家に帰りたい。帰宅願望とは?認知症の影響や原因、対応方法、家族の向き合い方を解説

家に帰りたい。帰宅願望とは?認知症の影響や原因、対応方法、家族の向き合い方を解説

認知症の方が「家に帰りたい」と落ち着かなくなる現象を「帰宅願望」と呼んでいます。帰宅願望とは、具体的にどのような願望を指すのでしょうか?

認知症へ与える影響やその原因についても解説します。

この記事を読むことで、帰宅願望に対しての家族としての向き合い方や、適切な対応方法がわかります。

帰宅願望とは

おじいさん
おじいさん
家に帰らなきゃならん!
ここは、あなたの家ですよ。何度言っても、帽子をかぶりカバンを持って出て行こうとするの…どうしちゃったのかしら?
おばあさん
おばあさん

それは、認知症における周辺症状のひとつ「帰宅願望」の影響かもしれません。

まずは、必ずしも現在の自宅に帰りたいわけではないということを理解する必要があります。

どこに帰りたいのか

家に居るのに、いったいどこに帰りたいのでしょうか?具体的に次のような場所が考えられます。

  • 生まれ故郷や子どもの頃に住んでいた家
  • 居心地の良い人が住んでいる家
  • 自分が必要とされ、輝いていた場所

生まれ故郷や子どもの頃に住んでいた家

幼い頃に両親や兄弟と暮らした家には、素敵な想い出がつまっています。

特に女性の場合は、結婚で実家を離れ、新しい土地や家で暮らすことになる方がほとんどのため、なおさらでしょう。

しかし男性の場合は、結婚して環境が変わったとしても同じ家に住み続けている場合があります。その場合はどこへ帰りたいのでしょうか?

それは、両親に保護され、兄弟で安心して過ごしていた家やその時であると推測されます。

居心地の良い人が住んでいる家

帰りたい家は、必ずしも自分の家とは限らない場合もあります。

居心地の良い人、例えば心を許せる親戚の方や親友が住んでいる家やその人である場合もあります。

安住の地(家)に帰りたいと思っていると考えられます。

自分が必要とされ、輝いていた場所

周囲の人から頼りにされ、輝きを放っていた場所すなわち職場やその時代である場合があります。

特に男性の場合は、会社であることが多いです。定年退職をして何十年にもなるのに、ある朝急に「会社に行く」とカバンを持って出かけようとします。

また、女性の場合は「早く帰って夕飯の支度をしなくちゃ」と、ソワソワしはじめます。

家族のために毎日ご飯を作って、子育てをし、必要とされていた場所や時代に帰りたいのです。認知症の方が、「帰りたい家(場所)」とは、懐かしく強く印象に残っている場所

さらに本人にとって居心地が良く安心できる場所や時代であることが共通しています。

帰宅願望が現れる原因3つ

認知症による帰宅願望が発生する原因は何でしょうか。それは、認知症が原因で起こるBPSDによるものです。

BPSDは、不安な気持ちや焦り、孤独感を感じた時に発生します。

BPSDとは、認知症が原因でおこる周辺の症状のことを指します。他にも幻覚や妄想、睡眠障害など様々な症状があります。
  • 記憶障害や見当識障害の影響のため
  • 環境や人間関係の変化の影響によるもの
  • 夕方になってもの悲しい気持ちになるため

記憶障害や見当識障害の影響のため

認知症が進行すると時間や場所、人の顔までも識別できなくなってきます。これは、見当識障害という認知症の症状のひとつです。

わからないから不安になります。不安だから安心できるどこかへ行こうと行動するのです。

環境や人間環境の変化によるもの

例えばデイサービスに通い始めたり、お泊りサービスのショートステイの利用する場合。初めて行く場所や初めて会う人には、混乱し不安な気持ちになるものです。

このように認知症の方は、環境の変化への対応が難しい傾向にあります。

以前利用したことがあっても忘れてしまっていたり、逆に良くない感情だけを覚えている場合もあります。そのため、不安な気持ちが高まって「もう、帰ります」となるのです。

夕方になってもの悲しい気持ちになるため

この症状は「夕暮れ症候群」とも呼ばれています。

日が暮れて薄暗くなってくると「そろそろ帰って〇〇しなくちゃ」という気持ちになります。そのきっかけが食事の支度だったり、子どものお迎えであったりします。

帰宅願望に対しての適切な対応方法3つ

帰宅願望が出現した際の適切な対応方法について解説します。

  • 話を傾聴し、帰りたいという気持ちに寄り添う
  • 話題をかえる
  • 生活環境を整える

話を傾聴し、帰りたいという気持ちに寄り添う

何を言ってるんだ?ここはあなたの家だよ!

「何言ってるの?ここはあなたのおうちでしょ!」などと、本人の帰りたい気持ちを否定するのは禁物です。

本人の気持ちを受け止め、どこに帰りたいのか、どうして帰りたいのかなど気持ちを聞いてみましょう。

そうすると解決の糸口が見つかる場合もあります。

気持ちを受け止めてもらうことで、高まった感情が落ち着いていきます。

話題をかえる

話題を変えるというのも有効な方法のひとつです。認知症の方は、同時に2つのことを考えるのが苦手な傾向にあるからです。

  • 本人の好きな話題へと話を誘導する
  • 途中で話し相手を交代する
  • 「まず、座りましょう」言って、お茶や食事を勧める。

好きな話題に夢中になると、話が盛り上がり、「帰る」と言っていたことを忘れていきます。

それでも難しい時には、途中で他の人が登場し、新たな話題を提供するのも有効な方法です。

また、食事をお勧めし、違うことに集中することで、さっきまでの気持ちはどこかに忘れ去ってしまいます。

職員さん
職員さん
施設のスタッフは、普段からこのようなテクニックをフル活用しています。
視点をずらすという対応で、大抵の場合落ち着かれることが多いです。

居心地の良い生活環境を整える。

本人にとって居心地がよく、安らげる環境とは何かを考え、そのような空間となるように環境を整えることも効果的です。

スポーツ観戦が好きな方には、テレビで観戦ができるようゆったりとした専用の椅子を準備してみましょう。

音楽好きの方であれば、落ち着いて趣味の音楽やラジオを聴けるようにレイアウトします。

周りに観葉植物を置いたり、季節のお花や写真を飾るのも素敵ですね。

本人が「ここが一番居心地の良い場所と認識すれば帰りたい」という気持ちは軽減するでしょう。

帰宅願望入居者に対しての適切な対応方法

私がグループホームで勤務していた時の話です。

男性入居者W様は、ほぼ毎日、夕飯前になるとそわそわして「そろそろ帰る」と言いはじめます。

おじいさん
おじいさん
そろそろ帰る

その日も掃き出し窓から鍵を開けて行こうとされていました。

その様子に気づいた私は、夕飯の支度を他のスタッフに頼み、「じゃあ、一緒に帰りましょう」と、手をつないで外に出ました。

職員さん
職員さん
じゃあ、一緒に帰りましょう

季節は初秋。美しい田園風景が広がっています。

「きれいな景色ですね。Wさんはどこのお生まれですか?」などと、世間話をしながらのお散歩です。

先ほどの険しい表情もすっかり落ち着いて、笑顔になっていらっしゃいます。

近所をぐるっと一周歩いたあと、「そろそろ夕飯の支度が出来ている頃ですよ。帰りましょうか?」と私が促すと、

W様は、「ああ、そうだね」と言ってスムーズに施設に戻られました。

いつもこのようにうまくいくとは限りません。しかし、W様の「帰りたい」という気持ちに寄り添い、「不安」な気持ちを「安心」に変えた成功例と言えます。
職員さん
職員さん

帰宅願望に対しての家族の向き合い方について

家に居るのに「帰りたい」と言われて、初めはご家族も驚かれることでしょう。

帰宅願望とは、必ずしも現在の家に帰りたいわけではないということは最初に述べました。まずは「帰りたい」と言っている本人の気持ちを受け止め、話を聴きましょう。

繰り返しになりますが、決して否定していけません。否定することは、本人を混乱させ、不安な気持ちを増大させてしまうからです。

そしてここが一番安心できる場所なんだという環境を整えることが必要不可欠です。

環境とは、物理的な「物」だけではなく、その方をとりまく人の心も含まれます。

家族や周囲の人たちが、認知症の症状を理解し余裕をもって関わることで、「安心という名の環境」を作っていけるのです。

最後までお読みいただきありがとうございました

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