

老人ホームに入居した高齢者の様子が以前と違うと感じたり、入居後はあまり笑わなくなったと不安に思う家族は少なくありません。
会いに行くたびに今までとは違う様子を見て、「まだ慣れていないせい?」「それとも他に原因があるの?」と、考えこんでしまったという家族もいます。
老人ホームの生活相談員歴8年の筆者が、その原因と家族ができる適切な向き合い方についてわかりやすく解説します。
老人ホーム入居後に無表情になったり口数が減った原因とは?
環境の変化によるストレス
もし老人ホームに入居したばかりなのであれば、環境の変化によるストレスが原因かもしれません。
誰だって、新しい環境に馴染むまでは緊張するものです。
施設によりますが、介護スタッフ、看護スタッフ、リハビリスタッフ、生活相談員、施設ケアマネージャー、入居している高齢者など、たくさんの人がいる環境です。
スタッフはシフト制なので毎日人が入れ替わります。「スタッフの顔をなかなか覚えられない」と仰る方も多いです。

毎日知らない人がいたら、慣れるまでなかなか落ち着かないだろうと想像するのは容易いことですね。
前向きな気持ちで入居していても、いざ新しい生活を迎えて今までの生活と全く違くなってしまうと、仕方ないことだとわかっていてもストレスに感じるでしょう。
環境の変化によるストレスへの対処法
新しい場所で暮らすために今までの生活の全てを変える必要はありません。
高齢者本人の趣味や好きなこと、本人が生活の中でいつもしていたことはありますか?

入居してから段々と表情が乏しくなっていくことを不安に感じた家族は、高齢者とたくさん話すようにしました。その何気ない会話の中でお菓子のことを知り、一緒に買いに行くようにしました。
すると、家族と一緒に買いに行くことが気分転換となり、大好きなお菓子を食べる習慣を復活できたをきっかけに、少しずつ今までの生活で行っていたことを「老人ホームでできるかな?」と、家族に相談するようになりました。
このように、なにが原因となってしまうかは人によって違います。
今までの生活の中で行っていたことを入居してもできるように、施設に確認や相談をすることでストレス解消のきっかけになるかもしれません。

認知症の進行
認知症の症状には、物忘れ、記憶障害、時間や場所や人がわからなくなってしまう見当識障害、妄想や幻覚、興奮、無気力、徘徊などがあります。
人や自分に対する関心が薄れていき、今までおしゃれに気を遣っていた人が段々と身なりを気にしなくなり、入浴頻度も減っていくことがあります。
下着が汚れていても交換しなくなり、歯磨きもしなくなることがあります。なにかをする意欲が低下した「無気力状態」となります。
そうなると他者との関わりも減り、外部からの刺激がなくなって表情が乏しくなります。
見当識障害で昼夜逆転となってしまい、昼間に起きていても頭がぼんやりとして他者との会話が減ってしまうこともあります。
認知症の進行への対処法
認知症の診断が出ておらず、「認知症疑い」の状態であれば、まずは医師に診察してもらいましょう。
家族が気付いた変化を老人ホームのスタッフにも伝えておき、スタッフにも普段の様子を聞いておくと良いでしょう。施設側としては高齢者への関わり方や必要なケアを検討する機会になります。

うつ症状
他者との交流が限られ、毎日がルーティン化することで刺激が減り、抑うつ症状につながることがあります。

そんな日々の中で、「老年期うつ」は見過ごされやすくなってしまいます。
漠然とした不安感や身体的不調を強く訴えたり、やる気が起きないと感じることや、焦燥感が強く、それが表情に表れることもあります。
もしこうした症状が続く場合、「老年期うつ」の可能性があるかもしれません。
うつ症状への対処法
認知症と同様に、まずは老人ホームのスタッフに相談しましょう。今までとの違いや、家族が感じたことを情報共有することでいち早くうつ症状に気付くことができるかもしれません。医師に診察してもらったり、スタッフと家族が連携を図ることが大事です。

虐待
テレビでたびたび、老人ホームでの虐待が報道されます。人と人が関わる以上、虐待の可能性が0%であると断言することはできません。
家族から見てとても良い老人ホームだとしても、実際に暮らす高齢者からするとそうではないこともあり得るのが悲しい現状です。
高齢者への虐待は5種類とされています。
- 身体的虐待
- 介護、世話の放棄・放任
- 心理的虐待
- 性的虐待
- 経済的虐待
ニュースに取り上げられるのは主に身体的虐待ですが、トイレに行きたいと言っているのに連れて行ってもらえない。
オムツ交換をせず長時間放置、暴言を吐かれたり、排泄介助や入浴介助の際にドアを閉めないで誰からも見られる環境で行われてしまったり、さまざまな虐待が存在しています。
虐待への対処法
まずはさりげなく本人の気持ちを聞いてみましょう。
この時、否定的な声掛けは避けて「最近どう?」「入居してから困っていることはある?」と、シンプルな声掛けを心掛けましょう。
認知症のため、妄想や幻覚で事実とは異なることを言う高齢者の場合は、発言をどこまで信用していいのかわからない…そんな時は虐待のサインが出ていないか確認してみましょう。
虐待のサイン
- 身体に不自然なアザや傷がないか
- 異常に拒否をしたり、怖がっていたり、以前と違う様子はないか
もし「虐待では?」と思うことがあってもすぐに決めつけず、まずは情報収集を行いましょう。
スタッフの対応や高齢者との接し方を観察し、違和感を感じたり不審な点があればケアマネージャーや施設長など老人ホームのスタッフに相談します。
必要であれば各市町村の高齢者虐待窓口にも相談しましょう。

家族の向き合い方
老人ホーム入居後に無表情や口数の減少が見られると、家族としては心配になりますよね。
「認知症が進んでしまったのでは?」「施設で何かあったのでは?」と不安になるのは当然です。
しかし、すぐに結論を出すのではなく、まずは冷静に状況を見極めることが大切です。
変化の背景にある可能性をひとつひとつ丁寧に見極め、高齢者本人の声や状態をしっかりと受け止めることが、最善のサポートにつながります。不安に感じることがあれば、まずは老人ホームのスタッフに相談しましょう。
高齢者、家族、老人ホームのスタッフ、医師が一つのチームとなり情報共有することで、些細な変化が大きな変化につながっていくことを防いだり、遅らせたりすることができるかもしれません。
まとめ
老人ホームへ入居後の変化はさまざまです。
慣れていない環境に適応できていない状態、認知症の進行、うつ症状、老人ホームスタッフの対応や他の入居者との関係、虐待など、原因は一つに限らず、いくつか重なっていることも考えられます。
大切なのは、すぐに決めつけないことです。家族が感じた変化や違和感はとても大事です。
家族は認知症だと思っていても、診断結果は老年期うつだったということもあり得ます。
家族と老人ホームが連携しながら、高齢者にとって最適なケアを考え、安心して過ごせる環境を整えていきましょう。
焦らず寄り添いながら、穏やかな日々をサポートすることが何より大切です。