近年、高齢者の方の食生活において、「低栄養」状態の方が増えてきています。
「低栄養」とは、年齢を重ねるごとに食欲は徐々に低下しやすく、上手く食べることが難しくなり、必要な栄養素が取れなくなることで、体力も少しずつ衰え、身体機能が落ちることで健康を損なってしまうことです。
「最近疲れやすい」「食べる量が減った」「体重が減った」などの症状が見られたら「低栄養」の可能性があります。
ここでは、低栄養となってしまう原因や症状と低栄養から及ぼす体の変化、予防法をご紹介します。
なぜ低栄養となってしまうのか?
低栄養とはしっかり食事はとっていても、十分な栄養が取れず食生活が乱れていることで、体に必要なタンパク質やカルシウム、ビタミンなどが慢性的に欠乏してしまう状態のことを言います。
65歳以上の高齢者で男性の場合10人に1人、女性の場合5人に1人がなることから、決してリスクは低くなく、身近な健康問題となっています。
また、低栄養は食生活以外にも大きく3つの原因がありますので、参考にしてください。
高齢者が低栄養となる原因とは?
一つ目は、身体機能の低下による筋力の衰えからです。
年齢を重ねると慢性的疾病が原因で、筋力が衰え、体が支えられず転倒しやすく、また筋力低下によって骨量の減少にもつながり、骨折の危険性が高くなります。
生活面として筋力が低下すると、長距離の歩行が難しくなったり、重たい物が持てなくなってしまうことで、買い物がインスタント麺やパン・おにぎりなどの軽い食材しか買えなくなったりと、栄養が偏ってしまいます。
他にも、長時間立っていることが苦痛となり、台所で調理することが億劫となってしまい、スーパーやコンビニのお弁当などの加工食品で済ませてしまうことも、要因の一つです。
また、筋力の低下は他にも、食事に必要な「噛む力」と「飲み込む力」も衰え、咳き込む力も弱くなるので、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
二つ目は、配偶者やペットとの死別によって精神的ストレスが原因で、食欲低下となることです。
死別の他にも、自身の身体が衰えたことによって、出来ていたことが出来なくなってしまったことへのストレスも要因の一つとなり、他者との関わりも減ってしまうことで、認知機能の低下につながります。
認知機能が低下してしまうと、調理の手順が分からなくなったり、同じ物を買ってしまったりなどの症状が見られるようになります。
三つ目は、孤立や貧困が原因となる社会的・経済的問題です。
高齢者世帯やひとり暮らしをしている高齢者の増加によって、過疎化している地域に住んでいる方にとって、近くにスーパーなど買い物できる場所が遠く、買い物へ行く回数が減ってしまい、食事する回数が減ってしまいます。
また、近年では「値上げラッシュ」によって、経済的な問題を抱え買い物する物も限られていることも原因となっています。
低栄養による体へのリスクとは?
低栄養によって起こる体の変化が増えてきたら、かかりつけ医に相談してみましょう。
- 食事を残すことが増えた
- よくむせる(噛む力・飲み込む力の衰え)
- 疲れやすい(筋力の低下)
- 風邪や傷が治りにくい(免疫機能の低下)
- 転びやすくなった(筋力の低下)
- 歩く速度が遅くなったまたは、歩幅が狭くなった
- 体重が減った(半年の間に体重が2〜3kg減った)
また、体に必要な栄養が不足することで、「要介護状態」や「寝たきり」となる原因にもなる可能性もあります。
【骨折】
低栄養によって、骨をつくるカルシウムが不足や、運動量が減ることで骨の新陳代謝が落ちてしまい、骨の強度も弱くなってしまいます。
少しの衝撃でも骨折してしまう「骨粗しょう症」のリスクにもつながります。
【誤嚥性肺炎】
誤嚥性肺炎とは、高齢者に最も多い疾患と言われ、食べ物を自然に食道へ送り込むための「嚥下」の力が弱くなり、誤って気管から肺に入ってしまうことです。
本来なら、気管に食べ物が入ってしまいそうになると咳をしたり、免疫力があれば肺炎を起こすことも少ないのですが、肺に唾液や食べ物が入ってしまうと、胃と違い消化はされず肺の中に留まるため、炎症を起こします。
低栄養によって、咳をして吐き出す筋力が低下したり、免疫力が落ちている状態になっているため、誤嚥性肺炎になりやすいです。
【低血糖による意識障害】
高齢者にとって低血糖による意識障害状態とは、めまいや疲労感、眠気、集中力の低下、元気が出ないなどの症状がみられます。
普段から、白米やパン・麺類などの炭水化物が取れなくなると、体内の血糖値が下がってしまい「低血糖」を起こしてしまいます。
【低タンパク血症】
タンパク質が不足すると、血液中のタンパク質が減少してしまい、むくみやお腹に水が溜まってしまう腹水がみられます。
タンパク質は、筋肉や血液を作るとても大切な栄養素ですので、不足すると
また、低栄養の状態が長い間続くと「フレイル」「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」と言われている身体機能低下を表しています。
【フレイル】
加齢による心身の活力が低下することで、健康な状態と要介護が必要な状態の中間を指し、足腰の筋力が衰え、杖歩行から徐々に要介護状態に進んでいきます。
筋力が衰える身体的以外にも、認知機能が低下みられたり、うつ状態になる「精神・心理的フレイル」や歯や口などの口腔が衰える「オーラルフレイル」、足腰が弱まり転倒を恐れ閉じこもりになってしまう「社会的フレイル」などがあります。
また、糖尿病や骨粗しょう症などの持病によってフレイルが進行しやすくもなり、日常生活動作への影響が大きく、フレイルと併発しやすい大きな要因にもなります。
【サルコペニア】
長く低栄養の状態が続くと、活動量が減少してしまうことによって加齢の影響で筋肉量が減少や筋力の低下がみられます。
疾病に位置付けられているサルコペニアは、65歳以上の高齢者の1〜30%と該当します。
筋肉量の減少や筋力の低下によって、歩く・立ち上がるなどの基本動作に影響を生じ、転倒しやすくなったり、介護状態になる可能性があります。
サルコペニアになりやすい人の特徴として、以下の項目があります。
- つまずきやすい
- 歩幅が狭くなった
- 立っているのがつらい
- 猫背の方が楽
- 疲れやすい
- 信号が青の間に渡りきれない
- 足などがむくみやすい
などがみられる方は、サルコペニアの可能性があります。
【ロコモティブシンドローム】
ロコモティブシンドロームとは、英語で「移動」を表す「ロコモーション」と、移動するための能力を表す「ロコモティブ」を合わせたことを言い、移動するため能力が不足したり、衰えたりする状態で運動器症候群と言われます。
加齢や低栄養によって体の機能が障害を起こすことで、運動器官である骨や関節、筋肉、神経機能が低下し、「要介護」や「寝たきり」となってしまうことです。
特に加齢によって骨密度が減少することで、骨折につながる「骨粗しょう症」、膝関節の軟骨がすり減る「変形性ひざ関節症」や「変形性関節症」、背骨が変形突出していることで脊柱管が狭くなることで、神経が圧迫される「脊柱管狭窄症」の3つが原因とも言われます。
低栄養を予防する方法について
70代以降の高齢者が1日に必要な摂取カロリーは、男性で1,850〜2,200kcal・女性で1,500〜1,750kcalといわれています。
低栄養を防ぐためにはまず、食生活の見直しから必要な栄養素・食材は何か、ポイントや食事のコツをご紹介します。
必要な栄養素と食材について
高齢者に必要といわれている「タンパク質・ビタミン・カルシウム」を上手く取り入れて、健康的な身体つくりを目指しましょう。
まずは、高齢者が不足しがちな栄養素と1日の必要な摂取量をまとめましたので、参考にしてみてください。
【タンパク質】
筋肉や血液など、身体つくりには欠かせない栄養素であるタンパク質は、肉・魚・卵・乳製品などの動物性タンパク質を摂ることが大事です。
1回の食事で摂取できる量は少ないため、牛乳やヨーグルトなどを食後や間食などで、積極的に摂取するといいでしょう。
【ビタミン】
ビタミンはエネルギーにはなりませんが、糖質・脂質・タンパク質の分解や合成を助ける働き、成長を促進させるホルモンに近い働きをし、健康維持や体調管理には重要な栄養素となっています。
高齢者が特に必要なビタミンDは、体内で腸管でのカルシウム吸収を促す働きがあり、普段からカルシウムの摂取が少ない方でも摂り入れやすいです。
ビタミンDが不足すると、転倒や骨折リスクが上がり、活動量・筋肉量の減少・サルコペニアのリスクを高めてしまいます。
【カルシウム】
カルシウムは主に、骨や歯をつくる働きがありますが、他にもわずかな量で血液や筋肉・神経などの組織をつくる働きもあります。
不足すると骨がもろく、骨折しやすくなるだけではなく、神経や筋肉の興奮が高まり、筋肉の痙攣「テタニー」や全身の痙攣「てんかん」を引き起こす可能性があります。
カルシウムを摂取しやすい食材は、乳成分が最も多く次に野菜類・豆類・穀類・小魚・海藻が含まれます。
他にもn-3系脂肪酸という、青魚などに含まれている脂肪酸の一種で、サルコペニアが予防できる可能性があるといわれています。
食事の改善や環境について
高齢者の食事は不足している栄養だけでなく、食事を作る際に気を付けることや食べる環境も大切です。
食事を作るポイントとは?
噛む力・飲み込む力が衰え、固形物を噛み砕くことが難しくむせ込みやすいため、高齢者の食事作りには、気を付けなければなりません。
ここでは、ポイントをいくつかご紹介します。
【1日3食しっかり摂ること】
1日に3食は食事を摂らないと、1日に必要なエネルギーやタンパク質などの栄養素が不足します。
また、栄養バランスの良い食事を摂ることも大切です。
調理が億劫だからと、インスタント麺や加工食品で済ませず、「一日三菜」を摂るようにしましょう。
【咀嚼しやすくする】
噛む力・飲み込む力が徐々に衰えますので、噛みやすく具材を食べやすい大きさに切ったり、肉類の皮や筋は取り除いたり、野菜はなるべく繊維を切って、柔らかくなるまで火を通すことがポイントです。
また、自身の歯がなく噛めないという場合は、絹豆腐のような舌で潰せるソフト食もあります。
【飲み込みやすく】
食材を飲み込みやすくするために、具材を少し小さくする「一口大」の他にも、みじん切りのような細かい「刻み食」、ミキサーにかけペースト状のような形態「ミキサー食」などがあります。
少しでも、噛みやすく飲み込みやすいよう、少しの手間でも工夫して、食べやすくすることが大切です。
食事をする環境も大事
料理も食べやすくすることも大事ですが、食事を高めるための環境面を整えてあげることも重要です。
【食事中の姿勢】
食事をする際の姿勢はとても大切なことで介護施設や病院でも、食事の時の姿勢は特に気をつけます。
安全に食べられるように、背筋を伸ばし足を床にしっかりつけ、椅子とテーブルとの距離や高さを合わせ、姿勢を正しく体を安定させることが大事です。
姿勢が悪いと上手く飲み込めず誤嚥性肺炎を起こす恐れがあります。
【孤食を避ける】
一人きりで食べる孤食は、食事量の低下を招き低栄養の原因にもなります。
外出の機会を増やしたり、デイサービスなどの地域支援事業に参加をすることで、家族や友人などと一緒に、会話をしながら食事を楽しむことができ、食事の満足度も高くなります。
食事に誘う、一緒に準備をするなどの食行動を起こして、社会的つながりを持つことも大切です。
まとめ
高齢者に増加している低栄養は、足腰の筋力や免疫力の低下によって、体に大きな影響をもたらします。
低栄養を予防するには、栄養バランスの摂れた食事、1日3食食べることや食べやすい大きさにするなどが大事です。
1食分が多ければ、何回かに分けることで、無理なく食事を摂ることができます。
もし、食欲がない・疲れやすい・体重が増えないなどの症状が見られたら、一度かかりつけ医に相談してみましょう。