老人ホーム(介護施設)への入居は、ただでさえ精神的に負担のかかる決断です。
それにくわえ、ニュースなどでネガティブな情報を目にすると不安になるのは当たり前ですよね。
筆者自身、祖父母4人のうち3人を老人ホームで看取ってもらったので家族の気持ちが良く分かります。
また有料老人ホームで介護主任やケアマネジャーをした経験から、そこで働く職員としての気持ちや働き方、心身の負担についても知っています。
この記事では
- 実際に老人ホームで虐待やいじめはあるのか?
- なぜそれが起こるのか?
- どうしたら防止や対応が出来るのか?
について解説します。
老人ホームに入居される方、ご家族が安心して暮らすための参考となれば幸いです。
老人ホーム虐待の実態
残念ながら、老人ホームにおいて(職員による)虐待やいじめはゼロではありません。
虐待とはどんなことをいうのか、老人ホームでの虐待は実際にどのくらい起こっているのかを説明します。
高齢者虐待とは
高齢者虐待とは「65歳以上の方が、他人から不適切な扱いをうけ、権利や利益を侵害される状態になったり、生命・健康・生活が損なわれるような状態」のことです。
虐待には、いくつかの種類があります。
身体的虐待
身体に外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行をくわえること。
殴る、蹴る、突き飛ばす、つねる、必要なく身体拘束をするなど。
*身体拘束がすべて虐待にあたるわけではなく、高齢者本人や介護者のケガや命にかかわる「緊急やむを得ない場合」は家族等の同意を得ておこなうこともあります。
緊急やむを得ない時とは(3つすべてに該当)
- 切迫性:本人または他の入居者等の生命または身体が危険にさらされるとき
- 非代替性:身体拘束にかわる介護方法がないとき
- 一時性:身体拘束が一時的であること
心理的虐待
高齢者に対する暴言や拒絶的な対応、心理的外傷をあたえる言動をおこなうこと。
トイレの失敗をあざ笑う、怒鳴る、子ども扱いする、無視するなど
介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
高齢者を衰弱させるような長時間の放置、介護や看護などを著しく怠ること。
食事量をあたえない、排泄や入浴などの介助をせず不潔な状態にするなど。
経済的虐待
高齢者から不当に財産を奪う、利益を侵害すること。
本人の年金や貯金を本人の意思に反して使用する、お金を渡さないなど。
性的虐待
高齢者にわいせつな行為をする、またはわいせつな行為をさせること。
キス、性器への不必要な接触、性行為の強要、本人の下半身を露出させ放置するなど。
施設職員による虐待の内容と割合
厚生労働省のデータによると、施設職員のおこなった虐待の内容と割合は下記のとおりです。
- 身体的虐待:57.6%
- 心理的虐待:33.0%
- 介護等放棄:23.2%
- 経済的虐待:3.9%
- 性的虐待:3.5%
意思疎通が図れないほど重度の認知症の場合、身体的虐待を受けている割合が高いという特徴もあります。
虐待を防止する法律
老人ホームなどの介護施設や在宅において
- 虐待の防止や早期発見・対応をする
- 高齢者の意思の尊重、安全確保の優先、権利や利益を守る
ため、平成18年4月に「高齢者虐待防止法」が施行されました。
国、都道府県、市町村でガイドラインが決められており、老人ホームなどでもそれに準じたマニュアルがあります。
虐待がされている、疑わしい場合にはこの法律やマニュアルに沿って対応をしなければなりません。
老人ホームに入居したあと、虐待にあたるようなことを発見したり疑わしい場合は、まず相談できる職員や市町村に相談をしてみましょう。
老人ホームでの虐待件数データ
厚生労働省が出したデータ(令和4年度)「虐待の通報件数、虐待が認められた件数」です。
通報件数は2,795件あり、前年度より16.9%増加。
施設職員の虐待と認められた件数は856件で、前年度より15.8%増加。
虐待が認められた施設の種別
- 特別養護老人ホーム:32.0%
- 有料老人ホーム:25.8%
- グループホーム:11.9%
- 老人保健施設:10.5%
虐待はなぜ起こるのか
一部の老人ホームにおいて、虐待はなぜ起こるのでしょうか?施設側の体制、職員個人の問題、それらが混ざりあって起こる場合など課題はいくつかあるようです。
参考までに、介護施設の虐待発生の要因をデータでみてみましょう。
- 教育・知識・介護技術等に関する問題:56.1%
- 職員のストレスや感情コントロールの問題:23.0%
- 虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等:22.5%
- 倫理観や理念の欠如:17.9%
- 人員不足や人員配置の問題および関連する多忙さ:11.6%
教育・知識・介護技術等に関する問題
介護現場は、色々な症状の方に同時に対応する必要があります。また、慢性的に人員不足の業界でもあります。
新人として入職し十分な研修や引継ぎがないままに現場で働きだすと、高齢者の方に対して不適切な対応をしたり、そもそも「何が虐待にあたるのか」を知らないということにもなりかねません。
職員のストレスや感情コントロールの問題
職員個人の性格や特性的に「ストレスに弱い・感情がコントロールできない」という場合もありますが、介護の仕事自体が「感情労働」といってストレスを受けやすい現場でもあります。
認知症の方に罵声を浴びせられる、介助中に叩かれるなどもありますし、人間相手の仕事なので思ったようにいかないことも多いです。
ストレスをうまく処理できない職員は、虐待という間違った方法で発散してしまうこともあります。
虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等
その職場(組織)の雰囲気というものは、確かにあります。高齢者の方に対するリスペクトがない言動を上司や周りが許している、管理職側に「虐待なんてしてはいけないんだ」という強い気持ちがない現場では、虐待は起こりやすいでしょう。
また、高齢者の方に適切なケアをするには「職員間の情報共有」が不可欠です。
職員同士が仲が悪いと不適切な対応につながり、結果的に虐待(ネグレクトなど)になってしまうこともあります。
倫理観や理念の欠如
介護の現場・仕事は「職員の人間性」が色濃く出るものです。
「介護の仕事をしよう」と優しさを持っている職員もいれば「とりあえず介護の仕事でもするか」と、理念を持たずに働く職員もいます。
特に夜間帯は職員も少なく、居室では高齢者と1対1であることが多いので職員の倫理観(モラル)が問われます。
誰も見ていない時でも優しい声かけ、適切でスピーディな介助などが出来ているか。
虐待をテーマにいえば「この施設では虐待は許さない、身体拘束はゼロを目指す」などの理念を組織が明言し、それに沿った研修や教育を職員にしていくことで職員には「倫理観」が育っていきます。
そうした理念や倫理観がない(薄い)ことは、虐待がおこる大きな要因になります。
人員不足や人員配置の問題および関連する多忙さ
介護業界の人員不足は、もう何年も前からの社会問題です。
求人しても人が来ない、入職してもすぐ辞めてしまう・・。そうした「負の連鎖」のなか
老人ホームでも、少ない人員で日々のケアをおこなっている現場が多いです。
1人で同時に10人のオムツ交換はできません。
物理的に人員が足りない、必要な人員のシフトが組まれていないと、職員の冷静さと丁寧さが失われ、虐待につながる可能性が高まります。
虐待をどうやって防止・対応していくか
虐待の実態、なぜ起こるのかについて解説をしてきましたが、これだけ聞くと「じゃあ、どうしたら良いのか」という気持ちになりますよね。
老人ホームにおいては、もちろん虐待を防止・対応する主体は「施設側」ですが、家族目線で何ができるかを解説します。
観察する、気づく
老人ホームを見学する時、面会するときにチェックしていただきたいことがあります。
- 施設全体の雰囲気が明るいか
- 職員の挨拶、接遇はきちんとしているか
- 排泄臭などのにおいはひどくないか
- 入居したあと、本人の状態を職員に質問したらちゃんと返答できるか
- 本人の表情、話す内容が入居前とくらべて明るいか暗いか
- 本人の体に痛みや外傷がないか、動きがいつもと違わないか
筆者自身が老人ホームで働いていて、ご家族からご意見をいただいたのが上記のことでした。
また、老人ホームの紹介センターの方に聞いた「ホーム選びのチェックポイント」にも当てはまっている項目でした。
虐待を受けているかどうか…という視点だとどうしても疑ってかかってしまいがちですが、フラットな気持ちで施設や本人の様子を観察してみてください。
客観的な証拠を集める
虐待というのはとてもデリケートなテーマです。
家族としては気づきづらい、信じたくないという気持ちもあります。
ただ「不自然な外傷がある」「なんだか足をひきずるようになったな」「本人の表情が暗く、おびえているみたい」など、虐待が疑わしいサインがあったら、客観的な証拠をつかむアクションをする場合もあります。
「いつ、どこで、誰が、何を」という記録をメモ、動画、録音などでとっておくことが大切です。
動画や録音については、相手(職員など)に了解を得る必要はありません。
録画・録音したものをいきなりSNSにあげるなどはプライバシーの問題などもあるので控えた方が良いですが、あくまで証拠として保管します。
そうはいっても、録画や録音までする必要があるのか・・?と迷うときもあるでしょう。
施設によっては共用スペースなどにカメラを設置していることもあるので、過去の録画などを見せてもらうのも1つの手です。
一度発生した人間関係のトラブルや抱いた不信感はなかなか解消することは難しいことです。施設を変えるべきかどうかお悩みの方は次は失敗するリスクを下げるためにまずは施設探しのプロに相談しましょう。福祉・介護の国家資格取得者が全ての案件を監修している地域介護相談センター 近所のよしみまでまずは0120-110-512まで無料相談してみてください。
相談、通報する
虐待がおこなわれている、虐待の疑いがある状況では、相談か通報をする必要があります。
施設職員との関係性もあると思いますが、施設長、ケアマネジャー、相談員、介護主任などのリーダー職や、現場の介護・看護職員など話しやすい人であれば誰でも良いので、虐待についてご自分が抱えている不安や疑念を相談してみましょう。
もし「施設の職員には相談できない」ということであれば、お住まいの市町村に「虐待の相談・通報窓口」があります。
「(お住まいの市町村) 高齢者虐待 通報」などで検索してみてください。
役所、地域包括支援センター、緊急の場合には警察署などの情報が出てくると思います。
まとめ
「高齢者の虐待・いじめ」の実態をみると「本当に老人ホームに入居させて良いのかな?」と不安になってしまうかも知れません。
筆者は23年間ほど介護業界で働いていて思うのは「ニュースで虐待などのネガティブな話題が取り上げられると、それがすべてかのようにイメージがついてしまう」ということです。
不思議と介護現場の現状で「良いニュース」は流れにくいので、無理もありません。
多くの施設職員は入居者の方、ご家族が安心するために働いていることはお伝えしたいです。
ただ、施設単位・職員個人単位で高齢者虐待やいじめが発生してしまう場合があるのも事実です。
まず老人ホーム見学の段階から「施設の雰囲気、職員の接遇、臭いや清潔感、入居者の方の表情」などをチェックして、入居したあとも施設職員とたくさんコミュニケーションをとっていきましょう。
そしてもし虐待がおこなわれている・疑わしい場合は、関係者と相談をしながら冷静に対処していくことが大切です。
一番大事なのは、入居者の方やご家族が幸せに暮らすことです。