高齢者の便秘でお悩みではないでしょうか。
便秘は若い世代では女性に多い印象があります。しかし、60歳を超えたあたりから男性でも便秘の方が増え、高齢者では男女問わず多くの方が悩んでいます。
この記事では、高齢者に多い便秘の原因や予防・対策について解説します。
たかが便秘されど便秘。便秘は全身の健康状態に影響し、生活の質を低下させる原因となります。便秘を軽視せず改善できるように対策していきましょう。
実は危険!高齢者が注意したい便秘とは?
便秘とは排便の回数が減り、排便困難を伴う状態です。通常は3日以上排便がない状態のことを言い、排便はあっても便の量が少なく残便感がある状態も当てはまります。
排便の回数には個人差があり、週1回の排便でも問題なく生活されている方もいれば、毎日排便があっても量が少なくスッキリしない症状に悩まされている方も多くいます。
高齢者には、普段は毎日排便がある方が1日便が出なかっただけでも便秘になったと思い込んで、下剤を服用される方も多いようです。また、毎日排便があると言っている方が実は量が少なくすっきり排便できていない方や、排便があっても便が硬く毎回苦労して排出している方もいます。便秘の状態でも自覚症状が少ないため見過ごされている方もいるため注意が必要です。
便秘には種類がある
便秘はその方によって原因や状態はさまざまです。便秘のタイプは、自律神経のバランスが崩れる「機能性便秘」と、疾患による「器質性便秘」に分けられます。それぞれのタイプについて詳しくみていきましょう。
自律神経のバランスが崩れる機能性便秘
便秘の原因として多いのが、腸の機能が低下することによって引き起こされる機能性便秘です。大腸の形態的変化を伴わないタイプの便秘です。
大腸の動きが低下することで便を肛門までうまく送れなくなったり、便が硬くなったりして排便の回数が減ってしまいます。
他にも、便は直腸まで輸送できるけれど「便の量が少ない」「便意の低下」「便を出す力が弱い」などの原因で便をうまく排出できなくなくなる排便困難型の方もいます。
疾患による器質性便秘
器質性便秘とは、疾患が原因で大腸の形が変化することで起こる便秘です。
大腸がんやクローン病、虚血性大腸炎などの疾患が原因で消化管に通過障害が起こります。排便障害とともに「腹部膨満感」「激しい腹痛」「嘔吐」「血便」などがあれば器質性便秘が疑われます。
高齢者で便秘が増える原因
高齢者に便秘が増える原因にはどのようなものがあるでしょうか。詳しくみていきましょう。
食事摂取量が低下する
高齢になると、若い頃に比べて食事の量が少なくなってしまうことは便秘の原因の一つです。食事の量が減少すれば便の材料となるものが減ってしまうため、脳から出る排便を促す指令も鈍くなってしまいます。
食事の量が減ったり、食事をしっかり摂っていても食事の内容が偏っていたりすると、便をスムーズに出すための食物繊維の摂取も少なくなってしまうため便秘につながります。
水分摂取量が低下する
水分の摂取量が少なくなると便が硬くなり、重さも滑らかさも足りなくなるため便がスムーズに移動できなくなります。食事摂取量の減少も、食事と一緒に摂取する水分や食事から得られる水分が減ってしまうため、体内の水分量が減ってしまう原因です。
夏場は特にたくさんの汗をかいて水分が失われてしまい、体内の水分量がさらに不足してしまいます。高齢の方は加齢による嚥下障害や、喉の渇きを感じにくくなることが原因で水分の摂取量が少なくなってしまう方も多いでしょう。また、トイレの失敗などが心配で水分摂取を控えてしまう方もいます。
腸の働きが低下する
腸のぜん動運動が低下してしまうのも便秘の原因です。腸の動きは自律神経に支配されており、胃に食物が入ると指令が出てぜん動運動が始まります。ストレスで自律神経がうまくはたらかなくなると腸のぜん動運動が正常に起こりません。
加齢により腸の働きが低下し、便が腸に滞る時間が長くなると便が硬くなってしまうことが便秘の原因になってしまいます。
筋力が低下する
高齢になると腹筋や背筋も衰えてしまうため、便を排出する時の「いきむ」行為が難しくなります。排便するときに必要な腹筋や肛門括約筋が弱くなってしまうと、便を押し出しにくくなってしまうのです。
活動量が低下し、運動不足になると大腸のぜん動運動も低下してしまいます。運動不足は、筋力の低下や食欲の低下に伴う食事量の減少も招いてしまう、便秘の大きな要因です。
便意を感じにくくなる
便意は便が大腸の近くまで到達した時に生じます。高齢になると、直腸の知覚が低下して便意を感じにくくなるため、なかなか便意が生じません。
便意を感じにくくなると直腸に便が溜まってしまい、排便のタイミングを逃してしまいます。
薬の影響
薬の影響で便秘がちになる方も。便秘の原因になる薬剤には「鉄剤」「胃薬」「血圧薬」「パーキンソン病治療剤」「抗うつ剤」「ガン疼痛に対する麻薬」などがあります。
高齢になると体調を崩し病院に行く頻度が増え、処方される薬も多くなってしまいます。服用を中止できない大切なお薬も含まれますが、変更や中止ができる薬を主治医に相談してみるのも一つです。
疾患の影響
前述した通り、疾患が原因で大腸の形が変化することで器質性便秘を引き起こします。大腸の疾患以外にもさまざまな疾患が便秘につながります。
便秘を引き起こす疾患の一例は以下の通りです。
パーキンソン病 | 腸の神経に変化が起こる 治療薬の副作用 |
うつ病 | 腸の神経に変化が起こる 治療薬の副作用 |
甲状腺機能低下症 | 甲状腺ホルモンが足りず体内の代謝が滞る |
脊髄損傷 | 腸への神経が遮断される |
糖尿病 | 神経障害が生じ腸の動きが遅くなる |
認知症 | 認知機能の低下 向精神薬の副作用 |
急な便秘は何らかの病気にかかっているサインかもしれません。
高齢者の便秘予防・対策
高齢者は加齢や疾患などで便秘になりやすいことがわかりました。ここからはなるべく便秘にならないための予防や対応策をご紹介します。出来るだけ便秘を回避できるようにしていきましょう。
食生活を見直す
食事は1日3回規則正しく摂取するのが基本です。特に、朝食を摂取することで腸に刺激を与え、排便を促しやすくするため朝食は抜かないようにしましょう。
食事の内容は、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂るのがおすすめ。食物繊維は水分を吸収し、便の量を増やし排泄しやすくする働きがあります。
ただし、食物繊維が豊富な食材は硬いものが多いため、高齢者でも食べやすい大きさや柔らかさにできるように調理方法を工夫してください。
水分をしっかり摂る
水分が不足すると便が硬くなり、腸内を通過しづらくなってスムーズに移動ができません。便を柔らかくするために、こまめな水分摂取で便が硬くならないようにしましょう。
水分を控えると便秘だけでなく脱水症を引き起こす要因にもなります。高齢者は特に、普通に水分を摂取しているだけでは不足してしまうため、意識的に摂取するようにしなくてはなりません。
毎朝トイレに座る
便意がない日でも、毎日決まった時間にトイレに座るのを習慣にしましょう。特に、朝食後にトイレに座る習慣を作るのがおすすめです。
便意がなくても毎朝トイレに座ることで排便習慣が整えられやすくなります。
適度な運動をする
適度な運動を習慣にするのも便秘の予防・改善に効果的です。全身運動により腸の活動が活発になります。
高齢者には適度なウォーキングやラジオ体操などがおすすめ。全身の血行が良くなり、胃腸の動きが活発になります。筋力を維持することで腹圧がかけやすくなるため便秘改善が期待できます。
家事やガーデニングなど趣味などで体を動かすのも大切です。運動をしなくとも、普段から体を動かし活動的に生活するようにしましょう。
腹部マッサージを取り入れる
お腹をマッサージすることで腸に刺激が与えられ便意が促されます。
最も有名なのが、おへそを中心に「の」の字を描くように時計回りに手のひらで押す「の」の字マッサージです。おへその下から、右下→右上→左上→左下と、ゆっくりやさしく押すように刺激します。時計と反対回りだと腸の動きと逆行してしまうので、腸のぜん動運動を促すためには時計回りのマッサージが効果的です。
腹部のマッサージは誰にでも簡単にできる手軽な便秘対策なので、隙間時間に取り入れてみましょう。
薬の力を借りる
便秘には、ダイエットや生活の変化、ストレスなどで排便リズムが崩れることによって生じる「急性便秘」と、長期間便秘の症状が続いている「慢性便秘」があります。
急性便秘は一時的なもので、生活リズムが元に戻るなど原因が解消されれば便秘も改善されます。しかし、高齢者は慢性的な便秘に悩まされている方が多いため、生活習慣を改善することが難しい場合は薬に頼るのも一つです。
便秘薬には、酸化マグネシウムに代表されるような毎日適量を内服する「緩下剤」と、腸を刺激して動きを活発化させる「刺激性下剤」があります。基本的には、緩下剤でも排便がない場合に頓用で刺激性下剤を使用します。
ただし、刺激性下剤は依存性があり、毎日使っていると効き目が弱くなってしまうため注意が必要です。漫然と服用しないようにしましょう。
薬局に行けば市販の便秘薬がたくさん売られていますが、自分に合う薬を選択するのは難しいことです。また、急な便秘では疾患などが原因になっているケースもあるので自己判断せずに主治医に相談して薬を検討しましょう。
便秘改善のためにできることをしてみよう!
今回の記事では、高齢者に多い便秘の悩みについて解説しました。
便秘は高齢者によくみられる症状ですが、誰にでもよくあることだと言ってそのまま放置してはいけません。便秘は生活の質を低下させてしまい、全身の健康にも悪影響を与えます。軽視できない病気が隠れている可能性もあります。
生活を見直したり、主治医に相談たりして便秘改善のためにできることを行っていきましょう。