



突然ですが、言葉のわからない国に突然放り出された状態を想像してみてください
失語症を分かりやすくイメージしてもらうためによく使われる文です。
この状況を想像しただけでも「困るだろうな、ストレスになるだろうな」と予測できますよね。
今回は失語症について分かりやすく、福祉サービスや相談窓口も含めてお伝えします。
失語症とは
脳の『言語について管理している領域』が、病気や事故などによって損傷されたことで起きる言語機能の障害で、高次機能障害の1つです。
脳の言葉の引き出しの中から見合ったものが探し出せない、といったイメージです。
・言葉の記憶や情報はそのまま脳に残っている。
・呂律障害、失声症(声が出なくなる)とは異なる。
失語症の種類
脳の損傷部分により各々で症状は変わりますが、おおまかに分けることができます。代表的なものを5つ挙げます。
ブローカ失語(運動性失語)
すらすらと話せない、思っていることを話せない。
聞いて理解することはある程度可能。ブローカ野を損傷した時に起こる。
ウェルニッケ失語(感覚性失語)
聞いて理解することが難しい、言い間違いが多い。ウェルニッケ野を損傷した時に起こる。
健忘失語
失名詞失語とも言い、名詞(物、人の名前)がさっと出てこない。
伝導失語
単語の音の順番が入れ替わる、抜ける、余計な音が加わる。
発語する状態です。

全失語
聞く、読む、話す、書くの全てに重い障害が残る。

失語症の原因
停止性(悪化しない)
発症した時が一番重い症状
- 脳血管障害(脳卒中):脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血
- 事故などによる脳外傷
- 脳炎
進行性(悪化する)
- 脳腫瘍
- 認知症:主にアルツハイマー病(脳神経細胞の萎縮、変性により起こる認知症)
脳血管障害によるものが全体の約90%を占めます。

失語症の症状
話す、聞く(理解する)、読む、書く、患者さんによって症状は様々です。
「数と計算」にも障害を伴います。
話すことに関する症状

喚語(かんご)困難
言いたいことがあるのに、言葉になって出てこない
例:「えーと」「あの・・・」
迂言(うげん)
言いたい言葉が出てこず、他の言葉を使って説明しようとする
例:「丸くて…」「オレンジで…」「甘酸っぱい…」
錯語(さくご)
言葉の言い間違い
例:「みか」「みかんか」「みんか」「ぶどう」
ジャルゴン
正しく言っているつもりなのに聞く人にはデタラメに聞こえる
例:「にらま」「きなん」など
保続
一度口にした言葉が繰り返される
例:「みかんがみかんが嫌いです。みかんがみかんが…」
などがあります。
聞いて理解することに関する症状

- 全く理解できない:「???」…音としてしか認識できない
- 間違って聞き取る:「きまわり」「ひまわに」
- 違う言葉に置き換わる:『ひまわり』→「あさがお」
- 意味と結びつかない:『ひまわり』と聞き取れても、何のことか分からない
読むに関する症状
読解と音読は別な能力になります。
- ひらがなより漢字のほうが理解しやすい:『山』は高い山々が連なっている形がもと。「やま」より分かりやすい
- 読むほうが理解へのヒントが多い:聞いた文章を理解するには「記憶しながら理解を進める」必要がある。これが難しいことがある
- 視覚性錯読(さくどく):形が似ている文字の読み間違い。「ね」「れ」や「犬」「大」など
- 意味性錯読:意味的に関連した言葉と間違える。「足袋」を「くつした」、「猫」を「いぬ」と読む
- 音韻性錯読:音の順番が入れ替わる、別の音に変わる。「せなか」を「せかな」、「ろうか」を「ろうま」など
書くに関する症状

あるんです。

- ひらがなより漢字のほうが書きやすい:形がもとになっているため理解しやすい
- 漢字を書くときに「へん」と「つくり」が入れ替わることがある:実在しない字になる
- 意味的に近い、似ている文字と間違える:「松」と「梅」、「ぬ」と「め」など
- ひらがなでは間違い方が様々:『あんぱん』→「あぱぱん」、「ぱんあん」、「あぱん」など
数・計算に関わる症状
数字も言葉の1つですが、概念が複雑なため理解がより難しくなります。
例えば、『7』と見たり聞いたりした時に、『7』が持つ意味に結びつけることが難しくなります。
- 例えば日付、時間、値段、個数を数えるときなどに聞き間違い、言い間違いがある
- 暗算、掛け算、割り算は困難

失語症に関連した症状
失語症は高次機能障害の1つです。高次機能障害とは脳が傷ついたことにより起こる認知機能の障害です。
- 病識の低下、欠如:自分の障害に気づかない
- 神経疲労・易疲労性:脳が疲れやすく、やる気がない・怠けていると誤解される
- 注意障害:作業に集中できない、ミスが多くなる
- 記憶障害:過去を思い出せない、新しいことを覚えられない
など、他にも様々な症状があります。
相談窓口はどこ?

入院している病院の医療ソーシャルワーカーに相談し、必要に応じて自治体の福祉課にも相談。
障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳
失語症は『身体障害者手帳』の交付対象です。
他の高次機能障害もあれば『精神障害者保健福祉手帳』も交付対象になります。
医療費の助成、公共料金の割引、税金の控除や減免、障害者雇用へ応募できる、などの支援があります。
介護保険サービス
脳卒中(特定疾病)が原因の失語症では40歳から介護保険サービスを利用できます。
介護認定を受け、ケアマネージャーに相談・手続き後にサービスの利用が可能になります。
障害者総合支援法について
高次機能障害の人は障害者手帳を取得していなくても、診断書などにより障害者総合支援法のサービスが受けられます。
各都道府県に少なくとも1ヵ所は高次機能障害の支援拠点機関(病院など)があり、支援コーディネーターが配置されています。
失語症者向け意思疎通支援者
失語症者の社会参加の支援を目的にしています。
失語症者の外出に同行するなど、いろいろな場面で意思確認をしたり他の人とのコミュニケーションをサポートします。
病院や市役所、電車での外出や会合への出席などに同行します。
まとめ
話せないだけではなく、読み書き、理解、計算などにも障害が出る失語症。
「言葉は勝手に出てくるもの。言葉を出す、というのはとてもキツい」失語症患者さんが言われた言葉です。
知らない外国に自分が放り出されたら、と考えると少しは状況が分かるのかもしれません。
失語症者が疎外されていると感じなくていいようなサポート体制、社会福祉の充実が望まれます。