認知症による徘徊で行方不明になる人が年々増えています。徘徊中に車や電車にはねられるなど悲しいニュースも後を絶ちません。
高齢の親を持つ場合、徘徊したらどうしようと心配する人もいると思います。
もし認知症になった親が理由もなく家から出ていこうとしたら「出ていったらダメだよ」と止めると思います。
でも徘徊を止めようとすると、かえって逆効果になる場合があります。
認知症の人でも徘徊するには必ずなんらかの理由があり、その理由をくみ取ってあげることが対応の基本です。
では認知症による徘徊にはどのような理由があるのでしょうか。私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか?
この記事では認知症による徘徊を止めてはいけない理由と具体的な対応・予防法について解説します。
認知症による徘徊の現状
今、認知症による徘徊に対して国民の関心が高まっています。
認知症による行方不明者は年々増加しており、令和4年度には1万8709人にのぼりました。
これは警察に届けられた件数であり、実際にはもっと多くの人が行方不明になっています。
行方不明者のうち約97%が保護されていますが、一方で2.6%の人は死亡が確認されるという悲しい結果となっています。[参考:令和4年における行方不明者の状況 – 警察庁]
また認知症の人が徘徊中に車や電車にひかれたというニュースも後を絶ちません。[参考:認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決:朝日新聞デジタル]
鉄道事故では「家族がちゃんと見守りしていなかったから」という理由で妻や息子が損害賠償を求められた裁判もありました。
この事例では家族に賠償する必要はないと最高裁が判断しましたが「介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべき」とも述べています。
認知症による徘徊を止めようとしても逆効果
認知症の人が1人で徘徊していたら非常に危険です。理由もなく家から出て行こうとしたら「出ていったらダメだよ」と家族は止めると思います。
でも徘徊を止めることは逆効果です。
実は、認知症の人でも徘徊するには必ずなんらかの理由があります。
その理由を無視して行動を抑制されると「本当は外へ行きたいのに…」というフラストレーションがたまってしまいます。
やけになり制止をふりきって出て行ってしまう場合もあり、結果的には逆効果になってしまいます。
では、認知症の人はどのような理由で徘徊するのでしょうか。
そもそも認知症になったらどうなる?(認知症の症状)
認知症の人が徘徊する理由を考えるには、まず認知症の症状を知っておく必要があります。
認知症の人は
- ちょっと前に話した内容を忘れてしまう
- ちょっと前の出来事を忘れてしまう
- 今日が何月何日か分からなくなる
- 今、何時なのか分からなくなる
- 今いる場所がどこか分からなくなる
- 目の前にいる人が誰か分からなくなる
- 言葉がうまく出てこなくなる
- 意欲がなくなる
- おこりっぽくなる
- 正しい判断ができなくなる
などの症状が見られます。
過去のことを忘れてしまい、今どこにいるのかもよく分からない。自分の状態をうまく人に説明することもできない。これは認知症の人にとって非常に不安な状態です。
認知症の人が感じている世界は、一般の私たちとは少しちがうのです。
認知症の人が考えていること(徘徊する理由)
では、認知症の人が徘徊する理由を具体的に考えてみましょう。
ここが自分の家だと分かっていない(自分の家に帰ろうとする)
自宅にいるのに自分の家だと思っておらず、自分の家に帰ろうとして出て行こうとしている場合があります。
家族のことを誰か分かっていない
自分の周りに知らない人がいると思い、知っている家族を探しに行こうとしている可能性があります。
今が何時か分かっていない
夜になり外は暗くなっているのに、昼間だと思って外へ出てしまう場合があります。外へ出ても夜になっていることに気づかずそのまま行ってしまうこともあります。
昔の習慣がしみついている
昔に戻っている感覚になり、その人がしてきた習慣をしようとすることがあります。
たとえば
- 仕事に行こうとする
- 買い物に行こうとする
- 学校に行こうとする
- 子どもを迎えに行こうとする
- 友人の家に行こうとする
- 習い事に行こうとする
- 散歩に行こうとする
- 孫の面倒をみに行こうとする
- 親の面倒をみに行こうとする
などの習慣が考えられます。
やることがなくて退屈
家にいてもやることがなければ退屈で外に出て行ってしまうでしょう。そのまま迷子になる場合もあります。
自宅の環境を自分で調整できない
認知症の人は自分で環境を調整できないせいで、自宅にいても落ち着かなくなる場合があります。
たとえば
- 暑い・寒いなどの温度調整
- まぶしい・暗いなどの明るさの調整
- 騒音がうるさいなど音の調整
などが考えられます。
体の調子が悪い
体の調子が悪いせいでじっとしていられず、不穏な気持ちになり外へ出て行ってしまう可能性があります。
たとえば次のようなことが考えられます。
- 肩や腰など体に痛みがある
- 水分不足(脱水傾向)
- 便秘でお腹が辛い
- 夜によく眠れておらず、睡眠不足
- お腹がすいている
薬の影響
薬の影響で気持ちが高ぶってしまい、いつもと違う行動に出る場合があります。
特に新しい薬を飲み始めた後は注意が必要です。
家族の思い(徘徊を止めたくなる・不安や焦り)
認知症の人には徘徊するなんらかの理由がありますが、家族にしてみたら心配で気が気でないというのが本音でしょう。
事故にあったらどうしよう。誰かに迷惑をかけたらどうしよう。そう思えば、出て行こうとする人を止めたくなる気持ちも分かります。
でも、止めてしまっては逆効果になる可能性がある。本人の気持ちを尊重したかかわりが基本です。
では具体的にどのように対応すれば良いのでしょうか。
認知症による徘徊に対する具体的対応・予防策
役割を作る
自宅でやることがなく退屈していると、徘徊につながる可能性があります。
まずは認知症の人に何かやることを作ってあげましょう。
食器を洗うとか洗濯物をたたむとか簡単なものでもかまいません。
楽しみを作る
自宅で何か楽しめることを作りましょう。
好きな本やDVD、ゲームなどをそろえるのも良いでしょう。一緒に将棋や囲碁をしたり、手芸活動などをしても良いと思います。
楽しみがあることで、認知症の人も家にいたいと思うようになります。
定期的に外出する場所を作る
あてもなく徘徊するのではなく、定期的に外出することも大切です。
たとえば公園や、スーパー、図書館など本人に気分転換してもらえる場所へ行きましょう。
運動する機会を作る
運動をすると身も心もすっきりします。適度な疲れからぐっすり眠れるようにもなります。
散歩など軽い運動でも良いので、運動する機会を作ってあげましょう。
体の調子を整える
体の不調がないよう、水分や栄養を十分とるようにしましょう。
便秘の場合はお医者さんに相談したら下剤などの調整をしてくれるかもしれません。
不調がある場合はすぐに受診しましょう。
一緒に徘徊する(徘徊についていく)
それでも本人が外へ出たいという場合、一緒についていくのも手です。1人での外出は危険ですが家族が付き添えば安心です。
本人のしたいように外出させてみると、何を目的に外へ出ようとしているか分かるかもしれません。
近所の人の協力を得る
近所の人や町内会に相談して、見かけたら連絡してもえる体制を整えておきましょう。
中には認知症であることを他人に知られたくないという人もいるかもしれません。
でも、認知症は恥ずかしいことではありません。誰もがなる可能性のある病気です。
世間の認知症に対する認識はまだ不十分な面もありますが、以前よりずいぶん理解が得られるようになってきており、きっと協力してくれるでしょう。
地域包括支援センターに相談する
介護の困りごとは地域包括支援センターに相談することができます。お住いの地域の実情に合わせた提案をしてくれるので、ぜひ相談してみてください。
介護保険サービスを利用する
介護保険サービスを使えば、専門の介護職が見守り・介護をしてくれます。
たとえばデイサービスを利用すると、送迎付きで日中施設で介護をしてもらえるので、家族も安心して過ごすことができます。
行方不明になった時は、すぐに関係者へ連絡
もし認知症の人が行方不明になってしまった場合、もっとも大切なことは焦らずに行動することです。
まずは警察や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどの関係者に連絡し、捜索を依頼しましょう。
行方不明者の捜索は時間との勝負です。本人の行きそうな場所を想像し、なるべく多くの人の力で捜索しましょう。
まとめ:徘徊を止めないで、本人を尊重したかかわりを!
この記事では認知症による徘徊を止めてはいけない理由と具体的な対応・予防策について解説しました。
たとえ徘徊しようとしていても一方的に止めるのではなく、なぜ外出しようとしいるのか理由を考え、本人の思いを尊重したかかわりをしていきましょう。
家族が認知症になったとしても、決して一人で悩まず、周りの人に相談しながら介護をしてくださいね。
仕事や子育てなどで在宅介護難しい場合は施設への入居も選択肢となります。
民間の紹介センターは施設探しのプロですので、強い味方となってくれることでしょう。
まずは施設探しのプロに相談しましょう。福祉・介護の国家資格取得者が全ての案件を監修している地域介護相談センター 近所のよしみまでまずは0120-110-512まで無料相談してみてください。