認知症の高齢者にみられる一つとして、便をいじったり、便で衣服や家具などを汚す問題行為のことを弄便(ろうべん)と言います。
他にも、壁に塗りたくったり、カーテンを汚したりと、1日に色んなところに便で汚されるため、1日に何回も掃除をしなければならず家族にとっては、大きなストレスになります。
弄便する方は主に、おむつをしているうえに認知症のため、注意しても本人は分からず、何度も繰り返してしまいます。
この行為は在宅の他にも、介護施設でも多く見られるので、介護のプロでもどうすればいいのかと、悩まされることです。
また、認知症の方は嗅覚が鈍くなり、臭いも感じづらく、部屋中に便の臭いがしても分からないため、一緒に住んでいる家族にとっては、辛いことです。
では、なぜこのような行動を起こしてしまうのか、原因と対策や予防法、弄便した時の対処法をご紹介します。
弄便とは?
弄便とは、冒頭でも記載している通り、認知症患者の方に見られるBPSD(行動・心理症状)の一つで、便を素手でつかんでいじってしまったり、衣類や壁など部屋全体を便で汚染してしまう行動のことです。
場合によっては、便をあんこやおはぎと認識し、丸めて口に含んでしまうこともあります。
家族や介護職員にとっては、ショックな光景で1日何回も行われるため、精神的ストレスとなってしまいます。
認知症は病気の一つであり、本人が意識をして行っている行為ではないので、むやみに叱り続けると、認知症の症状が悪化し、弄便がひどくなる恐れがあります。
弄便という行為を行うに当たって原因を知り、対策・予防することで、症状が緩和することも可能です。
弄便行為をする原因とは?
弄便は、認知症の方が意図的に弄便を起こしているわけではありません。
では、なぜ弄便を起こすのか、原因は一体何かを知っておきましょう。
便意が低下・喪失する
年齢とともに腸の機能や筋力などが低下することで、便秘になりやすくなり、排便感覚が鈍くなってしまうことで、便意を感じづらくなります。
排便感覚が鈍くなると「便が出そう」「トイレに行きたい」という感覚がなくなり、トイレでの排泄が難しくなることで失禁が増え、弄便につながってしまうことがあります。
おむつ内に不快を感じる
おむつやリハビリパンツの中で、排便があっても本人は気づきません。
トイレでの排泄が難しくなり、便がおむつの中に長時間あると蒸れたり、不快感だけでなく皮膚への刺激となり、皮膚トラブルや褥瘡の原因にもなります。
この違和感や不快感によって、自分で片付けようとおむつの中に手を入れ便を触り、弄便を引き起こしてしまいます。
自分で片付けしようとする
排便した後、不潔なものであると認識し、早く片付けようと自分で後始末しようとするが、どうすれば良いか分からないといった状態によって、弄便が起こります。
家族が周りにいない状況だと、なおさらパニックに陥り、その結果、おむつを破ったり壁に便を擦り付けたりするなどの行為につながります。
便を認識できない
認知症の症状が進行すると、便がどういうものか正しく認識ができず、便とは違うものと認識をするため弄便してしまいます。
便を認識していないことで、便を触って自分の顔や家具、衣服などに擦り付けたり、食べ物と認識をし口に入れてしまうこともあります。
人によっては、便を大事なものと認識し大切に紙に包んで、引き出しやポケットにしまったり、便器の中の便が気になってかき混ぜる行動を起こすこともあります。
失禁したことへの羞恥心がある
パンツやおむつを汚したことで、排泄に失敗したという羞恥心によって、自分で何とか処理をしなければとタンスや押入れ、枕の下などに便を隠すといった行動を起こします。
こういった行為は、家族に知られたくないと自身で片付けようとしますが、どうすれば良いのか分からないという理由の可能性があります。
弄便を見つけた時の対応について
弄便を発見したときは、誰もが衝撃を受けてしまいます。
正しい対応方法を知っておくことによって、認知症の方の自尊心を傷つけず、行動を軽減することもありますので、知っておくことはとても大切です。
叱ったり責めたりせず、手の汚れをとる
弄便行為を発見したとき、頭ごなしに叱ったり責めず、便が付いている手や体で、それ以上家具や寝具を汚さないよう、キレイに拭いてあげましょう。
認知症の方を叱ったり責めたりしたところで、なぜ自分が怒られているのか分からず、叱られている内容自体を忘れてしまうため、同じ行為を何度も繰り返します。
しかし、叱られた相手への恐怖心や叱れらたときに感じた不快感は残るため、介護生活に支障が出る可能性が高くなります。
お風呂に誘導して不快感を取り除く
弄便の原因の一つ、リハビリパンツやおむつなどに便があることで、不快感を感じます。
認知症の方が、便失禁に対する不快感を取り除いてあげるためにお風呂場へ行くよう、声掛けし、誘導しましょう。
認知症の方は、入浴に対して拒否が強く、必要性がないと認識しているため、スムーズに入れないと、入浴拒否されてしまいます。
声掛けの仕方によっては、「汚い・臭いから」などといった声掛けは、逆に嫌がられてしまう恐れがありますので、「キレイにしましょう」など優しい声掛けをしながら、お風呂へ誘導するといいですよ。
入浴を誘う場合は、声の掛け方には十分気をつけましょう。
処理しやすい環境にする
弄便は何回も繰り返されるため、便で汚されないためにも、色んな工夫をすることで、後始末や掃除などを最小限にとどめることができます。
例えば、ベッドや周囲が汚れやすい場合、防水シーツを敷いておくといいですよ。
他にも、壁には「すぐに剥がせるビニール製のシートを壁に貼っておいたり」、「掃除用具を近くに置いておく」など、素早く片付けができるようにしておくことも、おすすめです。
弄便の予防法と改善策
弄便行為は、介護する側からしたら「やめてほしい」と思うのは、当然です。
ですが、認知症の方を叱ったり、責めても効果はなく、むしろストレスとなり、弄便行為が悪化してしまう可能性があります。
予防方法や弄便行為が見られるようになった時、どうすればいいか改善策を解説していきます。
自然な排便を促し、下剤の使用を避ける
高齢になると、自身で排泄する筋力や臓器の機能が低下し、便秘になりやすくなります。
おむつの中の違和感や不快感などが原因の一つのため、なるべくトイレで排泄する習慣を作りましょう。
また、普段から自然に排便ができるよう、食事の際は消化に良いものや水分補給を取る意識をすることも大切です。
腸の動きが低下しているため、腸を活性化させるストレッチやマッサージをとり入れることで、なるべく下剤を使用せず、自然に排便ができるようにトイレ誘導するように促しましょう。
おむつに便が入っている時間を減らす
トイレでの排泄が難しく、長い時間おむつの中に便が入っていることで、違和感を生じ、不快に感じたり、皮膚の炎症による痒みや痛み、褥瘡(じょくそう)を引き起こしてしまう可能性があります。
認知症の方が便意をもよおした時は、自分から言いづらいためソワソワと歩き回る行動が見られるので、サインを見逃さず、なるべく排便後は早めにおむつを交換し、便が入っている時間を減らしましょう。
手やお尻の皮膚をケア
長い時間、おむつの中に便が皮膚に付着していると、なかなか拭き取りにくく、強くこすろうとすると、皮膚を傷つけてしまいます。
特に、お尻や肛門まわり、手指にワセリンなどの保湿クリームを塗ると、排便があっても滑りがよくなり拭き取りやすくなるので、おすすめです。
掃除しやすい環境作り
弄便で家具や寝具、壁、床などに汚れがつくことが多いため、あらかじめ壁にすぐに剥がせるビニール製の保護シートを貼っておく、ベッド周りに防水シートを敷くなどの対策をし、処理を簡単に終わらせられるよう対策をしましょう。
在宅で介護されていて、部屋が畳の場合は、汚れが畳の目に入り込まないように、フローリングカーペットなど拭き取りが簡単なマットを敷くと良いですよ。
弄便をしてしまった場合、掃除がしやすい環境にしておくことで、少しでも負担を軽減することができます。
便から意識をそらす
音楽や花、会話、簡単な作業や遊びに意識を向け、自分自身に意識が集中し、おむつ交換が遅れても自分の便やおむつの状態に、多少気づかれにくいです。
メガネやマスクを使う
加齢によって、目が見えづらくなるため、便かどうか分からず、手でこねるといった行為を行っている可能性があります。
メガネをかければ、便だとはっきり認識することができるため、弄便行為が軽減されます。
また、マスクは認知症の方につけることで、便を口に入れることを防ぐこともできますので、ぜひ試してみてください。
ケアマネージャーに相談
どれだけ予防や対策をしても、弄便行為は介護者にとってストレスになります。
特に家族だけで介護をするのは、身体的・精神的にも大きな負担となり、体調を崩すリスクが高くなってしまいますので、ダウンする前にケアマネージャーに相談しましょう。
家族だけの見守りが難しい時は、介護保険サービスを利用し、デイサービスやショートステイを活用すると効果的です。
まとめ
介護施設によっては、弄便対策としてミトンや手袋といった「身体拘束具」を使って、便に触らせないようにしているところもありますが、本人の手が不自由になり、自力で外せるものでもないため、非常に強いストレスになるため、使うことは最終手段となります。
色んな対策や予防法がありますが、まずはケアマネージャーやかかりつけ医に相談しましょう。
かかりつけ医は相談することで、排便コントロールで使われる下剤を調整してくれます。