

介護を受ける方の生活状況は様々であり、介護がきっかけで家族と同居する人も少なくありません。
しかし、同居であるからと言って、家族が親の介護”だけ”を担うことは難しい場合も多く、就労しながら介護をすることも多いでしょう。
認知症の進行などにより要介護度が高くなると、その分家族への介護負担も大きくなり、同居であったとしても「そろそろ施設を検討しようかな…」と考える方もいらっしゃると思います。
他の施設に比べて比較的介護費用の負担が低めである”特別養護老人ホーム”。出来ればこの”特養”に入所してもらいたいなと考えるご家族様も多くいる中で、大きな懸念点であるのが”入所の順番待ち”ではないでしょうか。
今回は、家族と同居である場合、特別養護老人ホームの入所は不利になってしまうのかということについて、介護認定調査員が解説していきます。
特別養護老人ホームについてざっくりおさらい
特別養護老人ホームとは?
特別養護老人ホーム(特養)は、介護が必要な高齢者が、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための公的な施設です。
身体状況の変化や認知症の進行などにより自宅での生活が困難になった場合に、食事や排せつ、入浴などの介護サービスを24時間体制で受けられる場所となっています。
施設入所の基準
特別養護老人ホームに入所できるのは、原則として要介護3以上の人です。
要介護度が高く、自宅での生活が困難な方を優先して受け入れる施設という位置づけになっています。
ただし、特別な事情があると認められた場合(虐待など)には、要介護1・要介護2の方でも入所できる場合があります
入所の待機が多い理由って?
介護保険施設の1つである特別養護老人ホームは、公的な施設のため、他の施設に比べて比較的介護費用の負担が抑えられています。
そのため、経済的な負担を軽くしながら長期入所できる点が大きな特徴となっており、多くの人が入所を希望しています。
しかし、施設の数には限りがあるため、入所を申し込んでも実際に入所できるまでには長い時間がかかってしまうのが一般的です。
特に都市部などでは数百人単位で入所を待っている地域も珍しくはなく、申し込めばすぐに入れるわけではないのが現状なのです。

介護費用を安く抑えられるならありがたいけど、同じように考える人は多いだろうし、1人暮らしの人が優先になるんだろうな…。

子と同居だと不利になるの?
同居=在宅介護出来るとみなされやすい理由
特別養護老人ホームの入所の必要性を判断する際に大きなポイントとなるのが、「家族の介護力」。
同居している家族が居ると、「身近に世話をしてくれる人がいる=まだ自宅で介護できるのでは?」とみなされやすいのです。
しかし実際には、家族が同居していても、家族全員が就労していて昼間は介護が難しいケースや、介護者側の体調が不安定であったり介護者自身が高齢であったりするケースも多くあるのです。
こうした家庭の事情が十分に伝わらないと、「まだまだ在宅介護が可能な状況である」と判断されてしまい、入所の優先順位が下がってしまう要因となってしまうことがあります。
特に認定調査やケアマネジャーとの面談時に、「大変だけど、家族でまだまだ頑張ります」などと曖昧に状況を伝えてしまうと、本当の介護負担が理解されないままとなってしまうので注意が必要です。
介護の負担を正しく伝えよう!
認定調査では、単に本人の身体状況や介助の状況、認知症の度合いなどだけを見ているわけではありません。
介護が必要な本人だけでなく、家族がどれだけ介護に関わっているのか、どれだけ介護負担が生じているのかなども含めて総合的に見ているのです。
また、認定調査員が作成する”認定調査票”は、介護認定で使用されるだけでなく、利用者情報の一部として保管されたり、時には利用者の置かれている状況や介護の現状を知るための資料の1つとして活用されることもあるのです。
だからこそ、ケアマネジャーや認定調査員には「どんな時に困っているのか」「家族だけではどうしても無理なこと」などを具体的に伝えることが大切です。
「大げさかも…」と遠慮する必要はありません。現実の大変さを正直に伝えることが、必要な支援を受けるための大切な第一歩となります。


入所待ちを回避する方法はある?
緊急性が高い場合は順番が早まることも
特別養護老人ホームは原則として、要介護度を含め「入所の必要性が高い人」から順番に進みますが、同居であっても家族だけでの介護が限界を超えていたり、認知症の進行により家族だけでは安全を守れないほどの徘徊等の精神的な症状がある場合などは、在宅での生活が困難であると判断され、待機の順番が繰り上がることもあります。
ただし、待機順番の繰り上げに該当するかどうかは状況によって異なるため、まずはケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談をすることが大切です。
複数の特別養護老人ホームに申し込む
特別養護老人ホームは、一か所だけしか申し込みが出来ないというわけではありません。
地域によっては複数の特別養護老人ホームに申し込んでおくことで、空きが出るタイミングによっては早く入所できる可能性も高くなります。
どの施設に申し込むか迷った時には、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談をして、地域の状況を教えてもらうのがおすすめです。
待機している間は他のサービスを上手に使う
特別養護老人ホームは、申し込んでもすぐに入所できるとは限らないため、待機している間の負担を少しでも減らす工夫も大切です。
たとえば、介護保険施設の1つでもある介護老人保健施設や、認知症の診断を受けた方が対象のグループホームなど、他の施設を一時的に利用したり、短期間の入所が出来るショートステイを活用して家族の介護負担を軽減する方法があります。
また、訪問介護やデイサービスなどの在宅サービスも活用しながら、状況に合わせて複数の選択肢を組み合わせていくことが、待機している間に無理なく在宅介護を続けるコツです。
施設入所を申し込み後、どれくらいで施設入所できるかは見通しが立たないことも多く、「いつまで待てばいいのか、それまでどうやって介護していけばいいのだろうか」と不安になる方は多くいらっしゃいます。
困った時や迷った時は家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーに「他にはどんな施設やサービスが使えるのか」などを相談してみましょう。


まとめ
家族と同居していると、特別養護老人ホームへの入所が不利になってしまうのではないかと心配される方は多いですが、実際には家族と同居だからといって必ずしも入所が出来ないというわけではありません。
在宅での家族介護の大変さや負担の大きさなどを遠慮せずにしっかりと伝えることが大切です。
介護負担が大きく自宅での介護が辛いと感じたら、特別養護老人ホームへの申し込みとともに、入所までの待機期間に他の施設やサービスをうまく活用しながら、無理の無い形で介護を続けていきましょう。