認知症の有無は、要介護度に大きく影響を及ぼします。
しかし、認知症があるからと言って、必ずしも高い要介護度が出るとは限らないのが現実です。
今回は、認知症がある場合の要介護認定においてのポイントや本人に自覚がない場合の対処法などを、介護認定調査員の立場から詳しく解説していきます!
認知症と要介護度の関係
「認知症があるから、要介護認定も通りやすいはず…」そう思っていたのに、思ったより低い認定区分だった…そんな経験をされたご家族もいらっしゃるかもしれません。
実は、認知症があることだけで高い認定区分が出るとは限らないのです。
なぜ、軽い認定区分で判定されることがあるの?
認定調査では、身体的な動作(立つ、歩く、食べる、トイレに行くなど)を含む「日常生活動作(ADL)」が大きく評価されます。
たとえ認知機能の低下がみられたとしても、身体が元気であり、身の回りのことを自分自身の力で一通り行うことが出来ていれば、「自立度が高い」とみなされるのです。
認知症の症状が初期~中期であり「誰かの支援があれば生活できる」と判断された場合は、最終的な要介護度が”要支援”となってしまうことは珍しいことではないのです。
認知症の要介護度認定レベル
- 要支援1、要支援2:軽い認知機能の低下はみられるが、大きな低下はない
- 要介護1:認知機能の低下がみられるものの、誰かが見守れば日常生活はおおむね自立できる
- 要介護2:短期記憶が保持できなくなり、日常生活に支障をきたす症状や意思疎通の困難さがみられる
- 要介護3:自身の名前や生年月日がわからなくなる。着替えや身の回りのことの手順がわからなくなり、常時介護が必要
- 要介護4:日常生活に支障をきたす行動が常時あり、意思疎通が困難
- 要介護5:意思疎通がほとんどできない状態
要介護認定は”総合判断”
要介護認定は、「身体」「認知機能」「社会生活」など、介護が必要な状況を総合的に判断する仕組みであり、認知症の有無のみで決まるわけではありません。
「歩行能力」や「排せつの自立度」「外出の頻度」なども調査項目に含まれ、身体機能の低下の度合いや社会的な行動力も大きく影響します。
認知症があるけれど、身体は元気であり、日常生活は問題なく出来ている方。認知症はないけれど、身体が不自由であり、誰かの支援がなければ生活が出来ない方。
このように高齢者の状況は個人差が大きく、一概に「〇〇だから要介護度が高く出る」とは限らないのが実情です。
本人に認知症の自覚がない場合
認知症の方が要介護認定を受ける場合、ひとつ大きな壁になるのが「本人が自分の状態を正しく認識できていない」場合です。
調査の場面では「自分で出来ます」「困っていることはありません」と答えてしまい、実際の生活状況とギャップが出てしまうケースが多くあります。
本人が「できる」と答えてしまう落とし穴
認知症があると、自分の状況を正確に認識することが難しくなり、「失敗したこと」「できなかったこと」自体を覚えていないこともよくあります。
本人は嘘をついている自覚はなく、本当に出来ていると思っているので、調査員に対しても「毎日自分で全部出来ていますよ」と答えてしまうのです。
本人がしっかり受け答えが出来ており会話が問題なく成り立つ場合、「自立している」という印象を与えてしまい、結果として認定が軽く出てしまうことも。
「記録」や「証拠」を集めておこう
そんな時こそ、家族のサポートが重要です。
「火の消し忘れ」や「薬の飲み忘れ」、「同じ話を何度も繰り返して話する」など、日常で起きている困りごとはメモや写真などに残し、起きた日付や回数などもできる限り詳細に記録しておきましょう。
口頭で説明するよりも、具体的なエピソードや証拠があることで、認知症の度合いが調査員に伝わりやすくなります。
認定調査時には補足説明を
調査当日、調査員は限られた時間の中で状況を把握する必要があります。そのため、「本人の見た目や発言内容、本人のふるまい」だけで評価が決まってしまうリスクも。
そんな時、同席している家族が「本人はこう言っていましたが、実は…」と事実に基づいた補足をすることで、評価が大きく変わる可能性があります。
特に「見守りが必要な理由」や「安全面でのリスク」について具体的に伝えることで、認知症による生活上の困難さが伝わりやすくなります。
適正な認定のために押さえておきたいポイント
認知症がある方にとって、適切な支援を受けるためには「正確な認定」を受けることが何よりも重要。
そのためには、認定調査の時だけでなく、事前の準備や伝え方がポイントになります。
主治医の意見書
認定結果に大きく影響するのが、主治医が作成する「主治医意見書」です。
病名だけでなく、生活に与える影響や認知症の症状などについて医学的観点から詳しく記載されています。
診察時間が短い中で医師に正確な情報を伝えるのは困難であるため、「最近はこういう失敗が増えた」「1人ではこういうことが難しくなってきた」といったことを、家族がメモにまとめておき、診察時に渡すこともオススメです。
医師の意見書に生活上の困りごとが反映されることで、より実態に即した認定結果につなげることが出来ます。
困りごとを「安全性」に結び付けて伝える
認知症による困りごとは、見た目では分かりづらいのが特徴です。
だからこそ、調査員や医師に伝える際は「安全面でのリスク」に結び付けて説明するのが効果的です。
例えば・・・
- 薬を何度も飲んでしまう可能性がある → 服薬ミスのリスク
- 夜間に家を出て行ってしまったことがある → 徘徊による事故のリスク
- 火の消し忘れがある → 火事のリスク
こういった”実際に起こりうる危険”を具体的に伝えることで、医師や調査員にも深刻さが伝わりやすくなります。
ケアマネジャーやサービス担当者の意見も力になる
もしすでに介護サービスを利用している場合は、ケアマネジャーやヘルパーなどの専門職の視点も大きなサポートになります。
「訪問のたびに冷蔵庫の中身が傷んでいる」「訪問したら本人が居なかった」などの第三者から見た客観的な情報は、家族だけでは把握しきれていない部分を補ってくれる場合があります。
調査の際にケアマネジャーが同席出来ない場合でも、簡単なメモや所見をもらっておくと安心です。
まとめ
要介護認定の基準や判断はとても細かく、また、複雑な仕組みとなっています。
認定調査の場面では、「同じ話を繰り返し話すことはありますか?」とご家族にお尋ねすると、「毎日のことだから意識していなかった」
「高齢だから普通のことだと思っていた」といった声を多く耳にします。
しかし、こうした「普通のこと」と思われていることが、認定調査の結果に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
どんな小さなことであっても”変化の1つ”かもしれません。ぜひその視点をもって、認定調査に挑んでいただければと思います。



