自分らしい最期を自宅で迎えるための居宅介護ですが、病状が急変した場合の対応については不安が残ります。
施設や病院などと違い、居宅介護にはスタッフが常駐しないというデメリットが存在するからです。
介護士や看護師が不在になる時間帯に、もしも病状が悪化したら…
居宅介護の緊急時は、一秒でも早く駆け付け対応することが、命を繋ぐ鍵となります。
合鍵を持っていなかったばかりに対応が遅れ、助かる命が助からないという事態は何としても避けなければなりません。
そこで、安全に鍵を保管する手段としてキーボックスの活用が進んでいます。
この記事では、緊急時の生命線となる居宅介護の鍵問題と、キーボックスの重要性や課題について解説します。
居宅介護の鍵事情
自宅で介護サービスを受ける場合、介護士や看護師などが利用者のご自宅を訪問します。
利用者の生活スタイルや家族構成、利用者の介護度によっては、訪問したスタッフによる鍵の解錠が必要となります。
では、どのような場合に鍵の解錠が必要になるのでしょうか。
鍵の解錠を依頼する場合
寝たきりなどで利用者による鍵の管理が出来ず、訪問したスタッフに依頼しなければならないケースは以下のとおりです。
- 1人暮らし
- 同居家族が不在時の訪問
未婚者の増加・少子化や核家族により、高齢者の1人暮らしは増え続けています。1人暮らしの割合は、ここ40年ほどで2~3倍に増加していることから、サービス提供にあたり鍵の管理を依頼しなければならないケースも増えてくると予想されます。
65歳以上の1人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあり、昭和55年には65歳以上の男女それぞの人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、令和2年には男性15.0%、女性22.1%となっている(出典:内閣府ホームページ 令和5年版高齢社会白書 3家族と世帯 (2)65歳以上の一人暮らしの者が増加傾向 より)
実際の居宅介護の現場では、どのような場所に鍵を保管しているのでしょうか。実際の事例をもとに解説します。
安全性に欠ける鍵の保管場所
一般的な鍵の管理場所として
・郵便ポストの中
・植木鉢の下
があげられます。
実際の訪問介護の現場においても、屋外の決められた場所に保管していたケースがあるのでご紹介します。
事例①玄関先の植木鉢の下
- 介護度:要介護5
- 鍵の保管場所:玄関先の植木鉢の下
- 訪問時間:午前6時
ご本人は寝たきりの状態で、鍵の解錠は出来ません。
近くの別棟に同居家族が住んでいましたが、生活リズムが異なるため、鍵の解錠は介護士によって行われました。
申し送りどおり、玄関先の植木鉢の下に鍵が置かれてありました。
薄暗い時間帯でも鍵の場所が分かり、植木鉢をよけるだけで鍵があるので、受け取りやすさを感じた反面、悪用されないかという心配がありました。
合鍵にも潜むリスク
玄関先に鍵を置いておくのは不用心だから、と合鍵を作りあらかじめ渡したうえでサービスを利用するケースもあります。
一見便利な合鍵ですが、以下のようなリスクが存在します。
- 訪問の度に持ち出すので紛失の危険がある
- 紛失時、鍵本体を交換しないといけない(工事の手間と高額な出費)
- 合鍵を持っている人しか解錠できない
一番に懸念される緊急時ですが、その場に居合わせた人が必ずしも合鍵を持っているわけではないので、迅速な対応が難しい場合もあります。
実際に合鍵を使用した訪問介護の事例は以下のとおりです。
事例②合鍵を事務所にて保管
- 介護度:要介護4
- 鍵の保管場所:合鍵を事務所にて保管
- 訪問先までの時間:車で30分
事務所に保管してある合鍵を持ち出し、訪問していました。
1日に数件のお宅を訪問する場合もあり、鍵の持ち出しには常に紛失のリスクが付きまといます。
事務所から訪問先までは車で30分ほどの距離があり、緊急時の対応が遅れてしまう心配がありました。
もしもの場合、合鍵を持っていないスタッフや近隣住民による安否確認が出来ないことが課題でした。
安全な鍵の管理を実現するキーボックス
キーボックスを使用することで、安全に鍵を共有することができます。
壁掛けタイプやドアノブなどに取り付けるタイプなど形状は様々ですが、介護の場面で多く使用されているものは、暗証番号で解錠できる南京錠タイプです。
価格は、2,000円からとお手頃に購入できます。
さまざまな場面で活躍するキーボックス
以下のような場所で、キーボックスが活用されています。
- 民泊
- レンタルスペース
- 賃貸物件の内覧
- 訪問介護やデイサービス
- 子どもの合鍵代わり
非対面での鍵の受け渡しが可能なので、コロナ禍に重宝されました。
民泊やレンタルスペース・賃貸物件では、スタッフを常駐しなくて良いので人件費削減というメリットもあります。現地に出向くことなく、暗証番号を伝えるだけで解錠が出来るので便利です。
居宅介護の場面では、緊急時にすぐ鍵を開けることができ、安全な保管が可能なキーボックスが活用されています。
居宅介護でキーボックスを使用する場合のメリットについて、以下で解説します。
居宅介護におけるキーボックスのメリット
さまざまな場所で活躍するキーボックスですが、居宅介護の鍵問題を解決するメリットがあります。
- 安全に屋外での鍵の保管ができる
- 合鍵を持っていなくても暗証番号を聞くだけで鍵の解錠ができる
- 緊急時の迅速な対応ができる
先にご紹介した事例のような従来の鍵の保管方法に比べ、防犯性が高く緊急時の迅速な対応を可能にします。
緊急時に暗証番号さえ分かれば、近くにいる人が解錠し安否確認できるので、窓ガラスを割って入室するといった危険な行為をすることなく、迅速な対応へと繋げることができます。
一方で、集合住宅においてキーボックスの設置を拒否されるケースもあります。
居宅介護の生命線となるキーボックスですが、なぜ設置の許可が下りないのでしょうか。
キーボックスの課題点
安全で便利なキーボックスですが、さまざまな課題が潜んでいます。
主な課題として
- 集合住宅での取付許可が下りない場合がある
- 利用者本人や同居家族が拒否をする
などがあります。どちらにも共通するのは防犯面への不安です。以下では、それぞれについて解説します。
集合住宅での使用許可が下りない
エントランスキーのあるマンションでキーボックスを使用したい場合、鍵の所有権のある大家や管理会社の許可が必要となります。
取り付けにあたり許可が下りない背景として、
- 不特定多数の人の出入りにより、安全性が担保できない
- 他の住民へ不安を抱かせる
があげられます。
安全性を謳ったマンションの大家や管理会社としては、居宅介護に必要なものであっても、簡単に許可できない悩ましい問題なのです。
利用者本人や同居家族が拒否する
自宅での介護を希望する人は、これまでの価値観や生活スタイルを変えたくない思いのある人が多いです。
本人や同居家族のテリトリーで介護が行われる分、介護者のアドバイスを受け入れられないケースは多々あります。
「そもそもキーボックスを知らない」「悪い事件で聞いたことがある」といった人にとってキーボックスは、使用するのに抵抗がある代物です。
どんなに命に関わる大切なことであっても、本人の意思を変えることは困難です。
このように、居宅介護の生命線となるキーボックスには、さまざまな理由で受け入れられないことがあります。
その背景にあるものは、防犯面への不安です。
キーボックスの破損や盗難の不安
ここに鍵がありますよ!
という見た目から、かえって不用心なのではないかという意見もあります。
キーボックスの素材は、強度の高い亜鉛合金で作られており、ハンマーやのこぎりにも耐える頑丈な作りになっているものが多いです。
購入にあたっては、セキュリティ面を強化したものを選ぶことが重要になります。
キーボックスに対してマイナスイメージを持つ人にとっては、特殊な工具を使用したら本体を壊せるのではないかという疑念があり、活用へはまだまだ課題が残ります。
まとめ
今回は、居宅介護における鍵の管理問題を解決するキーボックスについて解説しました。
安全で便利なキーボックスですが、全てのケースで使用できるわけではありません。
キーボックスへの理解が進まないばかりに、希望する場所での居宅介護を諦めたり、盗難被害にあった、という方もいるのではないでしょうか。
要介護者の増加に伴い、今後はさまざまな暮らしの場での居宅介護が予想されます。
どんな生活環境でも、安全に等しく介護サービスが受けられるよう、キーボックスを使用することへの理解や、防犯性・機能の進化が期待されます。
誰もが必ず経験するであろう介護問題。
キーボックスの使用によって叶う介護のかたちがあるということが、広く認知されることを願います。