喫煙は“百害あって一利なし”とよく言いますが、生活習慣病であるがんや脳卒中になりやすいイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?
実は喫煙には他にも様々なリスクがあり、特に高齢者の場合、介護を必要としたり寝たきりの生活になってしまう確率が非喫煙者に比べ、格段にアップしてしまうのです。
本記事では、どのようにタバコ依存に向き合っていけばいいのか、本人だけでなく家族の関わり方についても精神保健福祉士が解説します。
高齢者に多い、タバコが原因になりうる疾患とは?
厚生労働省の2019年の国民生活基礎調査では、介護が必要になった原因の1位から6位までが喫煙と関係があると言う結果が出ました。
内訳は以下の通りです。
- 1位 認知症(18%)
- 2位 脳血管疾患(16%)
- 3位 高齢による衰弱(13%)
- 3位 骨折・転倒(13%)
- 4位 関節疾患(11%)
- 5位 心疾患(4%)
- 6位 呼吸器疾患(3%)
- 6位 がん(3%)
こうして見ると、タバコは様々な疾患の原因になりうるという事がわかりますよね。
この上位にランクインしている疾患は、高齢者であれば要介護状態に陥る可能性の高いものばかりです。
痛い思いをしたり、急に不自由な生活を強いられるのはつらいことですよね。
できるだけ人のお世話にならないようにと思っていても、人の手を借りないと生活できない状況になってしまう可能性もあります。
次項では、ランキング1位となった認知症と喫煙の関係性について掘り下げていきたいと思います。
認知症とタバコの関係性
厚生労働省が2024年5月に公表した認知症患者の推計数は、2022年時点で65歳以上の高齢者で443万人(12.3%)、2030年には523万人(高齢者の14%)とされています(認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計|厚生労働省)。
そのうち約7割を占めるのが、「アルツハイマー型認知症」です。アルツハイマー型認知症に次いで多く、約2割を占めるのが「脳血管性認知症」です。いずれの認知症も、喫煙によって発症リスクが高まることが判明しています。
1961年から調査を行っている福岡県久山町の調査では、生涯にわたって喫煙をしなかった集団と、中年期から老年期にかけて喫煙をしていた集団を追跡調査しました(清原裕“わが国における”認知症の実態と予防-久山町研究からのメッセージ)。
その結果、喫煙をしていた集団はアルツハイマー型認知症の発症リスクが2倍、脳血管性認知症の発症リスクが2.9倍になるということが判明しました。
しかし喫煙期間があったとしても、禁煙することによって認知症や認知機能の低下のリスクを低減させることができるとWHOのガイドラインで示されています。
認知症を発症してしまうと、現時点では進行を緩やかにしたり、現状維持を目的とした治療しか受けることができず、完治する薬はありません。進行していくと、本人だけでなく家族にも大きな負担が強いられることになります。
また、認知症になってから禁煙するのはとても大変ですし、付随して大きな事故につながってしまう場合もあります。
具体的にどのような大変さがあるのか、介護相談支援にあたっていた筆者の経験からお伝えしていきたいと思います。
認知症高齢者のタバコに関連したトラブルの例
禁煙させたい家族がタバコを隠した結果、万引きしてしまった
認知症=もの忘れという印象が強いですが、判断能力が欠如していくのも症状の一つです。
喫煙は医学的には立派な依存症ですから、「吸いたい」と思ったときにタバコがない、お金もない、となると、万引きしてでも吸いたくなってしまう場合もあるようです。
常識で考えると、「犯罪を犯してまで吸うことはないだろう」「隠してしまえそのうちタバコのことも忘れるだろう。」と思ってしまうのですが、そこが認知症の怖いところだと思います。
昔からのルーティンは認知症になっても覚えている方が多いですし、そのルーティンが崩れることによって、精神的にも肉体的にも別の問題が起きてしまうこともあります。
タバコを奢って金銭トラブルになった
喫煙者の間では、タバコは仲間とのコミュニケーションのひとつですよね。歳をとると外出頻度が減ってしまう中、ご近所さんとのタバコ談義を楽まれていた方がおられました。
しかし「お金がない」と言う友人に、実は毎日のようにタバコを奢ってしまっており、家族に見つかって大騒ぎになってしまいました。
家族としては全く外出しなくなって引きこもってしまっても困りますし、コミュニケーション自体は大切にしたいと思ったものの、本人に「奢ってはいけない」ということを伝えてその場では納得しても、次の日には忘れてまた奢ってしまうということが繰り返され、精神的に疲弊してしまい最終的には本人が施設入所という形になりました。
独居老人のタバコの不始末で家が火事になった
本人が認知症だったため記憶が曖昧でしたが、警察、消防の現場検証によりタバコの不始末による火事とされた事故がありました。
幸い本人は無事でご近所にも被害はなかったのですが、家は全焼ですべてを失ってしまいました。
身寄りがない方だったため、急所施設入居となり、突如慣れない場所での生活になってしまいました。認知症は生活やルーティンに大きな変化があると、階段を上るようなイメージで進行してしまうきっかけになります。
もともとおしゃべり好きな方でしたが、入居されてから認知症が進行し、ボーっと過ごすことが多くなってしまいました。
治療について
まずはやってみましょう!自分でできるタバコの依存度チェック!
TDSニコチン依存度テスト
禁煙治療の保険診療で用いられる、ニコチン依存度テストがあります。
全10問の質問で構成され、「はい」と答えると1点、「いいえ」と答えると0点、10問の点数の総計で依存度を判定します。5点以上が「ニコチン依存症」と診断されます。
設問内容 問1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか? 問2. 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか? 問3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか? 問4. 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか?(イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加) 問5. 問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか? 問6. 重い病気にかかったときに、タバコは良くないとわかっているのに吸うことがありましたか? 問7. タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか? 問8. タバコのために自分に精神的問題(離脱症状ではなく、喫煙することによって神経質になったり、不安や抑うつなどの症状が出現している状態)が起きているとわかっていても吸うことがありましたか? 問9. 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか? 問10. タバコが吸えないような仕事や付き合いを避けることが何度かありましたか?
いかがでしょうか?
といったように思っている方もおられますが、実際にチェックしてみると気づいていないだけですでに依存症になっているかも…という方も多いのではないでしょうか?
禁煙外来とは
厚生労働省が運営する生活習慣病予防のための健康情報サイトによると「禁煙外来とは、たばこをやめたい人向けに作られた専門外来のことであり、カウンセリングや生活指導といった精神面での禁煙サポートや、ニコチンガム・ニコチンパッチを使用したニコチン置換療法などによる禁煙治療が行われます。」とあります(引用元:禁煙外来 | e-ヘルスネット(厚生労働省))。
従来このような治療にかかる費用は健康保険の対象外でしたが、2006年4月から一定の基準を満たす患者の禁煙治療に関して保険適用が認められるようになったそうです。
また、禁煙外来を設けている専門病院でなくても、内科や呼吸器科などで禁煙治療を受けられる医療機関もあります。日本禁煙学会のウェブサイトでは、全国の禁煙外来を紹介しています。
家族の関わり方
- 本人に依存症の自覚がない
- 認知症になってしまって伝えても理解してもらえない
- 禁煙を勧めたことで家族関係が悪化してしまった
上記のように、なんとか禁煙してもらおうと説得しても難しい場合があります。
では、家族はどのように本人に関わっていけばいいのでしょうか?
本人の気持ちをいたわりつつ、「依存症であり、治療が必要」だということを伝える
心配するがゆえに「禁煙して!」と伝え方が強くなってしまうこともあるかと思います。ですが、強く言われると反発したくなってしまう気持ちもわかりますよね。
本人が「依存症かも…?」と感じていたり、「禁煙したほうがいいのかな」と思っているときはなおさら「言われなくてもわかってる!」と、自分の気持ちを理解してもらえていないと否定されている気持ちになってしまうかもしれません。
まずは「心配している」「元気でいてほしい」「家族の健康を守りたい」といったメッセージを丁寧に伝えることが大切です。
外部に相談する助けを求める
どうしても家族間だと言い合いになってしまう場合、家族以外の人間に話してもらったり同席してもらうことで本人も家族も落ち着いて話すことができることもあります。
例えば、「家族からかかりつけ医に相談し、本人に禁煙を提案してもらう」、「家族同席の受診を促してもらい、そのタイミングで禁煙を提案してもらう」、「医師から禁煙外来を紹介してもらう」などがあります。
病院でなくても、行政機関(役所の高齢者係や保健センター等)や、お住いの町の地域包括支援センター等では、地域の高齢者の相談を受け付けたり、お宅を訪問して生活状況の聞き取りを行ったりしている機関もありますので、一度相談してみるのも良いかと思います。
同じ内容でも専門家や外部の人間から伝えられると素直に耳を傾けようという気持ちになる方もおられますし、家族内のみで話し合いをするよりは、関係を悪化させることも防げるのではないでしょうか。
まとめ
本記事ではタバコと高齢者の問題について解説してきました。
禁煙はすぐにできるものではなく、長い道のりになります。しかし、何歳であっても禁煙することは不可能ではありませんし、禁煙することで得られるメリットは沢山あります。
困ったときは、ご本人もご家族もおひとりで悩まず、周りを頼りながら健康的な生活を目指していきましょう!