人は10年で心身の状態が大きく変わります。70代前半では、要支援・要介護の割合は約6%に対し、80代前半では約30%が要支援・要介護状態になっています。
要支援・要介護状態を防ぐためとして、注目を浴びているのがフレイルです。フレイルを予防することで、いつまでも元気で健康な状態を維持できる場合があります。
この記事では、フレイルの特徴からセルフチェックをご紹介します。さらに、今日から取り入れたい予防方法についても解説していますので、参考にしてください。
フレイルとは
まずは、フレイルについて解説します。フレイルとはどのようなものなのか、どんな症状があるのかなど、順に見ていきましょう。
フレイルは健康な状態と要介護状態の間
フレイルとは、年齢に伴う心身・筋力の低下による虚弱の状態を指します。簡単にいいますと、健康な状態と要介護状態の間です。
とくに高齢者はフレイルになりやすく、フレイル→要介護状態になるといった流れが多く見られます。
また、持病のある方もフレイルになりやすいことがわかっています。次の疾患は心身の機能が低下しやすく、フレイルを発症する可能性が高い傾向にあります。
・糖尿病
・認知症
・うつ
・骨粗しょう症
・慢性腎臓病
うつの場合、軽度の状態であれば、すぐにフレイルに流れることはないかもしれません。しかし、重度のうつで外に出ずに、1日中家に引きこもっている状態が続けば、フレイルになりやすいでしょう。
しかし、フレイルは早期発見により、適切なサポートや予防することでフレイルの状態を改善できる場合があります。
フレイルの症状
フレイルの症状は一人ひとり異なる場合があります。一般的に見られるフレイルの症状は次の通りです。
・食欲が減る
・食事の時間が楽しくなくなる
・ダイエットをしていないのに体重が減った
・疲れやすくなった
・歩くスピードが遅くなった
フレイルになると、食欲が減退するため食事に対する興味がなくなる場合があります。また口腔機能の低下も見られ、食べ物を噛む力・飲み込む力が弱くなり、美味しく食べられないケースも見られます。
そうした食欲の減退から体重も落ちていき、身体が疲れやすくなる・外に出ることが億劫になるといった症状も出てくるため、フレイルのような症状が現れたときは早めに対策をとることが大切です。
そのほか、フレイル状態はストレス耐性が弱まったり、免疫機能が低下したりします。病気にもかかりやすくなるので、軽い風邪症状から肺炎になるケースも少なくありません。
病気にかかり長期入院した場合、筋力もどんどん低下して転倒リスクが高まる危険性もあります。さらに入院という環境に慣れず、ストレスが溜まって体調を崩して身体の回復に時間がかかることも。フレイル状態は、こうした悪循環を繰り返してしまうのです。
フレイになりやすい年齢は?
フレイルになりやすい年齢は、はっきりしていません。身体の状況や持病の有無などによって、フレイルに注意したい時期は異なります。
しかし、75歳未満のフレイルの発症は約5%に対し、85歳以上の方は約35%がフレイルの状態であったことが、2015年の日本老年医学会誌で明らかになっています。年齢が上がるにつれて、フレイルになる確率も高くなるので注意が必要です。
フレイルとサルコペニアとの違いは?
フレイルと似た状態に、サルコペニアがあります。サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少・身体機能が低下している状態です。高齢者が歩いたり立ったりすることが難しくなり、転倒リスク・介護が必要になる可能性が高くなります。
一方でフレイルは、加齢により心身の機能が虚弱した状態です。身体の状態だけでなく、精神や心理などの状態も含まれます。
サルコペニアはフレイルの発症要因の一つでもあるので、ウォーキングなどでサルコペニアを予防することが大切です。
フレイルになる3つの要因
フレイルになる原因は人それぞれ違います。しかし、一般的にフレイルになる要因は次の3つだと言われています。
・身体的要因
・精神・心理的要因
・社会的要因
それぞれ詳しく見ていきましょう。
運動能力の低下などによる身体的要因
身体が弱まることでフレイルになります。高齢者は運動する機会が減るため、運動不足に陥りやすいです。そうすることで、筋力・体力が低下し、歩きにくくなったり転倒しやすくなったりします。
また、口腔機能の低下もフレイルの要因です。食べ物を噛む力が弱くなり、食べ物をこぼす回数も増えます。悪化すると、嚥下障害を引き起こす場合があります。
うつや認知症などによる精神・心理的要因
精神・心理的要因は主に認知機能の低下です。記憶障害や失行、失認などの症状が見られます。軽い物忘れや物の名前が出てこないといった症状から始まりますが、進行すると認知症になる場合があります。
さらに、心理的な衰えはうつを引き起こすかもしれません。怒りっぽくなったりボーッとする時間が増えるなどの症状が見られ、認知症と勘違いされることもあります。
コミュニケーション不足などによる社会的要因
人とのつながりが減ることもフレイルの要因です。定年退職や家族の死別などで、家に引きこもる時間が長くなりがちです。また、人とのコミュニケーションを取る機会も減っていくため、孤立になりやすい特徴があります。
社会とのつながりがなくなることにより、人と交流するのを億劫に感じ、心身の状態が不安定になり、フレイル状態になってしまうのです。
いくつ当てはまる?フレイルのセルフチェック
フレイルにはさまざまな診断チェックがあります。なかでも、アメリカのフリード氏が提唱したフレイルのチェック項目は、国際的に使われており、日本でも用いられることの多い診断方法です。
2020年改定:日本版CHS基準
項目 | 評価基準 |
---|---|
体重減少 | 6か月で2kg以上の体重減少 |
筋力低下 | 握力)男性:28kg、女性:18kg |
疲労感 | ここ2週間、疲れやすくなった |
歩行速度 | 通常歩行速度<1.0m/秒 |
身体活動 | ①軽い運動をしていますか? ②定期的な運動・スポーツをしていますか? 上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答 |
引用:国立長寿医療研究センター
3項目以上当てはまれば、フレイルと診断されます。1〜2項目が当てはまると、フレイルではありませんが一歩手前のプレフレイルになります。0項目は健常です。
また、日常生活からフレイルをセルフチェックできる簡単な方法もあります。
手すりや壁を使わずに階段を昇れますか? | はい・いいえ |
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椅子に座った状態から何も掴まずに立ち上がれますか? | はい・いいえ |
15分ほど歩き続けることはできますか? | はい・いいえ |
転倒に対する不安は大きいですか? | はい・いいえ |
お茶や汁物などで咽せることがありますか? | はい・いいえ |
口が渇きやすいですか? | はい・いいえ |
週に1回以上の外出をしていますか? | はい・いいえ |
周囲に物忘れを指摘されますか? | はい・いいえ |
ここ2週間、生活に充実感がないと思うことはありますか? | はい・いいえ |
ここ2週間、楽しかったことが楽しめなくなったと感じますか? | はい・いいえ |
引用:平成21年厚生労働省「介護予防のための生活機能評価に関するマニュアル」
上記のセルフチェックはごく一部ですが、当てはまる数が多いほどフレイルの可能性が高くなります。
ただし、「はい」の数が少なくても病気のある方はフレイルの発症リスクが高いので、注意する必要があります。
フレイルの予防方法
フレイルに早く気がつき、これらか紹介する予防方法を取り入れることで、虚弱の進行を遅らせたり、フレイルから元の状態に戻ったりする場合があります。
どの予防方法も普段の生活に取り入れやすいので、ぜひ無理のない範囲で実践してみてください。
運動の習慣化
運動を習慣化して、筋肉量を増やしましょう。運動は筋肉や体力だけでなく、食事量もアップします。また、活動範囲も広がるので、地域の方との交流にもつながるでしょう。
運動はウォーキングや体操などの有酸素運動がおすすめです。足腰を使った生活を意識することが大切で、エスカレーターではなく階段を使う・立って料理する時間を増やすなどでも、十分な効果を感じられます。
はじめから運動量を増やすのは怪我のリスクがあるため、10分程度の運動からスタートしましょう。徐々に運動時間を増やすことで、無理なく続けられます。
栄養バランスの摂れた食事
食事量・食欲の低下は、低栄養状態を引き起こします。低栄養はフレイルの原因の一つでもあるので、主食・主菜・副菜から栄養バランスを補うことが大切です。理想は毎食ですが、まずは1日2回、栄養バランスを考えた食事を取り入れましょう。
とはいえ、一人暮らしの高齢者は栄養バランスが偏り、品目が少なくなりがちです。何品も作ることは大変だと感じるときは、惣菜や宅食サービスなどを活用して、負担を減らしながら栄養バランスの摂れた食事をしましょう。
また、栄養のある食事をするためには、口腔機能の維持も大切です。年齢を重ねるごとに、噛む力や舌を動かす力は弱まります。口腔機能の低下は、食べ物を飲み込みにくくなったり、こぼしたりするなど、食事を楽しめなくなるので、舌を動かす運動などを取り入れて口腔機能の低下を防ぎましょう。
社会参加して人とのつながりを実感
趣味のサークルやボランティア、孫、地域の子どもとの交流などに参加して人と交流することで、社会とのつながりを感じられます。
サークルやボランティアなどに参加しにくい方は、近所の方や家族などと外食するだけでも十分です。外食は人との関わりだけでなく、栄養バランスの摂れた食事もできます。
フレイルの3つの要因である身体的・精神心理的・社会的要因のすべてを予防できるので、人と外で食事を楽しむ時間を取り入れるようにしましょう。
持病をコントロールしてフレイルを予防
糖尿病や高血圧などの慢性疾患がある方は、持病をコントロールしましょう。医療機関を受診し、医師の指示のもと、正しく服用することが大切です。
フレイルの予防に欠かせないものは、体を動かすことです。持病のコントロールができていない場合、十分に体を動かせない・動くことが億劫になり、外に出る回数が減ってしまうかもしれません。
また持病により、フレイルが悪化することもあるので、持病のある方は適切な治療を受けましょう。
元気なときからフレイル予防をして健康な身体で過ごそう
要介護状態になると、健康な状態に戻ることが難しくなります。しかしフレイルであれば、適切な支援やサービス、予防を受けることで健康な状態に戻れることがあります。
今回紹介したセルフチェックに当てはまるものがあった場合、フレイルになる可能性があるので、日常生活でフレイルの予防を取り入れることが大切です。
とくにウォーキングや体操などの有酸素運動は、外出するための体力・しっかり食事を摂るために欠かせない基盤になります。運動不足の方が急に運動すると、怪我の恐れがあるので、まずは10分程度のウォーキングからはじめてみましょう。
継続することでフレイルの予防につながりますので、無理をせずに自分のペースでフレイル予防を取り入れてください。