「母を入居させることに罪悪感があります。本当は家で生活したいのではないかと思っているんです…育ててもらったのにだめな娘ですね」
と、老人ホームへの入居に罪悪感を抱く家族がいます。
「大事な家族だから自分で世話をしたい」と思う方は多いですが、親は年齢を重ねるにつれ、介護負担はどんどん大きくなっていきます。
在宅介護が難しくなったタイミングで入居を検討される方が多いですが、「親を老人ホームに入居させていいのかどうか」と悩んだり、入居させたことに自分を責めてしまう方も少なくありません。
結論からお話すると、老人ホームへの入居は罪悪感を抱くような悪いことではありません。
ここでは、老人ホームへの入居を決めた家族に向けて、罪悪感の実態や向き合う方法を紹介します。
罪悪感はなぜ生まれるの?
長年の介護や葛藤を経て、やっと入居を決断したのに、入居させることに罪悪感を抱く方は少なくありません。
なぜ罪悪感が生まれてしまうのかみていきましょう。。
親の介護放棄?
「親を老人ホームに入居させることに対して、育ててくれた親の介護を放棄しているのではないか?」と、ご自身の気持ちが揺らいでいる場合があります。
「本当は自宅で最期まで暮らしたい」という親の希望を叶えることが難しく、入居を決めた場合。
老人ホームへの入居を決めた後でも「まだ家で介護できたのではないか」と、罪悪感が続いてしまうでしょう。
世間体や周囲の声
介護保険が制度化されるまで、親の介護は家族で行うことが一般的でした。
今では核家族化によって、介護をできる家族が少なく、介護保険制度により施設での暮らしも珍しくありません。
しかし、世間や周囲はどうでしょう?
離れて生活している兄弟や親せきや近所の方など介護の現場を見ていない人ほど、入居に対して批判的な言葉をかけ、「老人ホームに入れるなんてかわいそう」と責めるのです。
家族の罪悪感はますます強くなってしまいますね。
老人ホーム入居の実態
親を老人ホームに入居させるのは、責められたり罪悪感を抱いたりする必要があるのでしょうか。
そこで入居を検討された方のタイミングや心身の状態などの実態をみてみましょう。
在宅介護の限界に達している
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「在宅介護実態調査結果の分析に関する調査研究事業報告書」をみると、施設に入居を申請している割合は、要介護3で 12.8%、要介護4で 15.9%、要介護5で 13.4%とされ、要介護度が高くなるにつれて施設入居を希望される方の割合が高い傾向です。
要介護3というと、自力での日常生活動作が難しく、身の回りのほとんどに世話が必要な状態です。
認知症の場合は、さらに大変で家族の介護負担は大きくなります。
特に夜間の排泄や徘徊など、昼夜問わず介護をしなければいけない状況が続くと、仕事はもちろん自分自身の生活にも影響を与えてしまいます。
このように在宅介護を続けるのが難しくなって入居を決めるのは、本人や家族の負担軽減のため悪いことではありません。
同居の介護者の6割以上がストレスを抱えている
国民生活基礎調査の概況によると、同居の主な介護者についてストレスを抱えている方の割合は68.9%とされています。参照:厚生労働省 国民生活基礎調査の概況
愛する家族と思っていても、終日介護に明け暮れ、認知症の対応をしなければいけない日常に疲労していることが分かります。
介護のストレスによって、以下のような症状や介護うつを引き起こす可能性があります。
- 食欲低下
- 倦怠感
- 不安感
- 睡眠障害など
介護の負担やストレスによって、様々な症状が現れます。
介護者のストレスは、介護を受ける側にとってもストレスにつながるため、誰かの手を借りてサポートしてもらうのは悪いことではないのです。
介護離職の危機に直面している
家族の介護を理由に仕事を辞めてしまう介護離職は、年間10万人を超え、50代の年齢層が多いとされています。
介護のために仕事を辞めれば「しっかり親と向き合える」「負担が少なくなる」と思われがちです。
しかし、実際は異なります。
収入がなくなることで金銭的な負担が大きくなり、入居後してから再就職を頑張っても年齢的な理由で就職できない現状があるからです。
そのため、介護と仕事の両立が難しくなったタイミングで施設入居を検討する方が多くいらっしゃいます。
老人ホーム入居には罪悪感を超えるメリットが多い
老人ホームへの入居は、罪悪感を払拭するメリットがあります。
罪悪感を軽減するためには「良い選択肢ができた」と納得できることが大切です。
ここでは老人ホームに入居するのメリットを見ていきましょう。
家族の介護負担の軽減
親の心身状態によって異なりますが、在宅介護は365日24時間、絶えず傍にいる必要があります。
認知症の症状が強く、徘徊がある場合などは常時つきっきりで見守りをしなくてはいけません。
仕事もプライベートの時間もとれず、ただ介護をするだけの毎日が続くこともあるでしょう。
老人ホームに入居すれば、家族の介護負担を少なくし、時間や気持ちにもゆとりができるでしょう。
ADLや認知症症状の改善
「老人ホームに入居すると寝たきりになる、認知症が悪化する」といわれることもありますが、大きな誤解です。
老人ホームでは、ADL(日常生活動作)を維持・向上を目指して機能訓練やレクリエーション、脳トレなどが実施されています。
また、介護職員や入居者同士でコミュニケーションをとる機会が多いため、認知症の症状改善にも効果的です。
専門性の高い介護を受けられる
老人ホームには、介護福祉士や看護師、理学療法士などが働き、入居者のQOL(生活の質)の向上を目指す介護を実践しています。
特に認知症は、1人ひとりによって症状が異なり対応も様々です。
適切な介護を受けることで、入居者自身も穏やかに過ごすことができるでしょう。
また、胃ろうや喀痰吸引などに対応している施設では、将来的に医療ケアが必要になっても安心して過ごすことができますね。
罪悪感と向き合う、家族ができるアプローチ
親を老人ホームに入居させたことで生まれる罪悪感。
誰かの手を借りることや介護保険制度を利用してより良い環境で生活をしてもらうのは悪いことではありません。
しかし、いつまでも罪悪感が消えない場合、そのまま放置していても解消されません。
そこで一度罪悪感と向き合ってみて、家族だからこそできるアプローチをしていきましょう。
親にとって居心地のいい老人ホームを選ぶ
まず家族ができることは、親にとって居心地のいい老人ホームを選ぶことです。
老人ホームは施設によって、サービスの強みや特徴があります。
例えば、レクリエーションが充実している・リハビリに力を入れている・接遇に優れているなど様々です。
親がどんな生活を望むのかを考え、数多くある老人ホームの情報収集をして安心して過ごせる施設を選びましょう。
口コミや費用、交通の利便性について調べることも大切です。
有料老人ホームなどの高齢者施設は、現在では多様化が進んでおり、サービスも多様化しております。それだけ、自分に適したサービスを選べるようになってきましたが、選択できる範囲が広がった分、どのサービスを選ぶべきかわかりづらくなっているのも事実です。
そうしたことの解決のために、高齢者施設選びの困りごとがありましたら、『地域介護相談センター 近所のよしみ』までお気軽にご連絡ください。
施設の介護職員と信頼関係を築く
施設の介護職員に入居後の生活の様子や体調など、コミュニケーションを通じて聞いてみましょう。
罪悪感を抱えていることについても理解し、気持ちを受け止めてくれるはずです。
介護職員を信頼し、家族が安心できる施設に入居させることで罪悪感を和らげることができるでしょう。
定期的に面会に行く
家族の存在は、どんな時も親にとって大きな心の支えになります。
元気な顔を見せることで「放棄されたのではない」「家族から愛されている」と孤独感の解消や安心感にもつながるでしょう。
離れていても大切な存在であることを示すのは、家族だからこそできることです。
一緒に散歩や外食をする
施設に入居すると、自由な外出ができなかったり、集団生活の中で心を抑えている場合があります。
面会の時に散歩や外食をして、ストレス発散やリフレッシュしていただきましょう。
家族と施設の協力が大切
老人ホームに入居された後は施設に任せっきりではなく、家族と施設が協力して行うという姿勢が大切です。
施設では、夏祭りやクリスマス会など家族を交えた行事やイベントが開催されています。
できるだけ参加し、介護職員や他の入居者との交流を深めることが大切です。
本人も「家族が自分の生活の中にいる」と実感できるでしょう。
さいごに
老人ホームへの入居を決めた家族に向けて、罪悪感の実態や向き合う方法を紹介しました。
「大事な親の介護は家族でやりたい」と強い気持ちを持つ方も多いです。
しかし家族だからこそ、これまでの生活歴や割り切れない感情があることによって、負担やストレスが生まれてしまいます。
1人で抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談し、自分自身の健康と幸せを大切にできる選択をしましょう。
地域包括支援センターは全国で5,040カ所設置されています。
お住いの地域の地域包括支援センターをチェックし、ご相談されてみてください。
笑っている顔をみたり穏やかな様子を見ることで、罪悪感をなくし、安心して任せることができるでしょう。