「フレイル」という言葉を聞いて、ピンとくるかたはどれくらいいらっしゃるでしょうか?
テレビ番組や新聞などで聞いたことはある。なんとなく知っているだけという方が多いと思います。
多くの高齢者が理想とする、寿命が尽きる直前まで病気や不自由に苦しむことなく、元気に長生きするという意味のピンピンコロリ。
この、ピンピンコロリに「フレイル」の早期発見が重要です。
今回は「フレイル」の診断法や自分で簡単にできるチェック法・改善・予防策まで解説します。
フレイルとは
フレイルとは、加齢により体力や気力が低下している状態のことをいい、「健康な状態」から「介護が必要な状態」の中間的な段階のことです。
フレイルは、英語の「Frailty」が語源となっており、日本語に訳すと虚弱や老衰を意味します。
このフレイルにいち早く気が付き、適切な方法で介入することで、再び「健康な状態」へ戻ることができるため、このフレイルの早期発見がとても重要です。
フレイルには3つの種類がある
フレイルには3つの種類があり、これらはお互いに影響し合っています。
①身体的フレイル
加齢によって、筋力が低下したり、骨粗しょう症や変形性関節症などの運動器の障害により日常生活に必要な身体の機能が衰えることをいいます。
また、身体の機能の低下が不活動につながり、心臓や呼吸器など臓器の機能の低下の原因にもなる可能性があります。
②精神・心理的フレイル
加齢に伴う認知機能の低下、抑うつなどの状態をいいます。
高齢になると、定年退職による役割の喪失やパートナーとの別れなど、ライフイベントの変化が原因となることが多いです。
③社会的フレイル
加齢に伴って社会とのつながりが希薄となり、社会的孤立・独居・経済的困窮に陥った状態のことをいいます。
これらの3つのフレイルが連鎖反応を起こし、老いを急速に進ませ、要介護状態に至らせてしまうこともあります。
連鎖の例をあげると、リハビリ病院で働いていた筆者は大腿骨骨折で入院した高齢女性を担当したのですが、配偶者を亡くしたことが連鎖が始まる引き金となってしまいました。
長年連れ添ったパートナーがいなくなり、抑うつ状態となり、外出できなくなってしまい、食事も作る気分になれず、栄養失調状態。筋力も低下し歩行時にふらつくようになって、ついには自宅で転倒し骨折。
このように3つのフレイルは影響し合い、心理的フレイルから身体・社会的フレイルにまで発展してしまうのです。
次にフレイルを早期発見するための診断手法・チェック方法をご紹介します。
フレイルの診断手法
日本版フレイル基準(J-CHS)
日本で最もよく使用されている診断基準です。
次の5項目のうち、3つ以上当てはまる場合はフレイル。1つまたは2つ該当する場合はフレイル前段階と診断されます。
- 体重減少:6か月で2-3kg以上の体重減少
- 筋力低下:握力が弱くなる(男性<26kg、女<18kg)
- 疲労感:(この2週間に)わけもなく疲れたような感じがする
- 歩行速度:通常歩行が遅くなる(<1.0m/秒)
- 身体活動:以下いずれも「週1回もしていない」と回答
- 軽い運動・体操などをしていますか?
- 定期的な運動・スポーツをしていますか?
フレイルのチェック法
早期発見と適切な対処で、「健康な状態」に戻ることが可能なフレイル。
自分でもできる簡単なチェック方法を知っておくことはとても重要です。ここでは、主な2つをご紹介します。
イレブンチェック
「栄養」「口腔」「運動」「社会性」「こころ」の要素からなる11項目の質問で判定します。
6項目以上の該当でフレイルと判定されます。
- ほぼ同じ年齢の同性と比較して健康に気を付けた食事を心がけていますか
- 野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも毎日2回以上は食べていますか
- 「さきいか」、「たくあん」くらいの固さの食品を普通に噛み切れますか
- お茶や汁物でむせることがありますか
- 1回30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施していますか
- 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか
- ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いと思いますか
- 昨年と比べて外出の回数が減っていますか
- 1日に1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか
- 自分が活気に溢れていると思いますか
- 何よりまず、物忘れが気になりますか
指輪っかテスト
筋肉量が充分にあるか判定する方法です。
- 膝を直角にして、足の裏を地面にしっかりと付けて椅子に座ります。
- 両方の親指と人差し指で輪っかをつくり、利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を囲みます。
判定方法
指とふくらはぎの間に隙間ができた場合は筋力が減少した状態だと判断できます。
ちょうど掴める、太くて掴めない場合は筋肉量が充分である可能性が高いです。
フレイルの改善方法
上記のチェックでフレイルだと判定されたらどうしたらよいでしょうか。
軽度の場合は、ご自分で次のフレイル改善の3つの柱に取り組んでみましょう。
栄養を摂る
- バランスの良い食事を心がけ、主食、主菜、乳製品、果物をまんべんなく摂取する。
- 筋肉の素となるたんぱく質(肉・魚・大豆製品)の摂取
- 骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚)と合わせてビタミンDを摂取
- 1日に必要なエネルギーの摂取
- 十分な水分の摂取
また、噛む力・飲み込む力を維持させること、口の中を健康を保つための毎日の歯磨きや定期的な歯科検診も重要です。
運動をする
生活の中で歩く、動くを意識して取り入れてください。
- 座りっぱなしにならない
- 家族に家事を任せず、自分ができることはやる
- クワットなどの筋肉に負荷をかけられる簡単な体操をする
- 万歩計で計測しながら、一日合計6,000歩を目指す
- ウォーキングなどの有酸素運動をする
まずは、負荷の少ないものから行い、無理をしないで行ってください。
社会参加をする
孤立せず、人と交流しましょう。
- 趣味や学習などの活動
- 町内会への参加
- ボランティア活動
- シルバー人材センターの仕事を行う
- 週に1回以上、友人や知人・親族と連絡を取り合う
フレイルの予防方法
フレイルの予防方法は改善方法と合わせて、以下の事柄を実施することをおすすめします。
- 定期的にフレイルのチェックを行う
- 自治体のフレイル予防活動へ参加する
- 持病のコントロールをする
- 新型コロナやインフルエンザなどの感染症対策を徹底する
フレイルの相談窓口
自分で改善させることが不安なかたは、フレイルの相談窓口を利用しましょう。
相談窓口は以下のものがあります。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、各自治体によって管理されている、その地域に住む65歳以上の高齢者やそのご家族などの身近な相談窓口です。
保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)が在籍しています。
無料で相談でき、フレイルチェックでフレイルと判明したけれど、どうしたらよいかわからないという時には、医療機関や福祉サービスの利用につなげてくれます。
医療機関
医療機関では、老年内科・老年病科・フレイル外来で相談ができます。
高齢者の心身の問題を総合的に捉え、フレイルの有無を診断・検査してもらうことができます。
原因特定後は治療に進むことができます。
また、ふだんから通院している医療機関(かかりつけ医)に相談するのもよいでしょう。
まとめ
加齢による老化は少しずづ進むため、意識していないと健常な状態からフレイルに進んでしまっているのに気が付きにくいと思います。
フレイルの診断・チェック方法を知り、変化を見逃すことなく、自分や家族の状態と向き合い、早期に対処し、改善させることが大切です。
健康な状態での長生き(ピンピンコロリ)を目指して、生活習慣を見直し、食事・運動・社会活動の3本柱を意識してフレイルの予防をしていきましょう。