寝たきりの方に多くみられ、介護する時も特に気をつけたいのが、拘縮です。
拘縮とは、関節の可動域が制限され、正常な動作ができなくなる状態となるため、普段生活する上で必要な動きや介助が必要となり、多くは寝たきりの方や、長時間同じ姿勢を続けることが原因といわれています。
さらに拘縮になると、ケガや皮膚トラブルが起きやすくなったりするので、生活の質が低下するリスクが高くなってしまいます。
拘縮がひどくならないよう予防するためには、リハビリが有効です。
しかし、リハビリをする時は、注意点を知って行わないと、逆効果となり、思わぬケガに繋がることもあります。
今回は、拘縮の種類や正しい拘縮ケア、ポイントなどを解説していきます。
拘縮とは?
拘縮は、関節の動きが制限され、動かしにくくなってしまう状態のことで、無理に動かそうとすると痛みを伴います。
関節は、骨と骨が互いに動ける状態でつながっていて、周りには筋や腱、皮膚など軟部組織(軟らかい組織)があり、この軟部組織にコラーゲン繊維が蓄積し硬くなることで、動かすことができる範囲が狭くなります。
寝たきりの期間が長く続いてしまうことで、身体を動かす時間が激減し、徐々に関節の可動域が狭くなることで、関節周りが硬くなり無理に動かそうとすると、痛みを伴います。
また、拘縮によって身体を自由に動かすことができないので、介護を受ける時も、なかなかうまく介助ができなくなります。
拘縮の種類
拘縮には、曲がったままで伸びなくなる状態の屈曲拘縮、伸びたまま曲がらなくなる状態を伸展拘縮と言います。
他にも、固縮(こしゅく)といった筋肉がこわばる症状があり、関節を動かす機会が少なくなると、拘縮を起こしやすくなります。
拘縮といっても関節の部位にもよって、拘縮となる原因や特徴が異なります。
ここでは、拘縮の種類を5つご紹介します。
筋性拘縮
拘縮のなかでも、もっとも多いのが「筋性拘縮」で、全身と広範囲に拘縮している傾向にあります。
脳卒中や心筋梗塞などで寝たきりになったり、骨折などの治療のために関節を長期間固定されていたことなどによって、筋肉が縮んでしまい、関節が引っ張られて動きにくくなることが原因で起こる拘縮のことです。
神経性拘縮
神経性拘縮とは、神経系の疾患による麻痺や痛みでみられる拘縮で主に、脳卒中など脳神経系の病気や事故の後遺症などが原因で起こります。
痛みを避けようとして、同じ姿勢を取り続けることなどが原因の場合もありますので、既往歴に脳神経疾患があれば、神経性拘縮の可能性もあります。
皮膚性拘縮
皮膚性拘縮とは、熱傷や炎症など、皮膚を損傷してできた傷跡に引きつられて起こる拘縮です。
また、皮膚が弾性を失った状態のことを瘢痕(はんこん)拘縮と言います。
結合組織性拘縮
結合組織性とは、皮下軟部組織・靭帯や腱などの結合組織が収縮、癒着することで生じ、手指が曲がるなどの症状があります。
原因は、生活習慣によって発症する場合や外傷・術後の修復過程でも起こりやすいです。
関節性拘縮
骨折や脱臼などで治療したことが原因で発症しやすく、滑膜や関節包・靭帯などが炎症、損傷によって癒着することで可動域が狭くなることです。
拘縮が起こりやすい部位と影響について
拘縮が起こりやすいのは、手指、肩、肘、膝、足、股などといった関節です。
一度、拘縮が起きると改善するのは難しく、拘縮によって起こる痛みで、日常生活にさまざまな影響が出てきます。
では、どんな影響があるのかを解説していきます。
手・指の関節
手・指の関節が拘縮すると、握ったままの状態になり、物が掴みにくくなります。
また、握ったままでいると爪が手のひらに食い込んで痛くなり、傷つけやすくなってしまったり、開かせようとすると痛みがでるため、にぎったままでいると手のひらの清潔を保つことが難しくなります。
肩・肘の関節
着替えの際に肩が上がらない、肘が曲がらない・伸びないといった、肩や肘の可動域の制限があると、時間がかかってしまったり、腕が上がらないと脇の下の清潔が保ちにくくなります。
他にも、起き上がる、食事をするなどといった動作や家事が難しくなってしまうといったこともあります。
膝の関節
膝の関節が拘縮することで、生活動作に必要な立つ・座る・階段の上り下りなどの動作が不安定になってしまったり、歩きにくくなり転倒しやすくなります。
また、膝の関節が伸びたまま拘縮となってしまうと、座位(座った時の姿勢)の保持が難しくなってしまったり、靴下や靴の着脱を自身で行うことが難しくなります。
足関節
足首が伸びてしまうことで、足の指が内側を向いた状態である「尖足(せんそく)」になりやすかったり、足裏に魚の目やたこができやすくなり、歩行に支障がでてきます。
車椅子を使われている場合は、フットサポートに足がつかなくなり、事故が起こりやすくなってしまう可能性があります。
股関節
股関節が拘縮してしまうと、入浴時浴槽に入る際またぐという動作や衣類の着脱が難しくなったり、座位の保持や排泄の姿勢が難しくなることもあります。
高齢者が拘縮になる原因とは?
拘縮の原因は、長時間座っている期間が長かったり、寝たきりによって関節を動かす機会が減ることによって起こります。
また、加齢の影響やパーキンソン病などといった神経系の病気、麻痺、痛み、むくみといった活動性が低下することで、関節が硬くなり可動域が狭くなってしまいます。
関節を動かせない、または動かしたくないという状態が続くことで、さらに可動域が狭くなってしまい、拘縮が進行してしまいます。
適切なケアを行うことによって、筋性拘縮や神経性拘縮などの予防や改善が可能ですが、誤ったケアをしてしまうと、かえって拘縮につながってしまうこともあります。
ここでは、拘縮の原因となるNGケアを解説します。
ポジショニングが適切でない
「ポジショニング」とは、寝ている時や座っているときの姿勢を、安全で快適な状態にすることです。
筋性拘縮が起きている人に誤ったポジショニングをしてしまうと、拘縮の原因となります。
ベッドや椅子と体の間にできている隙間にクッションを入れていなかったり、動きにくい関節を無理に動かそうとしたりすることで、痛みなどから緊張が起こり、拘縮が進んでしまいます。
強引な離床になっている
寝たきりのままでいると全身の機能が低下してしまうので、「離床」と言ってベッドから起こすことをしてあげ、少しでも体を動かす動作を促すことが大切です。
気を付けることは、体が緊張したままの状態でベッドを起こしたり、車椅子に乗せてもリラックスできず、かえって拘縮を進めてしまうことになります。
基本の介助が適切でない
介助の仕方や触れ方が適切でないと、痛みやストレス・不快感などによって筋肉が緊張してしまい、拘縮に繋がる場合があります。
介助する際は体の接し方や触れ方などに注意が必要です。
拘縮ケアの6つのポイントについて
拘縮が進んでいくと介助をする側として、何に気をつければいいのか、拘縮が進行しないよう予防と改善するためのポイントをご紹介します。
介助する動作はゆっくりと痛みを与えないように
拘縮している方の介助をする場合は、触れる場所と次に何を行うかを相手に伝えましょう(例えば、服の袖を腕に通すため「腕を少し上げますね」など)
こまめに声掛けをしながらゆっくり丁寧に介助することです。
触れる場所や目的によって動作も変わりますので、同じ場所を触っていても動作が変わる時はしっかり相手に伝えることが大切です。
また、急いでいると介助する側が力が入っていたり、無理やり動かそうとするため、拘縮している方を介助する時は、ゆっくり丁寧に行いましょう。
拘縮している方以外の基本的な介助方法として、腕などを持つ際は、上から掴むのではなく、下から支え、関節に近い部分を持つと痛みを感じにくくなります。
介助するときに、相手に触れる面も意識しましょう。
手のひらや前腕全体などを使い、接する面をできるだけ広く触れることで安定感がでます。
後、冬場などで手が冷たいときは、温めてから触れるようにします。
・リラックスできる姿勢を保つ
拘縮のある方のケアでは、適切で安楽な姿勢を保つことを「ポジショニング」といい、とても重要なことです。
特に寝たきりの方は、拘縮する場所によって、ねじりや傾きがあり、ベッドと身体との間にすき間ができてしまうことで、痛みや拘縮が進行してしまいます。
改善できるポイントは、枕やクッション、バスタオルなどを使って、身体とベッドとのすき間を減らし、リラックスできるよう保持し、身体に負担をかけないようにすることです。
他にも、シーツのしわや服の縫い目にも気をつけましょう。
同じ姿勢を長く続けない
長時間、寝たきりや座りっぱなしを続けると、身体の一部分に圧力が持続的にかかってしまい、床ずれの原因となります。
改善方法は、クッションやエアマットレス等を活用し、体圧を分散したり体位変換を行ったりすることで、床ずれ予防防止につながります。
拘縮を予防するためにすることは?
日常生活動作(食事・更衣・排泄・入浴・整容・起居動作・移乗移動)の中で、関節を動かすことが、拘縮の進行を遅らせるためには、とても大切です。
他にも、機能訓練を取り入れている通所リハビリやデイサービス、訪問リハビリや訪問看護などの介護保険サービスを利用し、理学療法士や作業療法士による指導を受けながら、痛みを感じない程度に、ゆっくりと体を動かしましょう。
また、普段の生活の中でも、どういった予防ができるのかご紹介します。
座位のポジショニング
寝たきりの方は、できるだけ離床し正しい座位の姿勢をとることで、拘縮や廃用症候群の予防につながります。
身体が横や前に傾いていたり、ねじれているといった姿勢が崩れたままの状態で座っていると、拘縮が悪化する可能性がありますので、介助する側は座り方に問題がないか確認しましょう。
正しい座位の姿勢
拘縮している方だけでなく、普段から長い時間椅子や車椅子に座られている方も、どういった姿勢が正しいのか、正面・横・真上からの3ヶ所からポイントを押さえておきましょう。
正面から見たとき
まず、正面から見たときに、「床または(車椅子の場合はフットサポート)に両方の足がついている」かを見ましょう。
足が床についていないと、お尻が前にズレ落ちてしまい、腰と背もたれに隙間ができ負担が掛かったり、椅子から落ちてしまう恐れがあります。
背が低く足が床に届かない場合は、踏み台を使うといいですよ。
また、ひじ掛けや(車椅子の場合はサイドガード)との隙間が左右で同じになっているか。
ひじ掛けやサイドガードが体のどちらかに密着していると、体が傾いている状態となっているので、拘縮の進行につながります。
拘縮によって体が傾いてしまう場合は、クッションやバスタオルなどを体に挟むと左右同じようになり、本人も体勢が楽になります。
横から見たとき
横から見て、以下の3ヶ所をチェックしましょう。
- 頭から骨盤が一直線になっているか
- 太ももが座面についているか
- ひざの裏に隙間がないか
「頭から骨盤が一直線になっていること」と「太ももが座面についている」ことは、正しい姿勢で、しっかり椅子に深く座れているということです。
座面が滑りやすく浅く座ってしまうと、腰に負担が掛かったり、頭が前後に倒れていると、首や肩をはじめ体全体に負担が掛かってしまい、辛い体勢となってしまいます。
また、ひざの裏に隙間があることは、骨盤が前に出てきてしまっていて、床に足がしっかりついていないので、姿勢が悪くなってしまいます。
座面が滑りやすく骨盤が前に出てしまう場合、100円ショップに売っている滑り止めを敷くと改善されます。
真上から見たとき
真上から見たとき、以下の3ヶ所をチェックしましょう。
- 背もたれとの隙間が左右同じになっている
- 左右の肩の位置が前後にずれていないか
- 左右のひざの位置が前後にずれていないか
左右の肩やひざの位置が前後にずれていると、どちらかに体がねじれている可能性があり、どちらかの肩が前に倒れていると、転倒してしまう恐れがあります。
拘縮によって、体がねじれている方は、正しく座ることが難しいので、普通の車椅子ではなく背もたれが倒れるリクライニングのある車椅子がおすすめです。
また、リクライニングのある車椅子は、長い時間座ることが難しい方でも、背もたれを後ろに倒すことで、体が楽になります。
まとめ
今回は、拘縮の種類や正しいケアについてご紹介しました。
拘縮ケアで大切なことは、痛みや不快を与えず、少しでも安全にリラックスした状態で過ごせるよう、日頃から適切なポジショニングを行うことで、予防や改善につながります。
また、日常生活動作の中や介護保険サービスを利用し、無理なく体を動かすことも意識するよう心掛けましょう。