延命治療とは?悩みが尽きない延命治療の判断。本人の意志や尊厳死についての家族の向き合い方をベテラン看護師が解説

延命治療とは?悩みが尽きない延命治療の判断。本人の意志や尊厳死についての家族の向き合い方をベテラン看護師が解説
看護師さん
看護師さん
まずはこの一文を見て下さい。どう感じますか?

延命治療は行わず、自然にまかせてほしい 91.1%

自然に死にたいってことよね?私もそう思っているけど、いざとなった時は気持ちが変わらないかしら。
おばあさん
おばあさん

これは内閣府がまとめた高齢者の健康に関する意識調査に書かれているもので、その当時の65歳以上の男女においての統計の数値です。

看護師さん
看護師さん
今回は、悩みの尽きない延命治療について説明していきます。
なんだかコワイわ。でもいつか自分がそうなるかもしれないと思うと、聞いておくしかないわね。
おばあさん
おばあさん

延命治療とは?

文字通り、命を延ばす治療です。回復する見込みがない人に対しての一時的に命を延ばすことだけを目的とした医療行為です。

延命治療の内容

  • 各種薬剤の投与
  • 点滴類
  • 輸血
  • 酸素投与
  • 人工呼吸器装着
  • その他(補助循環装置、人工肺、血液透析など)
こんな医療の言葉を聞くと、自分は元気になって家に戻れるって思ってしまうわね。
おばあさん
おばあさん
看護師さん
看護師さん
そうですね。でも、回復の見込みがない人へのこれらの医療行為は「命を延ばす」だけのものなんです。

延命治療は拒否できる?

延命治療は拒否できます。

拒否するためには『尊厳死(延命治療拒否)宣言書』を公正証書として作成し、保管しておく必要があります。

そうすることで効力を発揮します。作成・保管していることを家族間で共有し、いざという時には有効に使えるようにしておきましょう。

また『尊厳死に対する意思表示カード』を作っておくことも有効です。自分自身が言葉で伝えられない状況の際に、延命治療の希望の有無などを記載するためのものです。

法的な効力はありませんが、各地域や協会などで独自のものを発行しているところもあります。

これらが無くても自身の意志を代弁できる人がいれば、治療方針を決めるときに病院側へ『拒否』を伝えることが出来ます。

看護師さん
看護師さん
尊厳死とは「患者さんが自分の意志で、延命処置を受けずに死を迎えること」を言います。
死ぬ時のことはあまり考えたくないけど、自分がハッキリしていないと周りが困るんだろうね。
おばあさん
おばあさん
看護師さん
看護師さん
家族や親しい人に自身の考えをその都度伝えておくことは、お互いのためにもなりますし、自分の考えを整理することにもなりますね。

DNARという文字を目にしたことはありますか?

DNAR(do not attempt resuscitation):患者本人あるいは患者の代理人(家族や友人など、その人のキーパーソン)の意思決定をうけて心肺蘇生処置を行わないことです。

DNARと意思決定していた人が病気などで状態が悪くなった場合に、救急車で病院へ運ばれ蘇生処置や高度な医療を受けるという事例が増えています。

これは家族・親族とのコミュニケーション不足、高齢者入居施設の運営状況など様々な要因が関係しており、日本の救急医療や急性期病院のあり方に影響を及ぼしています。

看護師さん
看護師さん
延命治療やDNARという言葉が難しく聞こえるかもしれませんね。ご自分や家族の死に方に思いを巡らせる、という視点で考えてみましょう。
それなら少し簡単ね。私は家で最後を迎えたいとか、色んな管に繋がれて病院で死ぬのはイヤだ、とかで良さそうね。
おばあさん
おばあさん

家族の気持ち

高齢の親が救急車で病院へ運ばれ、延命治療をするかどうか医師から問われた時。子供のあなたは医師に何と返事をしますか?

「管まみれになって死ぬのは嫌だとずっと言ってました。延命治療はしなくていいです」

「えっ!?私が今それを決めるんですか?自分には答えは出せませんよ、延命しないって決めたら私が殺したみたいじゃないですか」

このようなケースは実際にあります。

本人の気持ち

わしは、もしもの時は何もしないでそのままでいい。病院でわけが分からない状態で生かされていたくはない。
おじいさん
おじいさん

と、ずっと意思表示をされていた方が、急病で救急車で運ばれた時をイメージしてください。

運ばれた病院で、家族が自分たちの意思を貫き通し「意識がなくてもいいからおじいちゃんを死なせないで!できることはなんでもして下さい!」と言いました。

病院側はそれに従い人工呼吸器をつけたり、自分で呼吸ができていても食事ができない状態になれば胃ろう(食べられない人のお腹に直接穴をあけ管を通し、胃に直接栄養を注入する医療行為)を作る。

意識は無い。ただベッド上にいるだけ…。寝たきりや人工呼吸器を使うことによる弊害(褥瘡、誤嚥性肺炎、手足の拘縮など多種)も様々にあります。

こんな風になりたくないから、自然に死にたいんだよ。(もちろん家族の気持ちは嬉しいんだけどな。)
おじいさん
おじいさん
看護師さん
看護師さん
これはおじいさんの意に沿ってはいませんね。おじいさんは意識がないので、もう自分の意見が言えません。だから、元気な時の意見を家族が尊重することが大切なのです。

反対に『延命治療はいらない』とずっと言い続け、家族もその意志に同意していた人が急病で運ばれた時。意識があり、医師や家族と話ができた場合を想定します。

『やっぱりまだ生きていたい、できる限りのことをして欲しい』と急に考えが変わりました。

この場合は本人の意志を尊重し、必要な治療が施されていきます。

家族はどう向き合えばいいのか

看護師さん
看護師さん
ズバリ『普段から死についての話に触れておく』ことがとても大切です。

『死ぬ』この言葉をどう感じますか?

昔から日本人は死を忌み嫌い、死を口にすることを避けてきました。しかし、人間誰しも100%の確率で死を迎えます。何があってもいつかは迎える『死』。

それならばしっかり家族間で話し合い、本人が望む形により近い状態で旅立たせる。このように前向きに考えてみてはいかがですか。

あるおじいさんの例

85歳のおじいさん。年齢の割に若く見える、元気、よく活動する(友達と旅行やカラオケに行く)という方でした。

ある日、娘さんが聞きました。

次女さん
次女さん
お父さん、もし具合が悪くなって救急車で運ばれることになったら、寝たきりになるかもしれないけど、できる治療は全部受けたい?それとも自然に任せたい?

すると、もう1人の娘さんが…

なんでそんなこと聞くの?!お父さんまだ元気なんだから、不謹慎よ!
長女さん
長女さん
おじいさん
おじいさん
まだ死ぬことは考えたくないな。孫も見たいし、カラオケにも行きたい。もっと長生きしたいんだよ。

と、話をすることさえできませんでした。

そのため次女さんは、普段お父さんと接する時の発言から意向や死生観のモトになるものをメモで残しています

  • 「植物人間にはなりたくないな」→ 脳死患者さんのニュースを見た時
  • 「オムツをしてまで生きていなくていい」→ 高齢者オムツのCMを見た時
  • 「死ぬまで自分の足で歩いていたい」→ ドラマで車椅子の人が出たシーンを見た時

このようなメモを急病の時に家族間で共有できるようにしているそうです。

アドバンスケアプランニング(ACP)

1990年代からアメリカで提唱された概念です。日本では『人生会議』と命名されています。

医療で使う場合は『生命会議』と言われ、逝き方を考える取り組みです。

こちらのリンクが大変参考になります。

普段の会話の中に質問項目を織り交ぜると、希望や意向を聞き出すことができるのではないでしょうか。

まとめ

延命治療、DNARなどの医療用語は一見、難しく感じることもあります。

ご本人、ご家族ともに逝き方を考えることでこれからの生き方も考えられる。

「まだ元気だからこそ、死ぬ時のことをしっかり考えて話そう」

楽しい人生を送り、楽しかったと言える最期が迎えられるといいですね。

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