
これは、私が担当している60代女性のお客様が、ふと口にした一言です。実際、災害時や急な入院など、銀行やATMが使えない状況に備えて、現金を自宅に保管する人は少なくありません。
いわゆる“タンス預金”と呼ばれるこの習慣。最近では、物価の上昇や金融不安、デジタル管理への抵抗感なども相まって、見直す人が増えている印象です。一方で、火災や盗難、税務リスクといった「隠れた危険性」も存在します。

タンス預金の基本とメリット・デメリット|なぜ選ばれ、なぜ危険なのか?
タンス預金とは?背景と広がる理由
「タンス預金」という言葉、聞いたことありますか?これは、銀行を使わず、自宅で現金を保管することを指します。特に高齢者を中心に広がっていて、日本銀行の推計では60兆円超とも言われています。
背景にはいくつかの不安があります。地震や台風でATMが止まること。金融機関の倒産ニュースを見て「銀行にすべて預けていて大丈夫なの?」と感じること。実際、以前お話しした70代のお客様も「手元に現金があるだけで、なぜか安心するんですよね」と笑っていました。

現金を直接手にして確認できるという“触れる安心感”も理由の一つ。スマホやアプリに不慣れな世代にとっては、通帳や通知ではなく、現物の存在が信頼感につながっているようです。
タンス預金のメリット
- すぐに使える:急な出費や災害時でも、手元にあれば即対応できます
- 外部トラブルに左右されない:システム障害や停電時も安心
- 「見える」ことで安心:実際に現金があることで、心の安定につながる

タンス預金のリスクと注意点
- 火災・盗難に弱い:現金は燃えたり盗まれたりすると、戻ってきません
- 家族が知らないと問題に:誰にも伝えていないと、遺族が気づかず廃棄してしまうことも

タンス預金と税金・法制度|バレる条件と申告リスクの真実
タンス預金は税務署にバレる?申告漏れとそのリスク

「現金なら見つからない」と思い込んでいる人、意外と多いです。しかし、税務署は思った以上に細かいところを見ています。
あるとき、税理士と一緒に対応した案件で、表向きは年収300万円の方が、実際には高級車を乗り回し、海外旅行に頻繁に行っていたんです。「この生活水準、申告と合わない」と税務署が目をつけ、結果的に未申告の現金収入が判明。追徴課税が数百万円にのぼりました。
税務署は、通帳の入出金履歴やクレジットカードの利用額、生活費とのバランスなど、複数の視点から調査します。

タンス預金と税金の関係|贈与税・相続税
現金もれっきとした「資産」です。だからこそ、贈与や相続が絡むと、当然課税の対象になります。
- 110万円を超える贈与には申告義務あり
- タンス預金も、亡くなった時点で相続財産にカウント
タンス預金はいくらまでなら安心?100万円ラインの誤解

「100万円なら問題ない」という通説は根拠が薄いです。金額より、どうやってその現金を得たのか、記録や証明が伴っているかが重要です。税務署はその整合性を重視しています。

タンス預金との賢い付き合い方|FP1級が提案する現金管理術
タンス預金を安全に管理するには?現金の分散と共有
すべてを一か所に保管するのは、リスクが高すぎます。火事や盗難で一瞬にして失う可能性があります。
- 自宅の複数の場所に分散保管する
- 信頼できる家族に、存在と場所だけは伝えておく
- 封筒やボックスに「用途」や「更新日」を書いておくと整理しやすい

タンス預金 vs 銀行・投資|分散管理でリスクを最小化する
現金、預金、投資。それぞれに「良さ」と「弱点」があるからこそ、どれか一つだけに頼るのはやっぱり危ういんですよね。そこで大事になってくるのが、バランスを取った『混合型管理』という考え方です。
たとえば、全部を現金で持っていると、インフレが進んだときに資産価値がどんどん目減りしてしまうリスクが。逆に、全資産を投資に回してしまうと、いざという時にすぐ現金を引き出せず、困ってしまう可能性もあります。
基本的な目安としては、生活費の3〜6ヶ月分は現金や預金でキープしておき、それを超えるお金は自分のリスク許容度に応じて運用に回す。これが堅実なスタイルです。
特に、フリーランスや業績に波がある仕事をしている方は、現金・預金の割合を少し厚めに持っておくと、精神的な余裕が全然違ってきます。

現金、預金、投資。バランスよく配分しておくことが、将来の不安を少しでも軽くしてくれる“生活防衛ライン”を作る、シンプルだけどとても強力な方法なんです。
応用編|タンス預金にまつわる生活設計の視点
タンス預金、実は単なる「お金の置き場所」というだけじゃないんです。
医療費や介護費、あるいは急な援助が必要になったとき、すぐに現金を動かせる“ライフライン”としても力を発揮してくれます。
特に急な入院や、突然の葬儀費用など、カード払いや振り込みではどうにも間に合わない場面に直面したとき、手元にすぐ使えるお金があることがどれほど心強いか──これは経験した人ほど痛感しているはずです。

よくある質問と誤解
火災保険で現金も補償されますか?

タンス預金があると生活保護は受けられないのでしょうか?

タンス預金の今後と社会動向
先日、私が主催した高齢者向けの資産管理セミナーでも、参加者の約6割が「なんらかの形でタンス預金をしている」と回答されました。
超低金利時代の長期化、そして金融機関への不信感ー。こうした背景から、「銀行に預けるより自宅で管理したい」という動きは、年々強まっているのを肌で感じます。
とはいえ、リスクも無視できません。
だからこそ、銀行の定期預金や、非課税枠のあるマル優口座、元本保証つきの個人向け国債など、安全性の高い選択肢とうまく組み合わせるのがおすすめです。
ちなみに、ゆうちょ銀行では「非常用払い戻し制度」も用意されていて、災害時に現金を引き出せる仕組みが整っています。

まとめ|現金との向き合い方を見直す
タンス預金は、単なる“隠し金”ではありません。
制度を知り、家族ときちんと情報を共有し、適切に管理することで、立派な資産防衛策になります。
特に大事なのは、タンス預金を「隠すもの」と考えず、「家計の一部」として正々堂々と位置づけること。
そして、場所や金額を家族と共有しておくことが、本当に“役立つ備え”につながります。
これからますます社会が不安定になっていく中で、現金は「守りの資産」としての役割を担ってくれるでしょう。
知識とルールを味方につければ、タンス預金はきっと、あなたと家族の未来を守る力強い武器になります。
まずは、自分にとっての「ちょうどいい現金量」を、一度見直してみませんか?