

このような考えを持つ方が多いのではないでしょうか?
私は2005年から介護の仕事を始め、今年で20年目です。今も現役で特別養護老人ホームで働いています。
現場で夜勤を含めた全てのシフトに入りつつ、生活相談員として、利用者の家族とのやり取りや医療機関との連携も行っています。
また2017年から2022年までの5年間、両親が同時に介護が必要な状態となり、老人ホーム探しをした経験があります。
この記事ではそもそも虐待とはどのようなことを指すのか。虐待の種類や起きてしまう原因。
虐待が起きない安全な老人ホームの見極め方について解説していきます。
記事を読んだ後に、「もし親を施設に預けることになっても安心だ」と思って頂けることを願います。
はじめに結論から
見学時に職員が挨拶をしてくれなかったら、候補から外していいです。

見学に来ている家族に挨拶すらできないということは、仕事が忙しすぎるか、これ以上利用者が増えてほしくないか。
働きやすい職場であれば、虐待は起きづらいと考えます。また介護(福祉)という仕事を選んだ人は、本来人の役に立とう高尚な生き方を選んだ優しい人が多いです。

そもそも虐待って?

どういう行いが虐待なのか?
一言でいうと犯罪です。詳しくいうと高齢者が介護を受ける家族や職員から権利や利益、尊厳が侵害され、いのち・健康・生活が奪われる状態を指します。
虐待の種類
高齢者虐待は法律上、以下の5つに分類されています。
- 身体的虐待
- 心理的虐待
- 性的虐待
- 経済的虐待
- 介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
順番に解説していきます。
身体的虐待
イメージしやすいのは身体的虐待ですね。2023年の調査では老人ホーム全体の虐待における約50%が身体的虐待です。
殴る、蹴る、つねる、平手打ち、火傷を負わせる、無理やり食事を口に入れる、ベッドに縛り付けるなどの身体拘束。
身体拘束については緊急をやむを得ない場合、例外があります。主な条件は以下の3つです。
- 切迫性:本人、他の利用者のいのちや身体が危険にさらされる可能性が高い場合。(暴力行為、自傷行為など)
- 非代替性:身体拘束以外に本人の安全を確保する手段がない場合。
- 一時性:身体拘束は一時的なものであり、必要最小限の期間・範囲で行われること。
この3つの原則は厚生労働省の指針に基づき、施設運営の現場で厳格に判断されます。
大前提としてご家族に説明、同意を得る必要があることは言うまでもありません。
私が以前働いていた施設でも上記の条件が揃い、身体拘束を行なっていました。
夜間帯の深夜1時から3時までという時間が決まっており、ご本人がベッドから動いて転落の危険性があるためです。
施設によりますが、夜間帯は1人の職員が2〜30人の利用者をみています。

心理的虐待
暴言、怒鳴る、無視、侮辱、恥をかかせる、威圧的な態度、嫌がらせなどの行為。老人ホーム全体の虐待における全体の約20%がこれに当たります。
現場を知っている一職員からすると、無視はやってしまいそうになります。
忙しくて心に余裕が持てないときや夜勤中に疲弊してしまっているとき、何度も同じ発言をする認知症の利用者を対応するのが、億劫になってしまいます。
性的虐待
わいせつな行為をする、させる、不必要な身体接触、衣服を脱がせて放置する行為。老人ホーム全体の虐待における全体の約2%と稀なケースです。
上記以外に実際の現場で起こり得る事案があります。例えば、入浴介助での異性介助です。
本人同意の上で女性の高齢者を男性職員が入れるということは、ままあります。
人員不足などの理由から、本人が嫌がっているにも関わらず無理矢理、入浴介助を行なっている。そんな施設があるとしたら性的虐待に相当し、身体的虐待、心理的虐待とも取れる行為です。
経済的虐待
高齢者の財産や年金を勝手に使う、生活費を渡さない、不当に財産上の利益を得るなどの行為。老人ホーム全体の虐待における全体の約18%です。
施設での主な事例は以下の2例です。
- 施設職員による預かり金の着服
- 認知症の高齢者から不当に金銭を受け取る
施設職員が入居者から”お小遣い”と称し頻繁に受け取り、金額が積み重なっていくケース。
認知症の高齢者に対して、「あなたのために介護の質を上げるお金が必要」などと頼み込み、正常な判断ができないところにつけ入るケース。
「オレオレ詐欺」がまさにこの事例であり、虐待の前に犯罪行為です。
介護・世話の放棄(ネグレクト)
食事や水分を与えない、入浴や排泄介助をしない、医療・介護サービスの利用を妨げるなどの行為。老人ホーム全体の虐待における全体の約20%です。
経験上、人員不足によって起こり得る虐待です。
食事介助にはどうしても時間がかかります。ゆっくりではあるが、食べ続けているのに介助をやめてしまう。次の仕事が滞ってしまうからという職員側の都合で。
入居者が動作時に「痛い」と何度も訴えているのに、その声を無視。他には、往診で骨折が判明するケースも。
虐待が起きてしまう原因


以下3つが主な原因です。
- 職場環境
- 知識不足
- 高齢者側の要因
職場環境
前述している通り、職場環境の悪さは虐待に直結する原因だと思います。
人員不足による職員一人一人の負担増。夜勤明けで休みが取れない、仮眠がとれないなど。
疲れてくるといつもは落ち着いて対応できることも、つい感情的になってしまいます。
知識不足
特に認知症の高齢者の対応にイライラしてしまい、手が出てしまう。
認知症についての知識が十分にあれば、落ち着いて対応することができる。これは病気の症状だと、客観視できれば感情的にならずに済みます。
実際はその時の職員の精神状態にもよるので、「わかっていてもイライラしてしまう」ということもあると思いますが、知識をつけることは最低限必要なことです。
結果、認知症の高齢者は落ち着くのでWin-Winの関係が成立します。
高齢者側の要因
認知症の進行による暴力行為や暴言。介助拒否やセクハラ行為など問題行動のある方は、どの施設でもおられます。
それに対して施設側がどのような対処をするのか。
医療機関との連携が要となりますが、そもそも現状の施設の体制で、受け入れ可能な精神状態の方なのか?という見極めも大切になります。
虐待が起きない老人ホームを選ぶポイント


虐待の概要や種類、原因について見てきたところで本題に入ります。
インターネットと見学時のチェックポイント、それぞれ2つずつに分けて解説していきます。
事前準備①介護サービス情報公表システムを確認する
あまり一般的に知られていませんが、施設の情報をインターネットに公表する仕組みがあります。
大体のご家族の方が「知りませんでした」と答えることが多いです。
掲載されている内容で特に入退職状況、勤続年数、介護福祉士の保有資格者人数などをよく見ておきましょう。
入退職が激しかったり、勤続年数が短かかったりするということは、職場環境があまり良くないのではと考えてしまいますね。
介護福祉士は国家資格です。3年以上現場で働き、かつ450時間の研修を6ヶ月以上受けないと受験資格を得られません。
一概には言えませんが介護福祉士の数が多ければ、質の高い介護を実践している施設である可能性が大きくなるでしょう。
事前準備②老人ホームを運営する会社の開設ペースをチェック
会社の大小に関わらず、老人ホームを開設するペースが早い企業は注意です。
どんどん、どんどん新しい老人ホームを建てるとなると、それだけ人員が必要になります。
管理者も職員も教育が行き届かないまま、現場に出される可能性が高い。
上記で取り上げたとおり、介護福祉士を持っている職員を一度に多く集めるということは、不可能に近いです。
実際に開設ペースが早い老人ホームで、虐待事件が起こっているという事実もあります。

見学時①働いている職員が挨拶をしてくれるか?
冒頭文にも書きましたが、ここが最重要チェックポイントです。
挨拶があっても何気ない利用者と職員の会話、全体の雰囲気にも目を配ります。
職員の声のトーンや利用者に笑顔が見られるか、落ち着いているか。
可能であれば、利用者と話ができるといいですね。
職員はいくらでも取り繕うことができますが、利用者は正直です。
私も普段現場にいて見学の方が来られると、いつもより明るく利用者と接することが、恥ずかしながらあります。
利用者の方々に「ここの暮らしは楽しいですか?」と質問してみましょう。
見学時②職員の研修状況を生活相談員に確認する。
「虐待が起きてしまう原因」でも挙げたように、職員の知識不足が虐待に直結します。
私も研修や本で介護技術や声かけの方法、認知症に関する知識を得たことで、本当に楽しくラクに働くことができるようになったと感じています。
介護の仕事をはじめた頃は不安で不安で。「明日、自分のミスで人を殺してしまうかもしれない」と思いつめていた時期もありました。
ここ最近ではインターネットによるオンライン研修も増えており、現場のスキマ時間でも学びやすい時代になっています。

施設探しのプロに相談
どのような施設にすべきか費用をどのように工面すれば漠然にお悩みの方は、まずは施設探しのプロに相談しましょう。福祉・介護の国家資格取得者が全ての案件を監修している地域介護相談センター 近所のよしみまで0120-110-512まで無料相談してみてください。
おわりに:大切の親を安心して預けるために、虐待の起きない老人ホームを見極めよう
今回の記事の内容
- そもそも虐待って?
- 虐待の種類
- 虐待が起きてしまう原因
- 虐待が起きない老人ホームを選ぶポイント
この世でたった2人しかいない大切な親を、老人ホームに預けるということは一大決心です。
私も親の老人ホームを探す時は本当に苦労しました。
紹介したポイントに加えて現場で働いていることで、職員を見る目が養われていたこともあり、素晴らしい老人ホームに巡り合うことができました。
母は口からものが食べられない状態で病院から老人ホームへ。
お腹から栄養を入れる日々でしたが、入所後にリハビリをして、口からご飯が食べられるようになりました。
父は病院で鼻から栄養を入れていました。
認知症状もあり、管を自分で外してしまうため、やむを得ず身体拘束をされている状態でした。
老人ホームへ入所してからは職員の方が優しく接してくれたため、混乱症状が落ち着き、穏やかに最期を迎えることができました。
本当に両親と関わってくれた老人ホームの職員さんたちには、感謝しかありません。
