽減を受けることができます。
まとめ
HIVとAIDSは、エイズパニック以降、誤解や治療の遅れなどから差別や偏見を生んできました。
現在では世間の認識も正しいものに近づいているものの、差別や偏見は完全になくなったわけではありません。
施設での受け入れ数が依然として進んでいないことも、患者にとって将来が不安に感じてしまう一端かもしれません。
人間が恐れるのは「得体の知れないものへの恐怖」です。HIVやAIDSは長年の研究から対応策や薬剤も現れ、決して未知の病気ではありません。
正しい認識を持つことで、心配のない普通の生活が送れることが社会の使命です。
この記事によって、少しでも安心していただければ幸いです。
参考記事
- エイズ予防情報ネット「訪問看護・介護職員向けHIV 感染症対応マニュアル」
- 厚生労働省「HIVの過去40年と経験者の声から学ぶ 病気と差別の歴史と正しい知識」
- 厚生労働省「令和5(2023)年エイズ発生動向」
- 山内哲也、野村美奈、萬谷高文「福祉施設における HIV 陽性者の受け入れ課題と対策」
- 厚生労働省「9.後天性免疫不全症候群」
- エイズ治療・研究開発センター「身体障害者手帳申請関連資料」



