ある日の朝のこと、デイサービスでの降車風景です。
このおばあちゃんは糖尿病。インスリンの注射をご自分でされています。体調を尋ねると…
高齢の方と接する機会が多い介護士や看護師はこのようなやりとりをすることが間々あります。
実は、知らないうちに低血糖を起こしているのかもしれません。適切な対応をしないと生命の危機にもつながります。
今回は無自覚性低血糖についての説明です。症状や対応方法などを、似ている病気とともに分かりやすくお伝えします。
糖尿病ってどんな病気?
糖尿病とは、血糖値が高い状態が続く病気です。
私たちはブドウ糖を燃料として日々生活をしています。車に例えるとガソリンですね。炭水化物(ご飯、パン、芋など)からできるブドウ糖は、血液の中に入り全身に運ばれます。そして脳や筋肉、内臓で燃料として働くことで命が保たれています。
血糖値とインスリン
膵臓から出るインスリンというホルモン。これが血糖値をコントロールしています。
分泌されたインスリンの量や働きに問題がない場合は、血糖値は一定の範囲で保たれます。反対にインスリンの量が少ない、また働きが悪い場合は血糖が高い状態が続きます。
低血糖とは
糖尿病の治療で血糖値を下げる飲み薬やインスリン注射を使用している場合に、これらが効きすぎて血糖値が正常な範囲から下がってしまう状態です。
低血糖になる原因
- 糖尿病の薬の種類、量を間違えた
- 食べた炭水化物の量が少なかった
- 食事の時間がいつもと違っていた
- いつもより長く、またはたくさん運動や活動をした
- お酒を多めに飲んだ
- 入浴した(10分間の入浴で30〜40キロカロリーを消費する)
- インスリンを注射する場所を変えた(体に早く吸収される順番:お腹 →二の腕→お尻→太もも)
一般的な低血糖の症状
血糖値の正常範囲は空腹時60~110㎎/dl、食後100~140mg/dlと言われています。一般的に70mg /dl未満を低血糖と呼び、血糖値により現れる症状は変わります。
- 70mg /dl未満:あくび、不快感、考えがまとまらないなど
- 55mg /dl程度:動機、発汗(冷や汗)、手足の震えなど
- 50mg /dl程度:眠気、脱力など(脳機能の低下を示す症状)
- 30mg/dl程度:痙攣、意識消失、一時的に起こる片麻痺、昏睡症状など
無自覚性低血糖はこれら自律神経の症状が出ることなく、そのまま血糖値が下がり続け意識障害などの重篤な症状が突然出ることを言います。
無自覚性低血糖の誘因は?
低血糖を繰り返していると、血糖が下がったことを感知するセンサーの働きが鈍くなります。その結果、より重症の低血糖にならないと症状が出なくなります。
また他の誘因として、糖尿病の合併症で自律神経障害があり症状が出ない場合もあります。
無自覚性低血糖起こしやすい人
- 糖尿病の内服薬、インスリン注射を使っている人
- 糖尿病の治療を始めてから長い人
- 何度も低血糖を起こしている人
- 食事時間や食事量が不規則な人
- 認知機能が低下している人
無自覚性低血糖症状は?
- 体がフラフラする
- 頭がクラクラする
- 動作がぎこちない
- めまい
- 体の力が抜ける感じ
- ろれつが回らない
- 目がかすむ
- お腹が空いたとよく言う
- 忘れっぽくなった
- 注意力が落ちた
勘違いされやすい症状と病気
- せん妄、錯乱:認知症やうつ病と間違われやすい
- 意欲の低下:うつ病と間違われやすい
- 片麻痺:脳の病気と間違われやすい
- 異常行動:認知症と間違われやすい
低血糖を起こしたら
意識がない場合
口から何も食べられない場合は救急車を呼ぶ
意識がある場合
ブドウ糖10gか砂糖20gを摂ってもらうようにしてください。具体的にはブドウ糖が入っているジュース(コーラなど)を150〜200ml飲んでもらうと応急処置として良いと思います。
低血糖を防ぐには
高齢者の方の低血糖症状は非典型的です。低血糖を防ぐ対策として以下の4つの事前対策を行ってください。
- 高齢者に起こりやすい低血糖の症状を知っておく
- 飲んでいる薬の内容を知っておく
- 食事時間や量をほぼ一定にする
- 出かけるときなどは、必ずカバンにブドウ糖や補食を入れておく
糖尿病の人は高血圧になりやすい
糖尿病と切り離せない病気、それは高血圧です。
- 肥満の人が多い
- インスリンに抵抗性がある
- 糖尿病によって腎臓の機能が落ちている
- 動脈硬化がある
- 脳血管の病気
- 心血管の病気
- 冠動脈の病気
- 網膜症(目)
- 腎臓病
- 末梢動脈の病気など
筆者の体験談
ある日の朝。デイサービスに来た利用者様。顔色が悪く、疲れたような表情で車から降りてこられました。
80歳代後半で糖尿病。家族と同居。血糖測定やインスリン注射は自分でされています。
調子が悪かったせいか、血糖測定器、インスリン注射、ブドウ糖が入ったポーチを家に忘れて来所されています。
血糖値は測れませんでしたが、デイサービスにあったジュースや飴を摂ってもらい症状は治りました。おそらく低血糖だったと考えます。
まとめ
無自覚性低血糖は気づかないうちに低血糖になっている状態です。意識障害などの症状が突然現れます。
しかし、高齢者に起こりやすい症状を理解し、日常生活に気をつけブドウ糖や補食を持ち歩くことで十分に対応できます。
また糖尿病患者さん、そのご家族ともに分からないことはかかりつけ医に相談し、治療を続けながら日々楽しく過ごしていきましょう。