介護カスハラとは?老人ホームでの職員・スタッフへの要求や行為はどこまで許される?認知症高齢者との関係も解説

介護カスハラとは?老人ホームでの職員・スタッフへの要求や行為はどこまで許される?認知症高齢者との関係も解説

「介護カスハラ」というニュースが盛んに叫ばれるようになった昨今。

介護職の約9割が「介護カスハラ」を受けたことがあるという調査結果が出ています。

令和7年4月21日より東京都は介護職員・カスタマーハラスメント相談窓口を設置しました。

正直なところ私は「介護カスハラ」という言葉にピンときていません。

介護の職について20年目、デイサービスで17年勤務。現在も特別養護老人ホームにて生活相談員兼、現場サブリーダーとして従事しています。

職員さん
職員さん
そう言われてみれば、カスハラだったのかしら?

なぜならよくニュースで挙げられているような、高齢者から介護者への暴言や暴力は日常茶飯事。当たり前の景色です。

だからこそ、介護保険が始まって25年以上経ち、やっと相談窓口が設置されることになったと考えます。

この記事では「介護カスハラ」の全容や事例、老人ホームへの要求はどこまでが許容範囲であるのか?

大切なご家族を預ける老人ホームを選ぶ上での、ポイントを解説していきます。

実際に私が経験した事例を中心に挙げていきますので、読んだ方のお役に立てれば幸いです。

カスタマーハラスメントとクレームの違い

まずは介護の枠組みを外して、大枠でカスハラについて解説をします。

カスハラとは顧客や取引先などが従業員に対して、不当な請求もしくは迷惑行為、嫌がらせなどがそれに当たります。

従業員がサービス業などで、当たり前のサービスを行っていなかった、もしくは明らかにミスがあった

そのような場合、顧客から従業員への指摘は改善を求めるものです。すなわち、クレームとなります。

カスハラの具体例として、人格を否定するような暴言や暴力。

土下座の強要や家族に危害を加える、脅す行為などが挙げられます。

犯罪に相当する行為はカスハラとなり、サービスの改善を求める要望はクレームということになります。

介護カスハラとは

では、介護におけるカスハラについて解説をします。

一般的なカスハラとの決定的な違いは、悪意がないということです。ただし、これはお客様に対してだけ。

介護におけるお客様とはつまり高齢者、認知症を患っている方も含まれます。

職員さん
職員さん
ということは暴言や暴力があっても、それは病気がそうさせている。もしくは介護者の声掛けや介助方法が不適切なために起こる、スキル不足問題です。

他にも環境や時間、排泄介助、入浴介助を嫌がるという場面ごとに現れる拒否など。これら様々な要因が重なって起きているケースが考えられます。

それに対してご家族からの過剰な要望などは、一般的なカスハラに近いものがあります。

ご家族からご本人への愛情が深いあまり、カスハラと気づかず結果的にそうなっているケースがあります。

次章で具体例を交えながら詳しく見ていきたいと思います。

私が実際に対応した介護カスハラ3事例

  • 暴力、暴言
  • セクハラ
  • ご家族からの過剰な要求

順番に見ていきます。

暴力、暴言

もうこれは冒頭でもお伝えしましたが、日常茶飯事でどこの介護施設でもあると言えます。入所施設、デイサービス問わずです。

特にデイサービスではご自宅でお風呂に入ることができないので、来ている方が多いです。

ということは自宅に手すりなどがなく危険だから入れないか、認知症を患っているために入らないかのどちらか。

後者の場合、当然お風呂の声掛けに対して拒否が聞かれます。

おばあさん
おばあさん
うちで入っているからいいわよ
めんどくさいから今日は入らねぇよ!
おじいさん
おじいさん

このセリフを何万回聞いたことか…。

なんとか声掛けで服さえ脱いでくれれば、こっちのもの。すんなり入ってくれます。

しかし例外もあります。

浴室という密室な空間で、暴力や暴言が聞かれるということになります。

場合によっては2人対応で、なんとか頭と身体を洗って湯船には入れずというパターンが多いです。

相談員としてもご家族からの強い希望でお風呂に入りに来ている方を、入れませんでしたと帰すわけにはいかず。

冒頭でカスハラとクレームの違いについて話しました。

職員さん
職員さん
お風呂に入るという当然のサービスを受けられないということは、クレームを頂いてしかるべきです。

なので介護の現場において、暴力や暴言は日常茶飯事で起きてしまいます。

薬の調整や介護職員の声掛けのスキルだけでは、全てのケースを解決するのは難しいのが現状です。

セクハラ

男性の高齢者が女性の職員にセクハラをする。これもよくあるパターンです。

そういう方は男性が必ず介助を行うことで解決します。

しかしつい最近、私が勤めている施設で、初めてのケースを経験しました。それは、男性の高齢者が女性の高齢者に対してセクハラを行うというもの。

職員さん
職員さん
これには困りました。その男性は認知症を患っていますが、一人で自由に歩けます。なので、なりふり構わずいろんな女性の高齢者に手を出し、職員も防ぎようがありませんでした。

最終的には薬の調整や職員が常に監視し注意をしていくことで、落ち着いてきました。

ただ本人も認知症で感情の制御ができず、行ってしまったことなので、悪意があったわけではありません。

毎日をつまらなそうに過ごしています。

職員から積極的にコミュニケーションを取ったり、レクリエーションに誘ったりして、笑顔が増えるように努めているところです。

ご家族からの過剰な要求

一般的なカスハラに近いものがご家族からの過剰な要求です。

ここで介護保険内で提供できるサービスと、介護保険外のサービスを整理しておきましょう。

介護保険内サービス

  • 身体介助:食事・排泄・入浴介助・衣服の着脱・通院や外出介助・就寝・起床介助
  • 生活支援:掃除・洗濯・調理・買い物・薬の受け取りなど

要介護者のみが対象であり、サービス時間や内容に制限あり。原則として本人のみが対象となります。

介護保険外サービス

  • 個別介助サービス
  • 草むしり、花の水やり
  • ペットの世話
  • 家屋の修理や家具の移動、大掃除
  • お酒やたばこ等嗜好品の買い物

介護認定の有無にかかわらず誰でも利用可能。利用者や家族の希望に合わせて、内容や時間を柔軟に設定できます。

本人やご家族の細かなニーズにも対応し、自由度が高い。

ご家族からご利用者への愛情が深ければ深いほど、介護保険外のサービスを求める傾向にあります。

私が現在進行系で対応している事例

歪んだ愛情と言うべきでしょうか。私が今、対応している事例です。

毎週末ショートステイを利用している女性の高齢者の話です。ご家族から日にちと時間を指定されたトイレ誘導表を持参されます。

職員さん
職員さん
きっちり4時間半ごとにトイレへの時間を指定され、トイレに行く前に本人からご家族へ電話。トイレが終わったらまた電話。もちろん夜間帯もです。一体何のために預けているのかわからない状態です。

ご本人様は病気もあり、4時間半より前にトイレへ行きたいと訴えることがありますが、「まだ時間じゃないですよ」と伝えなければならないことが心苦しいです。

ご家族は自宅でトイレに行く回数が増えてしまい、本人のためにならないからと要望を出していますが、虐待に相当する事例です。

排泄介助はもちろん介護保険内のサービスです。

しかし、時間を指定したり本人の意志を尊重したりしない排泄介助は、介護保険外サービスになります。

もしあなたが介護保険外のサービスを提供してくれる老人ホームを探すとしたら

お母さんには最期まで自分らしく生きてほしいわ
親父には最期まで好きなことをさせてやりたい

先程の例は特殊でしたが「大切な親が最期まで自分らしく生きてほしい」このように考える方が多いと思います。

介護保険外のサービスを提供してくれる老人ホームの見つけ方は以下の3つです。

  • 介護保険内サービスと介護保険外サービスが明確に線引きされている
  • 職員配置の手厚さ
  • 定期的な認知症ケアに対する研修の実施

介護保険内サービスと介護保険外サービスが明確に線引きされている

老人ホームによっては身体的サポートとコンシェルジュサービスと題し、明確にサービスを行う職員を分けている場合があります。

身体的サポートとは介護保険内の介助全般。コンシェルジュサービスとは介護保険外の個別サービス。

このようにサービスを分けることにより、介護職員への期待値が下がり、一気に負担が減ります。

結果、質の高いサービスを提供できるということです。

職員配置の手厚さ

一般的に介護職員1人に対して、入居者は3人が基準となっています。

老人ホームによっては介護職員1人に対して入居者が1.5〜2.5人のところもあります。

職員配置が手厚いということは当然ながら、手厚いサービスを入居者へ提供することができます。

例えば居室に飾っている花に水をあげてほしいなど、ちょっとした要望なら対応してくれるはずです。

定期的な認知症ケアに対する研修の実施

とても重要です。

先ほども述べたように暴力や暴言は100%防ぐことができません。職員が症状別にその人らしさを意識した個別ケアを学ぶこと。

自分の身を守る方法を知っておくこと。

定期的な研修が行われているということは、介護カスハラへの意識が高い老人ホームと言えます。

おわりに:介護カスハラを知り、信頼できる老人ホームを見つけるために

お母さんの髪型は必ず、ポニーテールでお願いします
仕事なんだから家族の要望に応えて当たり前だろう?

介護保険内のサービスと介護保険外のサービスをハッキリと区分けするのは難しいです。

なぜなら認知症ケアは個別にケアをしないと成り立たないからです。

例えば、利用者を呼ぶときに必ず「先生」と呼んでくださいなどという要望があったとします。

その方は「先生」と呼ばれない限り、自分のことを認識できないとしたら。

職員はそのような対応をせざるを得ません。

だからこそ、言ったもの勝ちで家族からの要望を受け入れている施設が多いのも事実。

「介護カスハラ」という言葉が出回り始めた今、改めて施設で対応できることとできないことを、事前に確認することが重要です。

たくさんの高齢者をケアしている職員からすると、日々の身体介助を安全にこなすだけで精一杯です。

そんな中で親を大切に思う気持ちと、介護保険内でできるサービスの限界を天秤にかける。

1番の落とし所を見い出して老人ホームを探すことで、みなさんの希望に沿った老人ホームが見つかるはずです。

本サイトを運営する「近所のよしみ」では、完全予約制をとり、介護・福祉のプロによる介護施設への入居に関する相談に応じています。

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