日中眠くてついウトウトしてしまう状態のことを傾眠と呼び、子供から大人まで誰もが必ず経験することですね。
高齢者の傾眠は、若い方と比べて体内時計が変化し、昼夜逆転したり、眠りが浅く何度も目を覚ましてしまうことで、気付いたら眠っているという状態になります。
ですが、この傾眠が多くの高齢者にとっては、意識障害や認知症のリスクを高めてしまうなど、さまざまな病気のサインである可能性があります。
ここでは、傾眠傾向によって高齢者にどのようなことが起こるのか、傾眠の特徴や対策について解説します。
傾眠傾向とは?
傾眠傾向とは、眠気でウトウトしている状態とは少し違い、声をかけたり肩を軽く叩くことで、意識を取り戻す状態のことで、覚醒した後に注意力を失ったり、身体のコントロールがうまくできないため、ふらつきなどで転倒無気力になったりしてしまいます。
また、無気力状態が生じてしまうと、水分や食事を取らなくなり、脱水症状や栄養不足にもつながってしまう恐れがあります。
他にも、傾眠が進行するにつれ、錯覚や妄想、せん妄の状態による言動が起こる可能性も出てきます。
しかし高齢者の場合は、意識障害の一種であり、傾眠はもっとも軽度の症状で、進行するにつれ、周囲からの声かけや叩くなどの刺激に対して反応が鈍くなり、自発的に動くことが少なくなることで、筋力の低下になる恐れもあり、最悪寝たきりの生活になってしまいます。
意識障害の5段階
意識障害にはレベルが5段階に分類されていますので、具体的にどんな症状があるのかも一緒に解説していきます。
意識清明
意識清明は、一般的に「起きている状態」のことで、周囲の声かけに対して正しく反応し、状況の判断や意思の疎通も問題なく行えるなど、意識がはっきりしている状態です。
傾眠
傾眠は、上記でも説明している通り「うつらうつらしている状態」です。
深い眠りに落ちているわけではないので、名前の呼びかけや周囲の声かけで起きたり、肩など身体に触れることで、反応するので積極的に声掛けをしましょう。
昏迷
傾眠の症状が進んでしまった状態を昏迷と言い、大きい声での呼びかけや身体を強く叩くなどの刺激を与え、一瞬意識が戻る状態のことです。
刺激が強いことで顔をしかめたり、嫌がって手や足が動くなどの反応を見せることもあります。
傾眠が進行すると、昏迷状態となってしまうため、早めの対応をとることが大切です。
半昏睡
半昏睡は、つねるなどの強い痛みを与えると身体の一部が反応するまで、非常に深い眠りについている状態です。
昏睡
昏迷が進んでしまった状態となる昏睡は、どのような刺激を与えても全く反応がなく、起きることがない非常に深い眠りについている状態です。
眠りと言うには深すぎることから、意識障害の中でも最も程度が重いものです。
傾眠の主な原因は?
高齢者が傾眠を起こす主な原因は以下のとおりとなります。
- 認知症
- 加齢
- 脱水症状
- 内科系疾患
- 慢性硬膜下血腫
- 薬の副作用
- 食事性低血圧
- 過眠症
これらの原因が具体的に傾眠にどんな影響があるのか解説します。
1.認知症
認知症は、脳の細胞が何らかの原因で損傷・破壊されることによって発症します。
認知症の初期症状として、周囲の物事に関心がなくなったり、無気力状態となることで、脳が興奮状態になることが減ってしまい、傾眠が強くなります。
もう一つの原因は、認知症によって体内時計を調整する伝達物質が減ってしまうことで、夜の睡眠不足によって睡眠障害が起こり、ウトウトしている状態になってしまいます。
日中寝ることが多くなっている方がいたら、夜に熟睡できるよう、生活リズムを崩さないようサポートしましょう。
2.加齢・体力の低下
年齢を重ねると、体力の低下や神経伝達機能が徐々に低下し、自然に傾眠が増えるようになります。
日中にウトウトしてしまう時間や頻度が増えた場合でも、健康状態に問題がなければ大きな心配はありませんが、急激に傾眠傾向が強まってきた場合は注意が必要です。
傾眠の症状が急激に強まってきた場合は、背後に潜む潜在的な健康問題や疾患の兆候がある可能性があります。
こういった状況があれば、早めにかかりつけ医に診察を受けることが重要です。
3.脱水症状
傾眠の原因の一つに、体内の水分不足となる脱水症状です。
高齢者は、嚥下機能が低下することによって、噛む力や飲む力が徐々に衰えてしまうことで、食事量が減ってしまうため、水分不足や栄養不足にもつながります。
脱水状態は、脳や全身の機能の働きが悪くなることで、傾眠を引き起こすうえに、ひどい時は、幻覚症状まで引き起こしてしまいます。
高齢者の体内の水分量が減ったり、のどの乾きを感じにくくなることから、脱水症状になりやすいですので、日頃から積極的に水分を摂るよう促しましょう
4.内科的疾患
傾眠の原因である内科的疾患とは、臓器の異常や疾患が原因で体の機能が低下していることです。
特に、肝臓や腎臓などの代謝に関わる臓器に異常が出たり、細菌やウイルスなどの病原菌が原因で高熱によってボーッとした状態になることで、体を休ませようとする働きを持つために、傾眠傾向が起こります。
また、傾眠傾向だけでなく、時間や自分がいる場所が分からなくなるなど、認知症のような症状もあらわれます。
体温が平熱に下がったり、内臓が正常に戻ると収まります。
5.慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、脳疾患の一つです。
反射神経が徐々に鈍り、ちょっとしたつまづきで受け身を取れず、頭部への軽い打撲などが原因で、脳と硬膜の間で徐々に血液が溜まることによって引き起こされる病気です。
加齢とともに血管が細くもろくなるため、軽く頭をぶつけた程度でも硬膜下血腫を起こしやすいです。
溜まった血液が脳を圧迫することによって、頭痛や物忘れ、方麻痺による歩行障害などの症状が見られます。
放っておくと重症することもあるため、早めの受診が大切です。
6.薬の副作用
「認知症」の薬や「抗てんかん薬」による薬の副作用には、飲み始めたときに眠気やふらつきなど、傾眠傾向を引き起こしやすいといわれています。
抗てんかん薬とは、脳の細胞の興奮を抑える働きがあるため、服用する人の状態をみながら医師が薬の調整をしていきますので、安定するまでコントロールが必要です。
他にも、花粉症の薬に含まれている「抗ヒスタミン薬」も傾眠傾向を引き起こしやすいです。
花粉症の薬は、市販薬もありその中には、眠くなる成分が入っていない物もありますので、身近にあるドラッグストアで取り扱っているので、手に入りやすいので、薬剤師に相談しましょう。
7.食事性低血圧
食事性低血圧は食後30分〜1時間くらい後に強い眠気に襲われることです。
典型的な症状は、めまいやふらつきがあり、人によっては強い立ちくらみも起こします。
食事性低血圧となる代表的な原因はいくつかあります。
- パーキンソン病
- アルツハイマー病
- 高血圧
- 糖尿病
- 降圧薬や利尿薬の服薬
食事性低血圧の予防するために、こまめに水分をとり、炭水化物の摂取量を減らしたり食事内容を見直し、ゆっくりと食事するといいですよ。
血圧が高い場合は、塩分を控えめにする意識を持ちましょう。
8.過眠症
過眠症とは、睡眠関連呼吸障害等の睡眠を妨げる病気や極度の睡眠不足がないのに日中に強い眠気が現れる睡眠障害のことで、発作的に強い眠気に襲われることから、何の前触れもなく入眠してしまう点が特徴です。
原因としては、中枢神経系の機能異変といわれています。
過眠症の方は、夜に睡眠時間を確保しているのにも関わらず、日中に強い睡魔に襲われて眠り込んでしまいます。
過眠症の対策として、睡眠の機会を十分に確保しつつ、ニコチンやカフェイン、アルコールなど睡眠の妨げになるものの摂取を抑えることです。
傾眠となったときの対策
傾眠傾向があらわれたとき、普段の生活の中でも、ご自身で対処できることもありますので、参考にしてみてください。
睡眠環境を整える
傾眠傾向を改善するためには、夜間の睡眠で熟睡できるよう、枕やマットレス、シーツなど心地よく眠れる環境を整えることです。
生活リズムを調整する
朝起きたらまず、カーテンを開け朝日を浴びることで、体を目覚めさせるようにしましょう。
早寝早起きを心掛け、生活リズムを整えることで、高齢者がかかりやすい睡眠障害などの不調からも改善されます。
熱や血圧を測る
急激な血圧低下は、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症、高血圧、糖尿病といった病気が隠れている可能性があります。
血圧や熱を測る習慣づけすることで、大きな病気などの早期発見につながります。
薬を調整してもらう
認知症やてんかん、アレルギー薬といった薬の副作用が原因の場合は、かかりつけ医に相談し、服用量を調整してもらいましょう。
ご自身で薬の管理が難しい方は、介護している家族の方も薬に含まれている成分や副作用について事前に把握し、日頃から注意しましょう。
話しかける・散歩へ出かける
傾眠していても周囲からの弱い刺激でも気が付くようなら、積極的に話しかけ、会話の機会を増やして眠る隙を与えないようにすることが効果的です。
話すだけでなく、外に連れ出し散歩をするのもおすすめです。
適度な運動で身体能力の向上を期待できるだけでなく、日中活発に動き回ることで、夜ぐっすり眠れるようになります。
こまめに水分補給をする
傾眠傾向の原因の一つに脱水症状がありますので、普段からこまめに水分補給をするよう心掛けましょう。
誤嚥防止のために、コップに飲み物を少量ずつ入れて上体を起こした上体で飲んでもらいましょう。
まとめ
高齢者の傾眠について解説しましたが、夜眠れないからといって、ウトウトと眠っていることが、意識障害につながってしまううえ、傾眠傾向が続くことで、QOLの低下や誤嚥性肺炎などの病気につながることもあります。
また、加齢や体力の低下や薬の副作用、認知症によって傾眠傾向を起こすため、生活習慣の見直しも大切です。
かかりつけ医と相談し、日中の活動を増やすよう家族のサポートで支えていきましょう。