「ADL」とは、高齢者や障害者の身体能力などを確認するために用いられる言葉です。
加齢や病気などで、日常生活で行う「歩く」「着替える」「食事をする」などの動作に必要な身体能力の低下によって、ADLが低下しやすくなります。
ここでは、ADLがなぜ低下するのか、低下によって日常生活にどのような影響が出るのか、原因や予防方法を解説していきます。
ADLとは?
ADLとは、日常生活を送るために必要動作である「起き上がる動作や立ったり座ったり、移動、食事をする動作、更衣、排泄、入浴、整容」のことです。
元々はリハビリテーションで、患者の機能障害や治療の効果などを測るために用いられていましたが、最近では高齢者の生活機能の指標として使われていて、介護現場においても、ADLは高齢者や障がい者の身体能力や日常生活レベルを測るための重要な指標として使われています。
体力や筋力が衰えていると、ふらつきや転倒する恐れや手の握力が低下すると、食事の際箸で持ち上げられなくなったり、更衣ではボタンの付け外しも難しいです。
そのため、今まで出来ていたことが、誰かに手伝ってもらわないと出来ないことに、精神的に落ち込んでしまい、運動や思考、他者とのコミュニケーションを避けてしまいます。
また、ADLは身体機能だけでなく、認知機能・精神面・社会環境と関係しており、身体や脳の働きが衰え、寝たきりとなるといったことによって、ADLの低下につながってしまうので、注意してください。
ADL低下の原因とは?
ADL低下の原因として挙げられるのは、加齢によるからだの機能の衰えや病気・薬の副作用、生活習慣病などです。
他にも、パーキンソン病などの神経疾患、関節疾患、精神疾患、心臓・血液疾患や廃用症候群や認知症などの疾患へとつながる場合もあります。
加齢によるからだの機能の衰え
加齢によって筋力が落ちてしまうことで、活動量が減少してしまい、日常生活に必要な動作を自身で行うことが難しくなってしまいます。
生活習慣病
生活習慣病を発症する原因は、偏った食生活や喫煙、飲酒、ストレスなどによって高血圧や糖尿病を発症し、普段の生活に制限されADL低下につながります。
認知機能の衰え
認知機能が衰えることで、認知症を発症し、からだの動かし方が分からなくなり、歩けなくなってしまう歩行障害や、料理の流れを思い出せなくなる記憶障害などの症状があらわれます。
認知症によるADL低下が見られるのは他にも、電車の乗り方や服薬の飲み忘れなどもみられます。
精神不安定
精神的に不安定で落ち込みやすくなると、外出や会話をする意欲がなくなり、筋力や認知機能の低下が衰えADLの低下につながってしまいます。
薬の副作用
強い薬の副作用でADLが低下してしまう方もいます。
めまいやふらつきによって起こるため、かかりつけ医に相談し、服薬内容・方法を見直すことで改善につながります。
関節疾患
関節疾患の頸部痛や腰痛症など、関節の痛みによって活動量が減少してしまうことで、ADLが低下します。
ADLの種類について
ADLには種類があり、基本的日常生活動作と言われる「BADL」と手段的日常生活動作と呼ばれる「IADL」の2つです。
この2つには、それぞれどんな意味と違いがあるのかをご紹介します。
BADL(基本的日常生活動作)
BADL(基本的日常生活動作)とは、生活する際に必要な動作のことで、食事や移動、入浴、更衣、整容といった基本的な動作を言います。
例えば、食事は食べ物を口まで運んで咀嚼し、飲み込むまでの動作、更衣はシャツやズボンを自分で履いたり着たりするような動作です。
他にも、階段の上り下りや自立歩行、立ったり座ったり、排泄時の動作、身だしなみを整える動作もあります。
IADL(手段的日常生活動作)
IADL(手段的日常生活動作)とは、BADLよりも比較的複雑な日常生活動作です。
買い物やスケジュールの調整、交通機関を使った移動や金銭の管理、服薬の管理や料理などのことをいいます。
例えば、調理では献立を考え調理をして、配膳をし食事の片付けをするまでの動作を指します。
更衣は、季節や場所・状況などにふさわしい服装を考え選び、身だしなみを整え着ることがIADLとなります。
移動は、目的地まで交通機関を使って料金を払ったり、乗り継ぎをしたり、買い物の際は必要な持ち物と買いたい物を買って支払いするまでのことを指します。
IADLの低下は、こういった日常生活の動作を、自立的に送ることが困難になってしまいます。
ADLのチェック方法は?
日常生活に必要な動作を指すADLが低下したかをチェックする方法があります。
やり方はいくつかありますが、代表的にFIM(機能的自立度評価表)とBI(バーセル・インデックス)という評価方法がありますので、他のチェック方法と一緒に詳しく解説していきます。
BI(バーセル・インデックス)
BI(バーセル・インデックス)は、食事・移動・整容・トイレなど全部で10項目で評価され、それぞれの項目に0〜15点を5点刻みで点数をつけ、100点満点で合計点から評価されます。
自立から全介助まで細かく点数をつけて全項目の合計点で判断され、点数が高いほど自立度は高く、一般的には100点が全自立、60点になると部分自立、40点では大部分介助、0点は全介助となります。
FIM(機能的自立度評価表)
FIM(機能的自立度評価表)は、「運動能力」で13項目と「認知能力」で5項目と大きく2つあり、日常生活を送るなかで、実際に行っている日常生活動作をもとにして評価を行います。
運動能力には、食事・更衣・トイレ動作・排泄・トイレやベッドなどの移乗・移動の項目があり、認知能力には、コミュニケーション・社会認識があります。
BIと同じように、18項目それぞれに1〜7点などの段階があり、7点で全て自立で行え、介助が必要な状態は1点となり、点数によって評価します。
Lawtonの尺度
Lawtonの尺度は、対象者は高齢者ですが、男性と女性によって出題される項目が異なります。
男性は、電話の使い方や買い物など全部で5項目、女性は家事・洗濯・金銭管理など全部で8項目に回答する仕組みになっています。
老研式活動能力指標
老研式活動能力指標とは、手段的自立・知的能動性・社会的役割を評価するものです。
具体的に、バスなどの交通機関が利用できるのか、本を読めるか、友達の家を訪ねることがあるかなどの評価項目が多いです。
ADLの低下を予防する方法について
ADLが低下してしまう原因はいくつもありますが、予防方法を知っておけば、ADLの維持だけでなく、向上にもつながります。
では、どんな方法があるのかご紹介します。
リハビリテーション
リハビリテーションは、ADLの維持と向上に効果的と言われていて、理学療法・作業療法・言語療法の大きく3種類あります。
近年では、整形外科のリハビリ以外でもデイサービスや老健など、ADLの維持と向上を目的としたリハビリを実施する施設が増えてきています。
理学療法
立位訓練や関節可動域訓練などを行うことで、体力向上や筋力増強につながります。
また、自立した生活をサポートするための装具の作成や、杖や歩行器などの導入・調整なども理学療法の一つです。
作業療法
手先を使った訓練や買い物・料理などといった日常生活動作訓練や認知機能の改善などを行います。
言語療法
コミュニケーションの訓練をはじめ、嚥下機能訓練などを行い、言語機能の回復や維持を目指すリハビリです。
過度な介護と環境整備
ADLの低下の原因の一つとして、過度な介護が挙げられます。
ここで注意することは、要介護者の能力以上の動作の場合のみ、介護をするようにしましょう。
過度な介護は、その人自身の活動の機会を奪ってしまいます。
「自分でできることは、自分でやってもらう」という心構えを持つことが重要です。
また、福祉用具を上手に活用しましょう。
車椅子や杖などの歩行補助具をはじめ、食事や更衣時に使う福祉用具などを検討されるならば、ケアマネージャーに相談し、ADLの症状に合わせた物を使えば、ADL維持になります。
他にも住宅の改修で、手すりを設置したり、玄関先にスロープを作ったりと、運動機能に合わせ、住宅環境を整えることでADLの維持と改善になります。
積極的な社会活動
積極的な社会活動とは、適切な運動や十分な栄養摂取に加え、家事や趣味といった日常生活をこれまで同様に送ることも予防につながります。
また、高齢者のADLを維持するためには、家の中に閉じこもらず、積極的に外へ出ていくことも必要です。
生きがいや社会的な役割を意識できる居場所があると、ADLの低下予防になります。
QOL(生活の質)を高める
QOLを高めることで、ADLの低下を予防します。
日常生活のなかで、自分の役割を担えたり、地域の活動で何らかの役割を引き受けたりすることで、外部とのコミュニケーションが増え、幸福感や満足感が得られます。
また、働くことで社会とのつながり、社会とのつながりも増えますので、体力に余裕があれば短時間の就労もおすすめです。
高齢者向けの求人やシルバー人材センターに登録したりすると、自身の体力と生活に合った求人が見つかります。
まとめ
何気ない日常生活を送るために必要なADLは、生活習慣や認知症、病気によって自身で行えることが減ることで、介助が必要となってしまうと、低下が進んでしまいます。
ADLのチェックは、自宅でもチェックできる内容ですので、自分がどこまで出来るのか試しにチェックしてみてはいかがでしょうか。
また、改めて生活習慣を見直し、社会とのつながりを増やし、ADLを維持・向上していきましょう。