サービス付き高齢者向け住宅 ITフォレストこだいら
東京都小平市にあるサービス付き高齢者向け住宅「ITフォレストこだいら」は、2020年10月にオープン。東京都武蔵野市の武蔵境自動車教習所が経営母体になっている介護施設です。
写真:近隣には学校や保育園、ブリジストンの工場などがある
施設のコンセプトは「森」。外から見ると一見、おしゃれな高級住宅に見える3階建ての施設は、窓から燦々と太陽光が入り、多くの木材を使用していることで、館内全体が木のぬくもりと重厚感のある雰囲気に包まれています。
何よりも大きな特徴は、小平エリア初の「看護小規模多機能型居宅介護事業所」が併設していること。サービス付き高齢者向け住宅に暮らしながら、介護度が上がっても最期まで安心して暮らし続けることができます。
医療・介護の連携や、地元農家とのつながりを大切にしていて、手づくりの食事には地元小平の野菜を取り入れることもあります。
また、母体である武蔵境自動車教習所が力を注いできた地域社会貢献の強みを生かして、ITフォレストこだいらでも施設内でのイベントを盛んに実施しています。近隣住民の方々とのつながりを大切にし、地域との連携を繋いでいこうとする明るい施設です。
今回は総務課長であり、介護スタッフの鈴木 和さんにインタビュー。以前は、武蔵境自動車教習所のスタッフで採用担当なども任されていた鈴木さん。介護職は未経験でしたが、2年前に初の介護事業に踏み込んだお一人です。
なぜ、介護現場で働くようになったのか。気になる日頃の入居者さまのご様子やスタッフの雰囲気など聞いてみました。
地域社会に必要とされることこそ、私たちの介護事業。
写真:アニマルセラピーの保護猫(サンちゃん)を抱く、鈴木 和さん
教習所が母体の介護施設はめずらしいと思うのですが、介護事業をはじめたきっかけは。
鈴木さん:今回、介護事業は初めての挑戦でした。教習所業界は若い世代の車離れや少子化などの影響を大きく受けており、中でも車の自動運転化の促進は、業界の根底をゆるがす社会変化です。
武蔵境自動車教習所では、教習所業界で初めて「サービス業」の概念を取り入れ、顧客満足を追求していくことで差別化を図り、おかげさまで、2022年には東京都でお客様入所数ナンバーワンの自動車教習所としてみなさんに評価をいただいております。
一方、今後の社会情勢を見据え、新たな新規事業に挑戦していくことが、経営方針として決まり、まずは武蔵野市の待機児童の問題の解消に貢献すべく、2018年に保育園を開園しました。
その際にお世話になった施工業者の三井ホームさまが、現在の「ITフォレストこだいら」の建設に携わられていたのです。そのご縁から、弊社に介護事業の話をご紹介いただき、武蔵境自動車教習所が母体となって運営を本格化する運びとなりました。
現在は私もITフォレストこだいらで総務の仕事をしながら、介護の現場にも携わっています。
教習所の受付スタッフから介護施設のスタッフとは、すごい転機ですね。
鈴木さん:そうですね。毎日いろんなことがありますが、充実しています。
私自身、介護職は未経験でしたが、母が障害者だったことから介助の方法などは知っていたので、割と現場には早く馴染めたかと思います。でも専門的なことはその都度、スタッフに教えてもらいました。
日勤や遅番だけでなく、夜勤もあるためシフト作りにはスタッフの協力が欠かせません。スタッフ同士、快く協力しながら譲り合ってくれるので、スタッフの皆さんには日々助けられています。
看護小規模多機能型居宅介護事業所ではどんなことをしているのですか
写真:季節ごとにレクで作った作品を展示
鈴木さん:施設内の1階にある看護小規模多機能型居宅介護事業所(略:看多機)では、通い、泊まり、訪問のサービスを複合的にご提供しています。看護師が常駐しているため、体調や心配事にすぐ対応ができる点が強みです。
年齢を重ねるに連れて、医療的なケアが必要になっても、住宅に住みながら看護師によるケアを受けることができ、長く住んでいただける環境が整っています。
入居者さまは、通所日の日中は看多機へ来られて、レクや体操を楽しまれています。また、看多機は地域密着型サービスなので、地域で暮らす高齢者の方々も通所されています。
そのため、入居者さまと地域の利用者さまとの間に自然と良い交流が生まれているご様子です。
地域交流については、どういったことを行うのですか。
写真:毎回、近隣地域一帯で盛り上がる
鈴木さん:施設がオープンした時から、地域の皆さまに私たちのことや施設の取り組みを見ていただき、知ってもらいたいという思いがありました。
自分の住んでいる地域に新しく高齢者住宅が建つとなると、「どんな人たちが住んで、どういう人たちが働いているのか」と不安を感じる方も多いのではないかと思ったからです。
これまで、武蔵境自動車教習所では「地域社会に認められてこそ一企業!」という考えで、創立以来、地域社会貢献に力を入れてきました。毎年サマーフェスティバルやもちつき大会、その他にも、ミニコンサートやナイトラン、放課後学習塾などを開催しています。
その経験を活かして、ITフォレストこだいらでは 2ヶ月に1回の頻度で、地域の皆さんに出店を募集してフリーマーケットや餅つきなどを施設の敷地内で開催しています。
ときにはジャズ奏者を呼んでコンサートやフラダンスのショーを観るなど、入居者さんやスタッフ、地域の皆さんが一体となってその空間を楽しんでいます。
残念ながらコロナ禍で開催が難しい月もあって、思うように進まないこともあります。ですが、地域の皆さまに「ITフォレストこだいらが出来てよかった!」と思っていただける施設になれるように邁進していきたいと思います。
施設の運営で大切にしていることは何でしょうか。
写真:誰でも気軽に立ち寄れるカフェが併設されている
鈴木さん:ITフォレストこだいらでは「すべての人が生きる歓びを実感できる場所づくり」を目指しています。それは入居者さまだけでなく、スタッフも同じです。
あえて漢字が「喜び」ではなく、「歓び」なのは「自分の手で生きる幸せを掴んでいく」という意味が込められています。
中でも大切にしているのは、スタッフの質です。施設にカラーを付けてくださるのは入居者さまですが、お一人お一人の色がより鮮やかになるよう、明るく照らすのはスタッフの役割です。
オープニングスタッフ採用時には、前職も介護職だった方が多くて頼り甲斐がありましたが、サ高住で働いた経験者はほとんどいませんでした。
会社もスタッフも、お互いに初めてなことが多く、この2年間はみんなで力を合わせて、手さぐりで施設を作ってきました。
今では見学に来られた方や、ご家族さまから「この施設はとても明るい!」と言っていただくことがあり、とてもうれしいです。
それは単に照明が明るいとか、採光が良いというわけではなく、スタッフが生み出している空気や雰囲気が、施設全体の明るさを作っているということなのだな、と思っています。
働いているスタッフの教育体制はどんなことを行っていますか。
鈴木さん:できるだけ、行政にて開催される研修などに参加してもらうように促進して、勤務時間内で受講ができるように取り計らっています。
熱心なスタッフに「普通救命救急講習を受けたい」と言われ、消防署で受講してもらう機会を作るなど、リクエストに応じた研修を実施しています。
入居者さまとの印象深いエピソードを教えてください。
写真:プライベート空間が守られ、落ち着いて過ごせる
鈴木さん:開設して1年が過ぎたころ、サ高住の空室を有効活用しようと自費ショートステイのサービスを始めました。
迎えた初めての夏、90代後半の女性がショートステイを利用されたのですが、ご自宅で熱中症にかかり、そのダメージからほぼ寝たきりで全てに介助が必要な状態でした。このままADLが落ちていくのではと誰もが思うような状況でしたが、スタッフが「この方はまだしっかり目に力がある!熱中症のダメージが回復していないだけで、病院で加療すればきっと良くなります」と意見してくれました。
その声に押され、ご家族さまに受診をご提案して、受け入れ先の病院を探し近くの病院へ入院。1ヶ月後に無事退院されました。
当初はショートステイのみ利用でしたが、退院後に当サ高住に入居を決められ、今ではご自分で手押し車を利用しながら歩き、食事もでき、レクや他の入居者さまとおしゃべりを楽しんでいらっしゃいます。その姿を見て、心からよかったと思いました。
このときの私たちの行動は、サ高住が持つ従来の役割の枠を飛び出していたかもしれません。ですが、「もうご高齢だから……」と諦めずに、私たちにできる最大限のことを模索し、実践できたことは大きな経験だったと実感しています。
介護事業を始めて2年、今思うことはありますか。
写真:公民館のようなサークル活動ができ、体操などを行う
鈴木さん:これからも「介護事業未経験だからこそできること」「他の施設がやっていないこと」に焦点を当てて、従来の介護現場のやり方にこだわらず、ITフォレストこだいらの良さとオリジナリティを大事にできたらと思います。
入居者様の外出・外泊なども今のところはなるべく自由にお出かけいただいています。ご家族と直接面会できたり、色々な方と直接交流を持つということが、生きるうえでとても大切な活力になると考えているからです。
確かに、コロナ禍で感染やクラスターのリスクが高いことは事実です。ですが、一点のリスクを見て、全てを奪うのも少々考えものだと思っています。
人は、あれもこれもできないとなると「何のために生きているのか」と、目標がなくなってしまうものですよね。
ITフォレストこだいらの理念やビジョンを思えば、人と出会い、好きなところへ出かけて、社会交流をすることはとても大切です。
施設やスタッフの都合で、入居者さまの生活を不自由にしてしまわないように心配りをしています。
最後に介護施設を探されている方・ご家族さまへメッセージを。
写真:終始、元気に話す鈴木さん
鈴木さん:今まで、大切なご両親やご兄弟さまを、介護施設へ預けることに罪悪感を感じたり、心を痛めたりされているご家族さまにお会いする機会が多くありました。
ですが、私が2年間介護現場で過ごして思うことは、大切なご家族さまのために良い介護施設を探そうとされるご家族さまのそのお姿こそが、ステキな親孝行だということです。
私たちも「今の自分に何ができるのか」をいつも考え、毎日心を込めて接させていただき、小平の地で入居者さまと生きる歓びを一緒に感じられたらと思っています。
当サ高住では、これからも「開かれた施設」を作っていきますので、ぜひ一度お気軽にご相談や見学にお越しいただけたらと思います。
インタビュアー 飯塚まりな