高齢者のアルコール問題に悩んでいませんか?
アルコール依存症は本人の健康を害するだけでなく、ときに家族の生活をも巻き込んでしまいます。「お酒をやめてくれたらいいだけなのに、心配しているのに、どうして」と辛くなってしまいますね。
アルコール依存症は、本人や家族の努力だけで対処できる問題ではありません。高齢者の場合には介護などの問題も生じるため、家族だけで抱え込まず専門家に助けを求めましょう。
私は医療相談員として、アルコール依存症に悩む高齢者や家族を多く支援してきました。
この記事では高齢者のアルコール依存症の現状や治療方法、サポートの仕方について解説します。アルコール依存症の高齢者とその家族が分かり合うための手助けとなれば幸いです。
意外と身近な高齢者のアルコール問題
高齢者のアルコール依存症は増えている
アルコール依存症は現役世代だけがかかる病気ではありません。
実際、アルコール専門病院を受診する高齢者の割合は増加し続けています。(平成19年度厚生労働省科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業「精神障害者の地域ケアの促進に関する研究」より)
アルコール依存症は、大量のアルコールを長年飲み続けることによって発症する病気です。若い頃から無理な飲み方を続けていると、当然、年齢が上がるにつれアルコール依存症になるリスクは高くなります。
また、高齢者にはライフスタイルの変化からアルコール依存症になる人もいます。定年退職後に時間を持て余し、ついお酒に手が伸びたり、配偶者に先立たれた悲しみや孤独から、飲み過ぎが続いたり・・・。
年齢を重ねると代謝や体内の水分量が低下するため、若い頃よりアルコールに弱くなります。高齢者の過度の飲酒には、周囲の人も気をつけてあげましょう。アルコール依存症は予防が大切です。お酒は楽しく適量を、です。
アルコール依存症とは
アルコール依存症とは、大量の飲酒がやめられなくなり、お酒のせいで社会生活に支障をきたしてしまう病気です。
アルコール依存症には以下のような症状があります
- お酒の量がどんどん増えてコントロールできなくなる
- お酒を飲まずにいると、手が震える、不安になる、イライラするなどの離脱症状が出る
- お酒にまつわる失敗や人間関係でのトラブルを起こす(失禁、万引き、暴言など)
アルコール依存症には、適切な治療やケアが必要です。しかし、実際に治療やケアにつながっている人は全体の5%程度とされています。※NPO法人ASKのホームページより
偏見やお酒を禁止されてしまうとの思いから、お酒の飲み方に問題があると自分で認めないのも、アルコール依存症の特徴のひとつです。
実際、アルコール依存症の指摘を受けても「そんな大げさな」、「酒の適量は自分が一番よくわかっている」と聞き流してしまう人は本当に多いです。
アルコール依存症が引き起こす社会的な問題
アルコール依存症が進行すると、お酒を飲むことしか考えられなくなってしまいます。
その結果、以下のような社会的な問題を起こしてしまうことも珍しくありません。
- 暴言、暴力
- 万引き
- お金のトラブル
- 飲酒運転
本人を説得しようとしたり、本人に説教をしても、「何よりもお酒が大切」な状態になっている本人にはあまり通じません。
アルコール依存症になると、体を壊すだけでなく、仕事や家族など本当に大切なものを失ってしまう事態にもなりかねません。
アルコール依存症の治療やサポート
アルコール依存症の治療は、病院で行なうアルコールの解毒と、再飲酒の予防に大別できます。以下に詳しくみていきましょう。
アルコールの解毒
アルコール依存症になると、お酒を飲んだ後に離脱症状が現れます。
離脱症状は、手の震えや不安といった軽度なものもありますが、重度になると幻覚やけいれん発作を起こす場合もあります。
重度の離脱症状は命の危険もあり、薬物による治療のために入院になるケースが多いです。
再飲酒を予防するための教育プログラム
アルコール依存症の治療の柱は「お酒を飲まないようにする」ことです。
アルコール依存症の人は、ストレスを解消するためについお酒に走りますが、それではストレスが軽減されず、お酒もやめられません。
お酒の怖さを知ると同時に、自分がどうしてお酒を飲んでしまうのか、お酒を飲まずに過ごすためにはどうしたら良いのか。
アルコール依存症の教育プログラムでは、お酒にたよらずに生活する方法を学べます。
断酒教育のプログラムは入院だけでなく、外来通院でも受けられます。
自助グループはアルコール依存症の心強いサポーター
お酒を飲まない生活を続けるためには、自助グループへの参加も効果的です。自助グループとは、同じ経験をもつ仲間の集まりです。
同じ立場の仲間に責められることなく話を聞いてもらったり、仲間の経験に耳を傾けたり…自助グループでは、病院の指導とはまた違う気づきや、病気から回復するための癒やしが得られます。
アルコール問題の自助グループには断酒会やアルコホーリクス・アノニマス(AA)などがあります。
高齢者のアルコール依存症で特に困ること4つ
特に高齢者のアルコール依存症では、以下のような問題で家族を困らせてしまいます。事例もあわせて見ていきましょう。
治療を拒否する
どの病気にも言えることですが、治療は本人が望まないことには受けられません。
家族が治療を希望しても、本人が「そんなもの必要ない」と突っぱねてしまえばそれまでです。
本人がお酒をやめたいと心から思えるようになるまで、家族は焦れったい思いをすることになります。
治療に向き合えずにいる間にも、どんどん時間は過ぎ、病気は進行します。
家族は本人を心配するのはもちろん、本人がお酒を飲むと気持ちを踏みにじられたと感じ腹が立ちます。
事例1:アルコール性肝炎のAさん
体調を崩し入院となるも、治療が功を奏し数日で体調は良くなりました。
一見元気そうでも肝臓の数値はかなり悪く、医師は「もうお酒は飲まないように」と伝えます。
しかし、本人は「大丈夫や」「気をつけます」と聞き流しています。
家族からも「お酒はやめてほしい」とお願いしますが「わしの勝手やろ!」と怒鳴って聞き入れません。
本心ではないけれども、とりあえず「はい、やめます」と言う人も多い印象です。
よく病気や怪我をする
アルコールは肝硬変、食道がん、糖尿病、認知症などさまざまな病気と関連しています。(厚生労働省のリーフレットより)
また、酔っ払って転倒し、怪我をしたり、打ちどころが悪ければ骨折することも。
若い人でも起こり得る問題ですが、高齢者は病気や怪我をするリスクがより高くなります。
お酒のせいで体調を崩したり、酔って怪我や骨折をするたび、家族が呼び出されるはめになります。
事例2:お酒が理由で食道がんになったBさん
長い入院治療を終えて、ようやく退院ができました。
本人も大病をしたことで「もうお酒はいらない」と言い、家族はほっとしていました。
ところが、1ヶ月もたたないうちに今度は整形外科に緊急入院になりました。
外出してお酒を飲み、酔っ払って溝に落ち、大腿骨を骨折したのです。
救急隊からの知らせで病院に駆けつけたBさんの家族は疲れ切っていました。
正直、病院のスタッフも「また?」と思ってしまいます。家族が辛いのは言うまでもありません。
介護が必要になる
病気によっては、治療後も介護が必要な状態になるでしょう。アルコール依存症でなくても、介護はいずれ必要になるものです。
しかし、これまでの経緯で家族関係が悪くなっていると、家族は介護に対し消極的になります。
「お酒を飲んでなかったらもっと元気だったはずなのに」と家族は介護をより負担に感じてしまいます。
事例3:糖尿病を併発したCさん
不摂生が続いており、糖尿病のコントロールも不良です。
大量飲酒が原因で入院となった時点で、足先が真っ黒になっていました。
命の危険があるため、Cさんは足を太ももから切断することになりました。
高齢で認知症もあったため、リハビリは難しく、立ち上がるにも介護が必要です。
サポートする家族も高齢になっている場合が多く、介護は本当に大変です。
問題行動で介護サービスが使えない
介護保険を利用すれば、ヘルパーやデイサービスの利用ができます。
しかし、アルコール依存症の高齢者は約束の時間に不在だったり、暴言を吐いたりと一筋縄にはいかないことがあります。
なかにはセクハラや暴力などの問題行動で、サービスが利用できなくなることも…
事例4:80歳のDさん
同居の家族が仕事でいない間に、隠れてお酒を飲んでいます。
足腰も弱ってきており、心配した家族は、ヘルパーを利用することにしました。
身の回りのサポートのほか、来客があればお酒を我慢するだろうという期待もありました。
しかし、ヘルパーが訪問すると、Dさんは出かけてしまって家にいません。
Dさんの不在が続き、結局ヘルパー利用は中止になってしまいました。
もう、本当にどうしたら良いのかわからなくなりますよね。
アルコール問題を抱える高齢者に家族ができること
いくら説得しても、病院にもいかない、お酒をやめようとしないアルコール依存症の高齢者。
家族にできる大切なことは、病気の理解と、専門機関への相談です。
アルコール依存症は「病気」だと認識しよう
アルコール依存症の正しい知識を身につけましょう。アルコール依存症は病気です。病気ですから、本人の気合だけではどうにもならない面があります。
例えば風邪を引いた家族を、「どうして風邪を引いたのだ」と強く責めることはしませんよね?本当は、アルコール依存症の人も病気に苦しんでいるだけで、家族に迷惑をかけようとは思っていないのです。
アルコール依存症の人を見ていると、「どうして…」と腹が立つこともあるでしょうが、感情をそのままぶつけることは逆効果になる場合もあります。
アルコール依存症の理解が深まると、状況を客観的に捉え、落ち着いて対応できるようになります。
アルコール依存症関連の書籍や、ASKなど支援団体のサイトもおすすめです。
保健所や家族会に相談しよう
家族は問題を抱え込みがちですが、思い切って保健所や家族会に相談してみましょう。誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になりますよ。
保健所では、専門家が具体的なサポート方法を一緒に考えてくれます。
また、専門的なサポーターはいませんが、家族会への参加もおすすめです。家族会は同じ境遇にある人が、それぞれの経験や思いを話したり聞いたりする場です。「辛い思いをしたのは私だけじゃなかったんだ」と実感できるのは、大きな救いになりますよ。
家族会に参加するうちに、アルコール依存症に振り回されず、自分のために日々を過ごせるようになれます。
アラノンなど、匿名で参加できる会もあります。思い切って参加してみましょう。
まとめ
高齢者のアルコール依存症は増加傾向にあります。
アルコール依存症は身近な問題ですが、偏見や病気の特性から、適切な治療やサポートを受けにくいという特徴があります。
特に高齢者の場合には加齢による問題と合わさって、家族にも大きな負担がかかりがちです。専門家に相談しながら、アルコール依存症という病気と向き合っていきましょう。