このような不安や悩みを抱えている方はいませんか?
2025年6月に政府が決定した「骨太の方針2025」で、湿布や痛み止めなどの「OTC類似薬」の保険給付の見直し、セルフメディケーション(軽症の場合は自分で医薬品を購入して対処する)を推奨する施策が盛り込まれました。
実現可能なものについては、2026年から実施される予定です。
そこで本記事では、
- OTC類似薬が自己負担になるかもしれない2つの理由
- 自己負担になったときの3つの影響
- 自己負担になったら、いくらかかるのか?
- 自己負担になることの3つのメリット
などについて、現役看護師が詳しく解説します。
「OTC類似薬」の自己負担について詳しく知りたいという方は、ぜひ最後までお読みください。
「OTC医薬品(市販薬)」と「OTC類似薬(処方薬)」についてわかりやすく解説
「OTC医薬品」と「OTC類似薬」は同じような名前ですが、内容が違います。ここでは、それぞれの特徴を簡単に解説していきます。
OTC医薬品(市販薬)
「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、ドラッグストアなどで販売されている医薬品のことです。
医師の処方箋がなくても購入が可能で、一般的には「市販薬」などと呼ばれています。
OTC類似薬(処方薬)
OTC医薬品(市販薬)と成分が似ていますが、医師の診察と処方箋が必要な医薬品です。
医療保険の対象で、患者は1~3割の自己負担で処方してもらえます。
主に以下のような医薬品が対象です。
- 湿布
- ビタミン剤
- 漢方薬
- 解熱鎮痛剤(痛み止め)
- 風邪薬
- うがい薬
- 目薬
例えば、花粉症などで使用する抗アレルギー薬には、医療用の「アレジオン錠10㎎・20㎎」と、OTC医薬品(市販薬)の「アレジオン20」があります。
OTC類似薬が自己負担になるかもしれない理由とは?
日本の医療費は年々増加傾向となっており、国の財政を圧迫しています。
令和4年度は46兆6,967億円、令和5年度には47兆3,000億円で前年度から2.9%増加しており、3年連続で過去最高額を更新しました。(出典:厚生労働省 令和5年度医療費の動向)
医療費が増加する要因としては、主に以下のような原因があります。
- 高齢者の増加
- 医療技術の進歩による医薬品の高額化
- 受診回数が多い
- 薬剤の使用量が多い など
そのため、軽症で使う医薬品を自己負担にしたり、自己判断でOTC医薬品(市販薬)を使用する「セルフメディケーション」を推奨したりなど、医療費の増加を抑えようという施策が盛り込まれました。
OTC類似薬が自己負担になったときの3つの影響とは?薬がどのくらい高くなるのかも解説
OTC類似薬が自己負担になり、セルフメディケーションが進むと、患者さんにはさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
自己負担になった場合に備え、しっかり学んでおきましょう。
薬の購入による経済的負担が増える
OTC医薬品(市販薬)は処方薬に比べて価格が高いため、患者さんの経済的負担が増えるのではないかと懸念されています。
特に治療が長期的になる方、低所得者などに負担が重くのしかかるといわれています。
医療用医薬品(処方薬)とドラッグストアで購入できるOTC医薬品(市販薬)の金額を以下で比較紹介していますので、ぜひ確認してみてください。
医療用医薬品(処方薬)とOTC医薬品(市販薬)の金額の比較
※1割負担での医療用医薬品(処方薬)→OTC医薬品(市販薬)です。また金額は目安です。
- アレジオン錠20(抗アレルギー薬)約54円 → アレジオン20 約2,000円
- ムコダイン錠500mg(去痰剤)約23円 → ムコダイン去痰錠Pro500 約2,500円
- フェルビナクテープ35mg(湿布)約14円 → ビーエスバンFRテープVα 約900円
- ヒルドイドクリーム0.3%(保湿剤)約36円 → ヒルドイドソフト軟膏0.3% 約1,400円
- リンデロンV軟膏0.12%(痒み止め)約16円 → リンデロンVs軟膏 約2,000円
- マグミット錠330㎎(下剤)約24円 → 酸化マグネシウムE便秘薬 約800円
- リザベン点眼液0.5%(アレルギーの目薬)約30円 → ロート製薬 ROHTO アルガードs 10ml 約600円
- タリオン錠10㎎(抗アレルギー薬)約23円 → タリオンAR約1,200円
出典:全国保険医新聞
例えば、普段使う湿布も保険適用なら約14円ですが、OTC医薬品(市販薬)だと約900円になります。
このように、保険適用の医療用医薬品(処方薬)に比べ、OTC医薬品(市販薬)は価格が大幅に上がってしまいます。
受診控えや所得・地域格差により医薬品が購入できず健康被害が増える
OTC類似薬が自己負担となった場合、以下のような問題が起こるおそれがあります。
- 医薬品が高価なため受診を控えたり、購入しづらくなったりして患者さんの症状が悪化するおそれがある
- 症状が軽いからと市販薬で対応していた患者さんに重篤な病気が隠されており、早期発見・早期治療が遅れてしまう
- ドラッグストアが近くになく、医薬品を買いに行きづらい患者さんの症状が悪化するおそれがある
筆者は仕事で訪問したお宅で実際に次ような話を聞きました。
このように、受診控えや所得・地域により医薬品の購入に格差が生まれ、結果的に患者さんの健康被害が増えてしまう可能性が考えられます。
3.必要な医薬品を正しく選べない
患者さん自身が医薬品を選ぶ場合、誤って違うものを購入してしまい、症状が悪化する可能性も指摘されています。
医薬品は病気や症状に合ったものを正しく服用しなければいけません。
しかし、医学的知識があまりない方の場合、選ぶべき医薬品を判断するのが難しい場合もありますよね。
また、オーバードーズ(容量以上に医薬品を服用してしまう)、誤飲、現在服用している医薬品との組み合わせが合っているかなどのチェックも十分に行えないおそれもあります。
自己判断で医薬品を購入する場合、トラブルが起こらないよう、ドラッグストアでの薬剤師によるサポートがさらに必要になってくるでしょう。
OTC類似薬が自己負担になることの3つのメリット
OTC類似薬が自己負担になった場合、悪いことばかりではなく、患者さんと医療者側それぞれに良い面もあります。
なぜ自己負担化が議題に上がっているのか?その意義を一緒に考えてみましょう。
医療費の削減が見込める
OTC類似薬が自己負担になると、医療費が年間で1兆円削減できると政府は見込んでいます。
そのため、国民の保険料の削減につながる可能性があります。
また、医療費の増加に伴い、働き世代が支払っている保険料も増加しているのが現状です。
OTC類似薬が自己負担になることで、働き世代の金銭的負担の軽減が期待できるでしょう。
過剰な医薬品の処方が減る
医薬品の自己負担は高額となるため、過剰処方が少なくなるでしょう。
保険適用だと医薬品が安く手に入るので「湿布をもっと出してください」「痛み止めがもっと欲しいです」などと医師に依頼し、多めに処方してもらうことがあるかもしれません。
ですが、自己負担だと必要最低限の処方となる場合が多くなると考えられます。
「医薬品を大事に使おう」という意識」が、医療者にも患者さんにも、より芽生えてくるのではないでしょうか。
医療現場の負担が減る
軽症の患者さんの受診が減ることで、病院の人手不足の解消が期待されています。
忙しさが緩和され、医療者の労働環境の改善が見込めるのではといわれています。
また、診察までの待ち時間の短縮にもつながり、患者さん側にもメリットが生まれるでしょう。
一方で、セルフメディケーションの推進により、ドラッグストアでの薬剤師によるサポートが、さらに必要になってくると予測されます。
まとめ
OTC類似薬が自己負担になることで、湿布や痛み止め代は高くなるでしょう。
しかし、過剰な処方を見直したり、働き世代が収める保険料が減ったりなどの利点もあります。
OTC類似薬の自己負担の問題は、良い面も悪い面もさまざまあり、まだまだ検討の余地があります。
いずれにしても医師と相談の上、本当に必要な医薬品を処方してもらい、適切に使用することが重要です。


